第6話 魔力眼

「やっと起きた」


 重たい瞼をなんとか開けると、目の前には無表情の世羅がいた。


「なぁ、これ今どういう状況?」


 俺が今膝枕されているというのは分かる。

 世羅が俺の頭を撫でているのは分かる。

 でも、なぜそうなっているのかが分からない。


 俺は化け物に背中を引き裂かれたはずだ。

 背中に手を回してみると、生地がない部分があるから夢ではない。


 じゃあなんで俺は生きているのだろうか。

 生地がない部分の背中を触ると、傷などなくツルツルしている。

 流石にあれほどの傷を負って、こんな短時間で回復するほど人間の自己治癒力は高くない。異常だ。


「守屋はモフモフになって、黒いの食べたけどお腹空いて倒れた」


 世羅は無表情でそう言った。


 そうかー、俺黒いの食べたんだ。

 黒いのってあれだよね。ライオンに翼付けて黒く染めた性格の悪いやつだよね。

 俺そんなの食べたんだ。

 絶対お腹壊すじゃん。

 ちょっとお腹痛くなって来た気がする。


 世羅と目が合う。

 嘘はついてないように見える。


 実際に俺はモフモフとやらになって黒い獣を食べたのだろう。

 そんな記憶はないが、制服に灰色の毛が無数に着いているし、ステータス画面には『獣化』の文字がある。


 しかし、世羅は何かを隠している。

 確実ではないけど、世羅の言い方が明らかにおかしい。表情からは読み取れないけど、言葉の節々に何かを隠そうという気は読み取れる。


 それに、俺の『獣化』はLv0、つまりバッドスキルだ。真島曰く、バッドスキルは肉体だけでなく精神にも影響を及ぼす。

 それも良い影響ではないことは真島の言い方で分かった。


「本当にそれだけ?」


 世羅の目を見てゆっくりと問いかける。

 世羅の表情は変わらない。俺の頭を撫でる手も止まらない。


「私『獣化』っていうスキルを手に入れた」


 望んでいた答えではないが、それは十分に驚く内容だった。


「魔石使ったの?」


 その言葉は、魔石を勝手に使うなという怒りから来たものではない。単純に心配によるものだった。


 バッドスキルを取得する可能性もある。それにそんな得体の知れないものを使って大丈夫なのだろうか。


「使ってない。守屋が黒いの全部食べたから何も残らなかった」


「え、まじ?」


「まじ」


 俺は食べたと言っても齧るくらいを想像していたけど、何も残らないほど食べたらしい。

 しかも魔石も食べたという話だ。

 真島は魔石を情報の塊だと言っていた。

 じゃあ、それを食べたらどうなるのか。


 俺は急いでスマホを確認する。

 正確に言えば、Mシステムとやらにハッキングされたスマホに映るステータス画面を、だ。


 ——————————

 モリヤ シドウ


 Lv6


 スキル

『敏捷』Lv1

『獣化』Lv0

『魔力眼』Lv1


 ——————————


「うーん」


 魔石は食べてもスキルを取得できるというのは判明した。

 だけど新たに手に入れた『魔力眼』が新しい悩みの種を生んだ。


「どうしたの?」


 世羅が唸る俺に聞いてくる。


「『魔力眼』ってスキルが手に入ったんだけど、使い方が分からないんだ。多分目に関係するものなんだけど、特に今は効果現れてなさそうだし、何かスイッチ的なものがあると思うんだけど……」


 分かりやすく説明とかしてくれないから使い方が分からない。『敏捷』は勝手に発動していた気がする。

 発動条件とかはスキルによって違うのだろうか。


「スキルの名前叫んでみたらいいんじゃない?」


 それは少し恥ずかしいけど、他に方法は無さそうだからやってみることにした。


「魔力眼」


 そう呟いた瞬間、世界の色が変わった。

 正確には全体的に色彩が落ち、たくさんの細い線が見えるようになった。


 その線は波のように動いていた。

 線はカラスの羽らしきものから伸び、俺と世羅に纏わりついている。

 カラスの羽は恐らくあの化け物の残骸だろう。カラスの羽にしたら大きすぎる気がする。


 そんな大きなカラスの羽を注視すると、更に細い線が伸びていることに気づいた。

 その線は他の線よりもピンと伸びており、波打っていない。そして、線の先には——


「橘のこと忘れてた……」


 ——橘が倒れていた。


 慌てて駆け寄る。

 しかし、直ぐに違和感に気づいた。

 橘の背中に傷がない。

 俺と同じように血が止まり、皮膚は綺麗に繋がっていた。


「橘さんは守屋が起きるちょっと前にはこんな感じだった」


 世羅がゆっくり歩いてくる。


「そうか……俺と同じ原理か? それとも別の要因があるのか?」


 悩んでも仕方ないと思い、学校へと向かうことにした。

 橘は俺が背負うことが決まった。

 重くなった背中と、レジ袋を億劫に思いながら、学校へと歩いて行く。


 赤い空ではなく、澄んだ青の空の下で。


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