第5話 セラ シズク
少女は小さいときから、感情を表に出すのが苦手だった。
別に何かあったわけではない。ただ、そういう子だったというだけだ。
少女は親からあまり可愛がられなかった。
だから、公園によく1人でいた。
その公園には、もう1人小さな少年がいた。
その少年も保護者の姿がなく、夜遅くまで公園でブランコに座っていた。
少女と少年はしばらく関わることがなかった。
だけど、公園を遊び尽くして退屈になれば次第に関わるようになる。
お互いを新しい玩具として楽しんでいた。
これまで親以外とは関わることのなかった人間という玩具。
それは2人を非常に満足させた。
2人は小学校も一緒だったが、学校ではあまり交わることがなかった。
同じクラスではないというのもあるが、少年に幾らか友達がいたことが原因だ。
少女には友達がいなかった。少女の顔は表情に乏しく、あまりコミュニケーションが得意ではなかったため、上手く関係が構築できなかったのだ。
少女も最初は我慢できた。夜の公園で遊ぶことは続いており、遊び足りないということはなかった。何よりも少女は孤独に慣れていた。
だけど、少女は一度少年という甘美を味わってしまっていた。
少女は次第に我慢ができなくなっていく。
少女を縛っていた鎖が一つづつ解かれていき、少女は自由になった。
少女はある日、少年を連れて夜の街に出て行ってしまう。
怪しく光る電灯を面白がりながら、仲良く手を繋いで歩いていた。
しかし、暗闇から化け物が現れた。
そこからの記憶はあまりないけど、少女は少年が守ってくれたと薄々感じていた。
少女は少年を危険に晒してしまったことを後悔して、少年と関わるのを止めた。
自分の存在が少年の害になってしまう。そう少女は重く受け止めた。
少女と少年は成長していく。
それと同時に、お互いへの執着は消えていった。
それでも、少女は少年の志望校と揃えて同じ高校に進学した。
特にこの行為に理由はなかった。
少なくとも少女はそう考えている。
高校2年生になると、同じクラスになった。
少年は友達に囲まれることはなかったけど、学校生活を十分に満喫しているようだった。
少年の生活を眺めるのが、少女の密かな楽しみの一つになっていた。
少年もよく自分を観察しているのを知っていたから罪悪感はない。
そんな日常は担任の一言で非日常に変わった。
世界が滅ぶらしい。
別に世界が滅ぶのはいいけど、少年との日常が壊されるのは嫌だ。
少女は本気でそう考えていた。
少女はその考えを直ぐに撤回した。
少年を近くで見れる機会に恵まれた。
それだけで世界が滅ぶのも悪くないと思えてしまった。
しかし、少女は絶望した。
少年が自分の身代わりになった。
少年が動かぬ屍になってしまった。
自分が死ねば少年は助かった。
自分が少年を殺したようなものだ。
少女は生きる気力を失った。
迫り来る化け物に殺されるのは嫌だけど、少年のいない世界を生きるのはもっと嫌だ。
そう思っていたのも一瞬で、少年が姿を変えて助けに来てくれたのを見て、そして、自分を食べようとしてるのを見て、少女は喜んだ。
少年が自分を求めている。
少女は顔を赤く染めた。
少女は、目の前の毛皮に覆われた化け物を愛していると、自覚してしまった。
化け物となった少年に喰われるのは、とても痛く辛いものだったが、彼の一部になれると思えば嫌ではなかった。
結局、少年は途中で食べるのを止めたけど、少女は自分の膝の上で眠る少年の寝顔を見て、生きていて良かったと思えた。
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