化け物が降る世界のラブコメ〜化け物を喰らってスキルを手に入れたらモテ期到来しました〜

真田モモンガ

第1話 異常

「死にたくなければスマホを手放すな」


 担任がそう言い放つ。

「死」

 いつもの日常で、生徒の模範となるべき教師がそんな言葉を使うことはあまり無い。


 しかし、担任は堂々と言った。

 担任は生物を担当している研究者気質な男で、普段そんな冗談を言うタイプでは無い。

 担任は白衣を着た姿で、教壇に立っている。


「真島っち、いきなりどーしたの?」


 おちゃらけた雰囲気の橘が困惑顔で聞く。

 これでも一応学級委員だ。


「さっきの職員会議でな、面倒なことを知ってしまった。単刀直入に言うと、この世界滅ぶらしい」


「は?」


 俺の声と、クラスメイトの大多数の声が重なる。

 みんな抱いている気持ちは同じだろう。


「真島っち壊れちゃった?」


 クラスの声を橘が代弁してくれる。


「壊れてなどいない。私も今夢を見ているのではないかと思っている。だが、生憎痛みもしっかりあったので現実だと仮定して行動する。まずスマホを出せ。さっきも言ったとおり、これからはどんな時でもスマホを身につけろ」


 真島は凄い剣幕で念を押す。

 何か理由でもあるのだろうか。


「今お前らのスマホの画面にはMシステムという文字が映し出されているはずだ。その文字の下に起動というボタンがあるからそれを押せ」


 俺のスマホは確かにMシステムと、起動という文字を映し出している。

 どういうことだ。ハッキングされているのか?


「うぉ、すげぇ」


 隣の男子が呟く。

 確かにこれはすごい。


 起動のボタンを押したあと、数秒のアニメーションが終わると、俺の名前付きでゲーム画面のようなステータスが映し出されたのだ。


 ――――――――――


 モリヤ シドウ


 Lv1


 スキル

『敏捷』Lv1

『獣化』Lv0


 ――――――――――


 俺のステータス何かおかしくないか?

『獣化』っていう名前も気になるけど何だよLv0って。『敏捷』はちゃんとLv1だろ。もしかして、そういうものなのか? それとも、それだけ弱いってことか?


「私はあまりRPGなどのゲームをしないから詳しくないのだが、これはステータスと言う。スキルの欄には既に1つスキルがあると思う。『筋力』『耐久』『敏捷』『器用』『魔力』この5つの内いずれかのはずだ。もし違うやつがいれば挙手してくれ。情報はいくらでも欲しい」


 真島の今の発言で分かった。『獣化』がそもそもおかしいんだ。本来のところ、最初は1つしかないスキルの欄に俺は2つある。しかもその片方のスキルは真島の言った5つの内どれでもない。


 俺は教室を見渡す。

 誰も挙手などしていない。

 俺以外に、このクラスでは真島の言う5つのスキル以外を持っているやつはいないのだろうか。

 それとも、俺と同じで様子を伺っているのか。

 分からない。たが、ここで不用意に挙手するのが悪手だというのは分かる。

 誰もこの状況を正しく認識できていないのだ。未知というのは恐怖と同じだ。

 こんな状況でみんなとは違う俺という存在が現れたらどうなるのだろうか。ヘイトを集めるのか。それとも頼られるようになるのか。

 いずれにしろ面倒なことになるのに違いは無い。


 周りは真島の話を聞きながらも、ステータスを見せ合って談笑を始めている。

 既にクラスの雰囲気は修学旅行と大差ない。

 当たり前だ。世界が滅ぶと言われても実感は湧かないし、窓から見える外の景色はいつもと同じだ。


 俺たちのような高校生にとって、ステータスは新しい玩具なのだ。


 しかし、俺からしたらこの状況は怖い。

 俺だけおかしなステータスを持っているのだ。

 みんなとは違う。それだけで大きな恐怖だ。それなのに、真島の言葉が耳に入ってしまった。


「新しいスキルは、化け物の腹の中にある魔石というものをスマホに当てたら手に入るらしい。魔石は情報の塊なんだとよ。あぁ、だがこれだけは注意してくれ。Lv0のスキル。これはバッドスキルというデメリットを持つスキルだ。肉体だけではなく、精神にも影響を及ぼす」


 それとなく言われたバッドスキル。

 俺にとってそれは今日一番の衝撃だった。

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