EP2. 爛れた彼女たちと生徒会長争奪戦
第一話 新たな火種
五月末に行われたテストの結果が出そろい、総合成績の上位五十名が学年掲示板に張り出されていた。
当然のように一位には
「当然ね。この学校で学べる程度のことなど、中学卒業までに修了しているわ」
順位表を見ながら、優那は涼しい顔でそう言った。
天然の栗色の髪に灰色がかった瞳は亡き母が東欧系のハーフだったことに由来する。
西洋人形かと思うほど整った顔はともすれば冷たい印象を与えるが、これは実際のところクラシックスタイルなツンデレすぎる彼女の性格のせいだった。
本来はどちらかというと無邪気な明るい性格だが、人前だと恥じらいからか悪役令嬢的な振る舞いになってしまうのだそうだ。
また、悪役かどうかは別として、実際に良家のご息女でもある。
優那はその姓が示すとおり、工業製品からIT事業まで幅広く手がける綾小路グループのご令嬢なのだ。
『高校生活だけでもごく普通の青春を送りたい』という彼女のたっての希望を叶えるためにこの市立
「あ、見てよセッちゃん、あたし、三位だよ」
隣に立つ
肩までのショートカットは天然では絶対にありえないほどのマッキンキンで、首には革のチョーカー、耳にはシルバーのイヤーカフスをつけている。
化粧は薄いが、襟元を開くように着崩したブラウスや腰巻きのカーディガン、短めに切り詰めたスカートといったスタイルは完全にギャルのそれだ。
ただ、実際にはただのファッションギャルであり、年齢平均からすると頭半分ほど低い身長もあって背伸び感がすごい。まあ、それも含めて可愛いわけだが……。
というか、深雪とは中学時代のつきあいではあるが、ここまで成績が優秀であったことはついぞ知らなかった。
中学のころは成績が貼り出されるようなこともなかったし、いちいちテストの結果や成績について話をするようなこともなかったのだ。
実は本来ならばもっと上を目指せる学力だったのだろうか。
「まあ、この学校もセッちゃんが受けるっていうから選んだみたいなとこあるしね。あと家からも近かったってのもあるけど」
深雪が俺の腕を持ったままはにかむように笑う。
くそ、何を言えば男が喜ぶかをよく理解してやがるぜ……。
「でも、セッちゃんもアリサちゃんもしっかり上位だね」
「ギリギリと言ったところです。今回は少し時期がいけませんでした。夜毎にエッチなことばかり考えてしまって勉強に身が入りませんでしたので」
半歩後ろに立ちながらそんな卑猥なことを言うのは、
相変わらず、こいつは……。
縁の豊かな黒髪をポニーテールに結わえ、切れ長な瞳には理知的な光を宿している。
身長は女子としてはそこそこ高く、おまけに顔が異様に小さいせいで優那とは別の意味で人形のような印象を受ける。
ただ、見た目の印象に反して中身はただの変態であり、基本的には煩悩の塊だった。
それと、いちおうは優那の専属侍女でもある。
「すべての責任はセイさまにあります。あのような快楽を体に深く刻み込まれては、勉強どころではありません」
ぐぬ……俺にも言い分はあるが、衆人環視の中でこの話題はよくないな。
ちなみに俺と有紗の順位は俺が十二位で有紗が七位だった。
俺たちも優那の希望に合わせてこの学校を受験しているため、学力水準的にはかなり余裕がある。
多少自己学習を怠ったところで、そこまで大きな影響はない。
「あたし、普通に勉強しながらしてたけどなぁ」
何故か自分の左手を見ながら深雪が言った。
いったいナニをしていたんですかねぇ……。
「さすがは深雪さま、敬服に値します。わたしはどうにも左手だとうまくいかなくて……いえ、イケなくて……」
「慣れだよ、慣れ」
言いなおすな、慣れるな。
こいつらさっそく爛れてきたな。
くそ、俺はここからでも健全な学生生活を取り戻してみせるぞ。
こんな変態どもに流されてたまるものか。
「くだらない。いつまでこんなところでボヤボヤしているつもり? 早く教室に行くわよ」
ツンツンモードの優那が気怠げにそう言って廊下を歩き出す。
今の俺の唯一の癒しはひょっとしたらこの状態の優那かもしれないな……。
未だに俺の腕を掴んでいる深雪を引きずりながら、俺は優那のあとをついていく。
その半歩後ろを有紗がついてきて、俺たちはそのまま四人で教室に向けて歩き出した。
——そのときである。
チッ……。
誰かの舌打ちのような声が聞こえた気がした。
聞き違いかもしれないが、気になって声がしたと思しきほうを見やる。
そこには、雑踏に紛れて優那の背中を睨みつける一人の女子がいた。
縁の細い眼鏡をかけた、三つ編みお下げの真面目そうな子だ。
確か、服部とかいったか。
一位の座を優那に奪われて悔しかったのだろうか。
まあ、もし本気で一位を目指していたのだとしたら、先ほどの優那の言い草も含めて決して良い気分はしなかったことだろう。
また面倒ごとの火種にならなければいいが……。
そんなわずかばかりの不安に駆られていると、有紗が横から俺の顔を覗き込んできた。
「もしや、次にこますべき女性でも見つけられたのですか?」
こますとか言うな。今時の子には伝わらんから。
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