第5話 ただいま密着尾行中!
ラブホテル街の時とは打って変わり、ここは人通りの少ない公園。そのため喧騒も遠くから聞こえるだけで、やや落ち着いてきたと言えるだろう。
そんな中、探偵と見習い君は相変わらず密着したまま腕を組んでいる。カップルのフリを継続しているというわけだ。
前方にはターゲットたち。
ここは公園の遊び場を取り囲むようにして遊歩道が設けられているのだが、ターゲットたちは相変わらず体を密着させながらゆっくりと歩いているのだ。
時折、夜風が吹いて気持ちがいい。
もしかすると火照った体を休めるためにここへ来たのかもしれない。
ただ、女は男の肩にしなだれるようにしてもたれかかっている。その姿を見る限りでは、少なくとも女の方はまだまだ熱は冷めやらない様子のようだった。
探偵と見習い君はそんなターゲットたちの後を歩きながら、つかず離れずといった感じで適度な距離をキープしながら尾行しているというわけだ。
今のところ、探偵や見習い君の気配に気が付かれている様子はない。それでも注意深く、2人にしか聞こえないボリュームの声で話をする。
「君はさぁ。このままターゲットたちがそれぞれの家に帰ってくれたらいいな、なんて思ってるわけ?」
どういうわけか、探偵はやや不満げに頬を膨らませているのだ。
「へぇ、そうなんだ。さっさと片付けて、早く帰りたいんだ……」
公園内に転がっていた小石を蹴飛ばす。
「で、早く帰ってどうすんの? 彼女もいないのに」
「え? 別に怒ってないけど」
「怒ってないって言ってるでしょ! なんで私が怒んなきゃなんないのよ!」
「わかってるわよ! 私がターゲットに気が付かれるなんてヘマをするわけないでしょ! 誰だと思ってんのよ!」
そう言って探偵はソッポを向いてしまう。
すると探偵と見習い君の進行方向で、急に騒がしくなる。
酔っ払いの集団だ。
全員で5人いる。肩を組み、ずいぶんとご機嫌だ。
前を向くターゲットたちが絡まれている。それを男が追い払う。
「目を合わせないようにね」
探偵が小声で囁く。
足早に通り過ぎようと、歩く速度を上げる。が、探偵と見習い君たちとすれ違う瞬間──冷やかすような声や指笛が。
「絡まれたら面倒だから、早く行くよ」
酔っ払いたちの大声が響く。
そして酔っ払いの1人が、探偵の腕をつかむ。
「ちょ、ちょっと離してもらっていいですか! 警察呼びますよ!」
「はあ? そんな格好をしてる方が悪いって……」
探偵はムッとしたように声を荒げる。
「アンタたちに見せるために着てるんじゃないんですけど。見たくないなら目をつぶってれば」
「アバズレって──」
見習い君が酔っ払いを突き飛ばす。酔っ払いたちが一瞬だけ騒然となる。が、すぐに騒がしくなるのだった。
「何してんのよ!」
探偵は見習い君に向けて叱責。だが、すぐに見習い君が探偵の手を取る。
「ちょ、ちょっと見習い君! 離しなさい!」
見習い君は探偵の手を取ったまま走り出すのだった。
後方から酔っ払いたちの怒号。
それでも見習い君は足を止めない。
しばらく走った後、2人の荒い息づかい。
あたりは静か。
虫の音が聞こえる。
「何やってんのよ! あれだけ目立たないようにって言ったのに!」
「まあ……向こうが先に私の腕をつかんだんだけど──」
「でもね、探偵なんてやってたら、こんなのよくあることなんだから。冷静に対処する方法を覚えないとダメじゃない!」
「え? 私が侮辱されたから?」
「……ありがと。助かった……」
ホッとした後に、クスクスという探偵の笑い声。
「もしかしてこれで不採用になるかもしれないって頭抱えてるわけ?」
「大丈夫だよ。このことは内緒にしてあげる」
「ホントだよ。アレは私を助けようとしてやったことだしね。ただし、もう暴力はナシね。約束できる?」
「え? ああ、ターゲット見失ったちゃったねぇ」
また探偵の笑い声。
「だからいちいちショゲないでよ。大丈夫だよ」
ポケットからスマートフォンを取り出して操作する。
「これ、ターゲットのGPSの位置情報ね」
「いつの間にって……そ、それは並んでイチャついてた時に、男のスーツの上着のポケットに仕込んだのよ」
探偵はドヤ顔を見せ、得意げに言う。
「これがデキる探偵なのよ。驚いたでしょ。さあ、ターゲットたちを追いかけるよ!」
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