★3★ お昼下がりのランチタイム
最難関の迷宮を踏破して探索者ライセンスが最高の満天星になった私だけど、そのせいでとんでもないことに巻き込まれちゃったよ。
まさか、次期国王を決める継承戦に参加することになるなんて思ってもなかった。
とりあえず話が終わったし、やっとランチが食べられるよ。
ああ、ホント長かった。長かったよ。
でもこれでやったランチが食べられる。
時間的にはもうお菓子を食べてもいいような時間帯だけど、どうでもいいや。
さ、さっさとパスタを食べに行こうっと。
私は先生と共にギルドを出て、いつもご飯を食べているカフェへ向かった。
ああ、お腹が空いた。
お腹が空きすぎてフラフラする。
うう、人の頭が美味しそうなお饅頭に見えるよ。
あ、あれ肉まんかな?
あ、あっちは餡まんにも見える。
食べたい。今すぐにでもご飯が食べたい!
「お、ニーナじゃん。どうしたの、鬼の形相をしてさ」
私が空腹に苦しんでいると肉まんが声をかけてきた。
ああ、誰だろう。お腹が空きすぎて肉まんにしか見えないよぉー。
うぅ、ご飯。美味しいパスタ。肉まんでもいい。
早く、早く何かを食べたい。
私は目の前にある肉まんに噛みつこうとした。
だけど、あまりにもお腹が空きすぎてか足がもつれ肉まんに向かって倒れてしまう。
「おっと。大丈夫、ニーナ?」
肉まんは私の身体を難なく受け止め、声をかけてくれる。
だけどもう私のお腹は限界だ。
だから、私はよだれをダラダラと垂らしながら残っている力を振り絞って言葉を放った。
「お、お腹、空いた……」
「へ?」
こうして私はいつもご飯を食べているカフェへ搬送される。
ランチタイムは当然のように終わっていたけど、普段食べられない美味しいカルボナーラにありつくことができたんだ。
これはもう持つべき友に助けてもらえたからだね!
「おいしぃぃぃぃぃ!」
「ったく、なんで朝からご飯を食べてないのよ。そんなことしてたら死んじゃうわよ」
「だって先生がー」
「もっと自分の意志を持ちなって。そんなんだからいいように使われてるのよ?」
肉まん、いやこの赤い髪をツインテールにしている女の子は友達のライア。
私の頼れる仲間でもあって、困った時には的確なアドバイスをくれる
普段から黒いワンピースを着ていて、低いバイタリティを補うためにいろんなアクセサリーを装備しているの。
そのおかげかちょっと煌びやかな雰囲気があって、私よりオシャレでかわいい子なんだ。
「それにしても、ホントにあの迷宮を踏破してきたの? とてもそんな風には見えないんだけど」
「うーん、正確にはちょっと違うんだけどね。あ、あの迷宮にはドラゴンがボスとして待ってたよ」
「うっそ! それガチの情報!?」
「うん、ガチだよ。そのドラゴンからツメをもらったんだ。そのままギルドに持っていったらランクがなんか満天星になっちゃった」
「はぁぁぁっ?」
当然のように驚かれちゃった。
まあ、そう言われた私も驚いたんだけどね。
「ったく、アンタはいつも驚かせてくれるわね。ついこの前までは右も左もわからなかったペーペーだったのに」
「えへへ。全部先生のおかげだよ」
「ふーん、だって。ならもっと弟子を大切にしてあげなきゃいけないわね、ハト先生」
「大切にするのと甘やかせるのとは違うッポ。これからもビシバシ鍛えてやるッポ」
「あら、大変ねニーナ。先生はもっと厳しくするって」
「えー!」
先生のバカ、鬼、悪魔!
これ以上厳しくされたら私、死んじゃうよ。
私はちょっとむくれながらカルボナーラを啜っていく。
ああ、おいし。結構お腹がいっぱいになったし、やっぱりここのパスタは最高だよ。
「あ、そうそう。実は満天星になってとんでもないことに巻き込まれちゃったんだ」
「とんでもないこと? 何それ?」
「えっと、それはね――」
「ニーナ」
私が何も考えずに王位継承戦について話そうとしたその時、先生に止められた。
私は思わず視線をテーブルの上で丸まっている先生に向けると、囁くような声でこんなことを言われる。
「暗殺については伏せろッポ」
「え? どうしてですか?」
「口外にされていない情報だッポ。下手にそれを出せば、ワシでもお前を守れなくなるかもしれないッポ」
よくわからないけど、ライアには話さないほうがいいってことか。
ひとまず先生の言う事を聞いておこう。
「どうしたのよ? もしかして言えないこと?」
「あ、ううん。その、実は第三王女のフィオ様って人にクエストを頼まれちゃったんだ」
「フィオって、確か隣国の王子様との婚約が破棄された人だったわね」
「え? そうなの?」
「そうなのって……まあ、アンタが世間に疎いのは今に始まったことじゃないか」
ライアがとても残念そうに息を吐いている。
むぅ、そんな反応をしないでよ。
時間がないからニュースを見てないだけだし、それにこの設定はゲームやってた時にはなかったんだし。
「ま、その人に国王になりたいから手伝ってって言われたのね」
「そんなところ」
「アンタも大変ね。私だったらそのクエスト、断ってるわよ」
「それが、ギルドマスターにゴリ押しされちゃって断ろうにも断れなくなっちゃって……」
「不憫ねぇー」
私自身もそう感じちゃうよ。
それにしても、婚約破棄かぁー。
どうしてそんなことになっちゃったのかわからないけど、実際にそんなことされたらすごいショックかもなぁー。
私は少し憂いながらも少なくなってきたカルボナーラを頬張っていく。
そういえば一番国王に近かった第一王子ってどんな人なんだろ?
ふと浮かんだ疑問に私は好奇心を抱く。
なんとなくそのことについてライアに訊ねてみると、思いもしない言葉が返ってきた。
「え? アンタ、レオナルド王子のことも知らないの!?」
「えへへ。だから教えてほしいんだけどいいかな?」
「アンタねぇ……まあいいわ。いい、レオナルド王子は今、王国にはなくてはならない人なのよ」
「そうなんだ。どうしてそんなに重要な人なの?」
「理由はいろいろあるけど、挙げるなら二つね」
「二つ?」
「そっ。まずは人気ね。ルックスに立ち振舞、あとは素敵な笑顔からの優しい言葉が最高なの! もう理想な王子様って言ったらレオナルド様と言えるほど素敵な人なのよ!」
「そ、そうなんだ。それで二つ目は?」
「判断力かしらね。彼が取る選択はすごくて、時には国を揺るがす事件を解決してるの。そんな出来事の中だと外国との衝突で起きそうだった戦争を回避したのがすごかったわ」
「へぇー、すごく頭が切れる人なんだ」
「人気もあって、国の有事にも対応できる。まさに王様になって欲しい人って感じよ」
「ふーん」
とてもすごい人なんだ。
そんな人が暗殺されたのか。
誰がそんなことしたのかわからないけど、確かにレオナルド王子がいたら王様にはなれないかもね。
「それにしても、アンタなんでレオナルド王子に興味を持ったの? というかどこで王子のことを知ったのよ?」
「え? えっと、それは……」
「ワシがもっと勉強しろと言ったんだッポ」
私がライアの質問に困っているとポッポー先生が助け舟を出してくれた。
ああ、頼れる先生がいてよかったよ。
「ふーん、なるほどね。ま、勉強することはとてもいいことだしね」
「そ、そうなの! アハハハハッ」
どうにか誤魔化せた。
でも、どうにか欲しい情報を手に入れられたかな。
ご飯を食べていい感じにお腹が膨らんだし、そろそろ探索の準備をしようっと。
次の探索は特別なクエストでもあるし、準備は入念にしておかなきゃね。
「支払いは私がしてあげるわ、ニーナ」
「え? なんで?」
「満天星になったお祝いよ。今日は黙って奢られなさい」
わーい!
満天星バンザーイ!
私はこうしてライアに満天星のお祝いをしてもらった。
思いもしないお祝いだったけど、おかげでランチ代が浮いたよ。
さて、フィオ王女のためにもしっかり準備しなくちゃ。
ギルドのためにも頑張るぞー!
そんなことを思いながら私は探索の準備を始める。
通い慣れた道を歩き、いつもお世話になっている雑貨屋さんに向かっていく。
そこで、思いもしないことが待っているなんて私はまだ知る由もない。
ゲーム世界転生したゆるゆる少女は追放王女を王様にするために追憶迷宮を攻略する 〜詩詠み探索者の夢想曲《トロイメライ》〜 小日向ななつ @sasanoha7730
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