第二二話 こんなに気持ちいいの?
「入って入って」
深雪に部屋の中に押し込められる。
部屋の中にはベッドと勉強机の他に本棚や中型のテレビもあって、ラックの中には様々なゲーム機が収められていた。
とくにデフューザーのようなものが置かれているようには見えないが、不思議と落ち着く良い匂いがする。
ベッドの上には大小のぬいぐるみが並べられているが、何故か一様に壁側を向いており、こちらには背中しか見えなかった。何か意味があるのだろうか……。
「セッちゃん、そんなにホイホイついてきちゃってよかったの……?」
カチャリ――深雪の背後で小さく音がする。
え? 鍵、閉められた……?
部屋は明かりがつけられるわけでもなく、カーテンの隙間から差し込む西日がうっすらと室内に陰影を生み出しているくらいだ。
そんな中、深雪がゆっくりと俺のそばまで歩み寄ってくる。
「あたし、諦めないって言ったよね……?」
そう言いながら、もはやなんの
ヤベえ、今回は最初っからブレーキがぶっ壊れてる感じだ。
俺の顎の下に頭を潜り込ませながら、自分の胸を押しつけるように抱きすくめてくる。
くそっ……相変わらず良い匂いがする……。
自宅でわざわざ香水をつけているとは思えないから、そもそもの体臭なのか……?
「ねえ、分かる? あたし、ブラつけてないんだよ……?」
深雪が上目遣いに俺の顔を見上げながら、モゾモゾとさらに強く胸を押しつけてくる。
ぐおお、制服の上からだとさっぱり分からんが、脳が……脳が蕩かされる!
コイツ、すぐそこに優那も有紗もいるって分かってるのか……!?
「大丈夫、声は我慢するから……」
言いながら、じりじりとベッドのほうに押し倒そうと体重をかけてきた。
そ、そういう問題じゃないから!
というか、思ったよりパワーが強い! これが深雪の本気か!
「友達がすぐそこにいるって思うと、逆に興奮するよね……」
こいつ、完全に性癖を拗らせてやがる……ぬあっ!?
しまった! 思っていた以上にガッツリ押し込まれていたようだ。
ベッドの段差に膝裏を取られて本当に押し倒されてしまった。
「あたし、男の子を部屋に入れるのって初めてなんだ……」
それ、今になって言うこと?
まずい、どんどん深雪の顔が近づいてきて……。
カチャリ――ドバーンッ!
いきなり背後で勢いよく部屋の扉が開いた。
「そこまでです」
開け放たれた扉の向こうには
こいつ、ピッキングで鍵を開けやがったのか。いや、助かったが……。
「さすがは深雪さん。わたくしが『友』と認めるだけはありますわね」
その隣には好敵手でも見るかのような目で深雪を見る優那も立っている。
まあそりゃ、いきなり俺たちの姿が消えれば何かしらアクションは起こすよな。
「さすがアリサちゃん……やっぱりそう簡単にはいかないか」
深雪は悔しそうに有紗たちのほうを振り返りながら、しかし、その口許には不敵な笑みを浮かべていた。
「でもね、このまま何もなしで終わるわけにはいかないんだから!」
そして、そのまま俺のほうに向き直ると、おもむろに唇を重ねてくる。
むぐぐぐ、マジかよ。まさかこの流れで深雪とキッスだと……?
時間にしてほんの数秒ほどだろうか。
深雪はバッと俺から顔を離すと、自分からしたにも関わらず
「う、ウソ……キスって、こんなに気持ちいいの……?」
やめろ、そのセリフはちんちんに効く。
しかし、俺の
今度はしっかり俺の頭を抱きしめるようにして、もう完全に本気の口づけだった。
らめぇ……このままじゃ本当に脳が蕩けちゃうよぉ……。
「み、深雪さん、大胆ですわ……っ!」
「さすがでございます。ですが、これ以上はいけません」
有紗がツカツカと歩み寄ってきて、毎度のようにべりっと俺の体から深雪を引っぺがす。
「やだやだー! もっとしたい! まだ舌入れてないー!」
深雪は有紗に引きずられながら幼子のように暴れている。
今回のはさすがに本気でヤバかったぜ……。
舌まで入れられていたら、御珍棒さまが大噴火していたかもしれん。
「深雪さんも本気なんですのね……」
部屋の入口に立ったまま、何故かここにきて優那は複雑そうな表情をしていた。
彼女がこんなふうに思い悩む姿を見るのは珍しい気もする。
「わたくし、どうしたら……」
そして、そう独り言ちながらリビングのほうへと戻って行ってしまった。
明らかにいつもと様子が違う。
深雪について思うところでもできたのだろうか。
これまでは少なくとも俺の童貞が絡まないかぎりは何もなかったように思うのだが……。
まあ、タイミングを見て訊いてみるか。
※
その後、さらに何か一悶着でもあったらどうしようかと少し恐れていたが、俺がリビングに戻ったころには三人ともすっかりいつもの様子に戻っていた。
そのまま和やかな雰囲気の中でフルーツの盛り合わせをいただき、そのあとはリビングにゲーム機を運んでみんなでスマブラやマリパといったパーティゲームに興じて楽しんだ。
深雪の部屋で見せていた優那の思い悩む顔がどうしても頭をちらついたが、けっきょく遊び疲れて解散になるまで、優那が深雪に対して不審な態度を見せることはなかった。
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