第十六話 ふつうのトモダチ
「ユナちゃんって家では普段どんなことしてるの?」
「セイくんの家にいるときはだいたいゲームをしていますわよ。最近は『ユニオンオーバーロード』をずぅーっとやっていますの」
「あ、知ってる! あれってめっちゃ面白いらしいじゃん」
「面白いですわよぉー。ボリュームがすごくて、なかなか終わりが見えませんの」
焼けた野菜や肉にそれぞれかぶりつきながら、優那と深雪が雑談に花を咲かせている。
なんだか優那がこんなふうに女の子と普通の話をしている光景は珍しい。
考えてみれば学校ではあんな感じだし、聞いた話では中学校時代も友達らしい友達はいなかったということなので、深雪のような存在は本当に初めてなのかもしれない。
「お嬢さまがわたし以外の女性とあのように楽しげにお話をされているとは……」
有紗も何か感じ入るものがあるのか、その瞳を潤ませていた。
同い年とはいえ従者であることだし、親心的なものがあるのかもしれない。
「下のほうも潤んでしまったので、あとでお手洗いまでご一緒していただいてもよろしいでしょうか?」
一人で行け。
「はあ……仕方ありません。フランクフルトでも食して
有紗はそう言ってコンロで焼いたフランクフルトを取ると、何故かそれを舌先でねぶりながら上目遣いにこちらを見やってくる。
そのまま根本のほうからゆっくりと舌の腹で舐め上げ、先端を舌先で転がすようにレロレロと舐めると、それから喉の奥に差し込むように深くフランクフルトを咥えこんだ。
そして、やけに艶めいた視線をこちらに送りながら、咥えたフランクフルトをゆっくりと前後、あるいは上下に動かすように舌を絡めながらしゃぶりはじめる。
「なるほど……こんな感じにすると男が
何故か姉貴が真剣な目つきでその様子を観察していた。
こっちはこっちで大人な交流が行われている……?
というか、こんなものを見せられたら俺の御珍棒さまもご立腹してしまうんだが……。
「ふふふ、だんだんシンクロしてきましたね……そこで……あむっ!」
ガブリ! ――と、おもむろに有紗がフランクフルトに齧りつく。
ギャーッ! 御珍棒さまがーッ!
俺は下半身から血の気が引くのを感じて思わず内股になってしまった。
「スケベなことばかり考えているからですよ、セイさま」
「我が弟ながら、情けない……」
有紗には生暖かい視線を向けられ、姉貴には頭を抱えられる。
俺か? 俺が悪いのか?
どう考えてもそう仕向けた有紗に責任があるんじゃないですかねぇ……。
「わたしはいつでも責任を取る準備ができておりますので、必要とあらばすぐにでもお申しつけください」
そういう高度な誘い受けはやめろ。
※
「セッちゃん、ユナちゃんがあっちの河原に行ってみたいってさ!」
食事がひと段落してきたころ、深雪がそんな提案をしてきた。
河原はキャンプ場から少し下ったところにあり、ここからでも利用客の子どもたちが水遊びをしている姿を見ることができる。
このキャンプ場の近くに渓流があることは事前の調べで分かっていたので、優那や有紗は水遊びに備えて着替えを持ってきていたはずだ。
「ここは見ておくから、みんなで行ってきたら?」
ノンアルの缶ビールを空けながら、姉貴が言う。
さすがに車を運転しているので飲酒はできないが、姉貴はノンアルでもそれなりに満足はするタイプなので、放っておいても勝手に一人で飲んでいるだろう。
「どうせだったら着替え持ってくればよかったなー」
四人で河原に向かう道すがら、ウキウキとスキップするような足取りで深雪が言った。
深雪はこういうアウトドアなイベントが好きなのか、ずっと楽しそうにしている。
ギャル感とのギャップがすごい。可愛い。
まあ、ファッションギャルなのであくまで見た目におけるギャップの話だが……。
「わたしのものが何着かありますので、替えが必要になったらお貸しいたしましょう」
「ほんと? ありがとう! でも、アリサちゃんのだとサイズ合わなそうだね……」
深雪がしゅんとした顔で自分の胸を触っている。
身長じゃなくてそっちのサイズなんだ……。
まあ、確かにこの間の下着売り場で見た感じだと、有紗は地味にデカいからな。
「……セッちゃん、あんまりジロジロ見ないでくれる?」
唇を尖らせながら深雪が睨みつけてきた。
くっ……何処まで可愛いんだよ……。
「セイくん、ちょっとミユキさんにデレデレしすぎではありませんか? わたくしもギャルになればもう少しセイくんの視線を釘づけにできるのかしら……」
「ギャルなお嬢様……ありだと思います」
優那に咎められてしまった。浮気な彼氏でスマン……。
あと、有紗はこんなことでいちいち鼻血を出すんじゃない。
「それにしても、これが川のせせらぎというものなんですのねぇ。近くで聞いてみる、心地良いというか意外と騒々しいというか……」
眼前に流れる清流を眺めながら、優那がぽつりとそんな感想を漏らした。
音が大きいのは、下流のほうに小さな滝があるからだろう。
河原の入口には危険だから下流には近づかないようにという看板もあった。
うっかり優那がそちらのほうに行ってしまわぬよう気をつけねば……。
というか、優那は見慣れぬ景色にすっかり心を奪われているようだが、渓流の近くは大小の石が転がる砂利になっているため、かなり歩きにくい。
転んで怪我でもされたら大変だ。
先ほどの件もあるし、ここは彼氏らしくつきそって……。
「ユナちゃん、足もと危ないから一緒に行こ?」
――と、俺よりも先に深雪がごく自然に優那の手をとり、優しく笑いかけながら少し先を歩いていく。
優那は驚いたように目を見開き、言葉を失ったままじっと繋がれた手を見下ろしていた。
まるで小さな王子さまがお姫さまをエスコートしているかのようだ。
なんだったら、先導される優那の頬がうっすらと赤らんでいるようにすら見える。
あれ……? ひょっとして、このままだと深雪に優那を寝取られちゃう……?
「と、
隣では有紗がものすごい勢いで鼻血を噴出していた。
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