第2話 赤い空
「本当に空が赤くなっていく·····これは滅亡の前兆らしい。もう疑う余地がないから職員会議で決まったとおりに行動する。まず敏捷と防御を持ってるやつ手を挙げろ。……12人だな、お前らは食料調達だ。4人一組になって近くのスーパーとかコンビニを回れ。缶詰とかそういう保存の効くもの優先だ。後で金を渡す。グループが出来たら私に伝えに来い。出来るだけ早くしろよ。化け物がいつ降るか分からないからな」
真島が早口で伝える。
話の途中、なんで敏捷と防御なんだと疑問に思ったが、最後の真島の言葉で少し理解できた。化け物が降ってくるんだ。そりゃあ生き残る可能性が高い敏捷と防御を向かわせるよ。
化け物が降るって意味分からないけどさ。
俺は近くにいた4人でグループを組むことにした。男子2人、女子2人だ。女子の片方は、学級委員の橘だ。
残りの2人はあまり関わったことがないが、苗字は辛うじて覚えており、田村と世羅だったと思う。田村が男子、世羅が女子だ。
田村は確かバスケ部で、背は高く筋肉が程よく付いている。性格は我が強く俺は苦手なタイプだが、友達が多い。それとは対照的に、世羅は小さめでスレンダーという言葉が似合う。世羅はいつも無表情で何を考えているのか分からないため、クラスで少し敬遠されている節がある。一応俺は小中高と同じ学校のため幼なじみというやつだが、ほとんど話したことはない。理由は特にない。
田村と世羅は防御スキル。俺と橘は敏捷スキルを持っている。
そのパーティー構成を担任の真島に伝えると共に、お金を貰う。封筒で渡され、中には10万が入っていた。こんなに貰ってもいいのかと聞くと、「こんなもの直ぐに紙切れになる。滅亡前に有効的に使わなくてはならないから気にするな」と言われた。真島らしくもあるが、それと同時に、現実主義者である真島が滅亡という非現実的な言葉を使うのには違和感があった。
「にしても、真島センセイもよくこんな手の込んだイタズラをするな」
田村が突然、そんなことを言い出した。
学校を出た後だからその場に真島はいない。
だから、橘が代わりに反論する。
「真島っちの言ったこと疑ってるの?」
「当たり前だろ。俺は授業をサボれると思って話を合わせてただけだ。もしかして、世界が滅ぶなんていう馬鹿げた話本気で信じるのか? 橘がそんなアホだとは思わなかったよ」
ふん、という馬鹿にした鼻息を吹き出す。
「私は確かにアホだけど、真島っちが嘘ついてないってことは分かったよ。スマホの変な画面見たでしょ。あれを見ても嘘だと思うの? 真島っちが全員のスマホをハッキングしたって考えてるの? そんな訳ないじゃん。それに、見てよこの赤色の空。私はこの不吉な空が何よりもの証拠だと思う」
語気をだんだん強めながら言う。
「へいへい」
田村がダルそうに顔を背けた。
橘は走りながら、延々と続く空の端を見つめる。俺もつられて視線をそっちにやる。
確かに不吉だ。だけど、俺には綺麗にも見える。夕暮れより赤く、血よりも赤いのではないかと思える空。滅亡の空に相応しいと言える。
現在、4人で近くのスーパーに向かってゆっくりめに走っている。敏捷スキルを持つ俺と橘が後ろの2人を先導する形になっていて、チラッと後ろの2人を見ると、田村は大丈夫そうだが、世羅は少し息が切れ始めている。
体力を少し余らせながら走るつもりでゆっくり走っていても、普段運動しない世羅にとってはキツかったのだろうか。
それなら同じく帰宅部の橘はなぜ余裕そうなのだろうか。単純に体力があるのか。それともスキルが体力にも影響を及ぼしているのか。
考えても分からないが、獣化スキルというバッドスキルを持っている俺はスキルについて知らないといけない。
「やっと着いたー」
橘の気の抜ける言葉で現実に戻る。
いつ間にか目の前にスーパーがあった。
この調子ではダメだな。考えるのは後だ。今は食料調達だけに集中する。
「缶詰コーナーはここだね」
スーパーの丁度真ん中辺り。インスタントカレーなどと同じ場所に置かれていた。
橘はスキップをしそうなほどルンルン気分で歩く。
橘はさっきの言い争いが嘘のようにいつも通りだった。
「とりあえずカゴにどんどん入れていこ。値段は気にせず、美味しそうで量があるものをいい感じにね。カップラーメンとかカレーとかも入れてよ」
橘の言葉と同時に俺たちは缶詰などを漁り始めた。周りの他の客には大変不思議な光景に見えているようで、たくさんの視線を感じる。
スーパーに来て分かったことだが、特に品不足でもないし、雰囲気も日常と変わらない。つまり、他の人は滅亡のことを知らないのではないか。
そんな考えが生まれる。
実際、このスーパーへ向かう道中ネットで滅亡について検索してもそれらしいものは無かった。
もしかして俺たちだけがこの話を知っているのではないだろうか。
それならば、なぜ職員会議で真島は滅亡について知ることになったのか。
考えても無駄だと分かっていても、疑問が幾つも浮かんでくる。
ぐぅぅ。
俺のお腹から情けない音が鳴る。
近くにいた世羅は、いつもと変わらず無表情だが、少し笑っている気がする。
「これくらいで良いかな」
橘がみんなに宣言するように言う。
10数分かけたことにより、缶詰とかが大量に入ったカゴが3つできていた。
そのカゴを持ってみると、腰をやってしまいそうなほど重く、持って帰ることに不安を感じる。
カゴは男子2人と橘が持つことになり、世羅は手持ち無沙汰で少し気まづそうにしていた。
田村はバスケ部だから筋肉もあるし持てることに何も違和感がないのだが、橘が余裕でカゴを持っていることに凄い違和感を感じた。
もしかして敏捷スキルには筋力増加の効果もあるのだろうか。それなら最強スキルだと思う。
しかし、橘が学校でゴリラだとか煽られていたのを思い出す。単純に橘が凄いだけだった。敏捷スキル最強説は消え去る。
会計を終え、レジ袋に缶詰たちを詰める。
2人はポンポンと素早く詰めていくのに対して、俺は不器用を発揮し、手持ち無沙汰な世羅に手伝ってもらうことになってしまった。
世羅は無表情で入れていくので話しかけずらく、俺と世羅の間に会話はない。
世羅はもうちょっと表情豊かならモテると思うんだけどな。
一応幼なじみのため、そんなことを思ってしまう。
実際世羅は顔が整っている。少し幼く見える顔立ちだが、それも一つの魅力だと思えばモテない理由が無表情以外見つからない。
その点、橘はよくモテる。表情豊かであり、ギャル要素と真面目な学級委員とのギャップもある。あと単純に可愛い。
俺はそんなことを考え、橘たちの方をチラッと見る。
2人とももう詰め終わる寸前だった
「守屋遅ぇな。置いていくぞ」
「田村口悪いよ。守屋くんたち、ゆっくりでいいからね」
橘は諭すようにに言う。
橘は見た目とは裏腹に、誰にでも優しい。
だけど、今回はそんな優しさに甘えたらダメだと思った。
急いでレジ袋に大体の缶詰たちを詰め終える。
袋に入らなかった缶詰を無理やりポケットに詰め込んで、出口へと向かった。
前列に橘と田村、後列に俺と世羅の2人が並んでいる。
「しっかし、本当に天気悪いな。真島センセイのホラ吹きの信憑性が上がるな」
田村がふざけた調子で言う。
「田村まだそれ言ってるの? そろそろ私も怒るよ」
「橘は本当、真島センセイ好きだな。あいつはああ見えて既婚者―――何だ、あれ」
田村の声のトーンが変わる。
異変を感じて、俺も田村と同じ赤い空の方向を見る。
すると、何か黒い点がこちらに向かって来ているのを見つけた。
何かやばい気がする。
理性からではなく、本能から来る恐怖が警鐘を鳴らす。
ブォォォォンという飛行機が近くで飛んだような轟音が耳に届く。
そして、ズドンという地面の振動を感じた。
「ヴギ」
田村が変な声と同時に弾けた。
そして、田村だったものを踏みつけた獣が叫ぶ。
グゴォォォゥゥッ。
腹の中が飛び出しそうな鳴き声のあと、一拍の静寂が生まれ、そして大混乱が生じた。
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