★2★ 思いもしない冒険への誘い その2

 この綺麗な人達は誰だろう?

 そんなことを思っているとギルドマスターがため息をついた。


 ちょっとだけ面倒臭そうな顔をするけどすぐに笑顔に変え、立ち上がってこんな挨拶をした。


「これはこれはフィオ王女。まさかこの小さなギルドに足を運ばれるとは思いもいたしませんでしたよ」

「前置きはいらないわ。要望は一つ。ここに所属する最高の探索者を貸してほしい」


 え? この人、王女様なの!?

 じゃあ、ギルドから見える王城に住んでるってことだよね。

 きゃー! 私、初めて生でお姫様を見ちゃったよー!


「光栄ですが、なぜ人手がほしいのでしょうか? 我がギルドは弱小の部類に当たります。他に有望なギルドが存在しますうえ、そちらに当たられたほうがよろしいのではないかと?」


 なんだか難しい言い回しをギルドマスターがしている。

 もっと簡単に言葉を伝えたらいいのに、って考えていると後ろに立っていた黒い女騎士さんが前に出て口を開いた。


「火急の用だ。詳細は話せん。それにこれは王女様の命令でもある。逆らえば逆賊として捕らえることも可能だ」

「逆らうなんて滅相もございません! ですが、私はこう見えても小さいながらも組織の長であります。人を、しかも有望な者を動かすとならば相応の理由を立てなければなりません」

「くどい。さっさと何も言わずに探索者を貸せ! さもなければ――」

「アンジェ、やめなさい」


「ですが姫様!」

「こちらが頭を下げなければならない立場です。だから下がりなさい」


 フィオ様の言葉を受け、黒い女騎士は頭を下げる。

 でもちょっと根に持っているのか、ギルドマスターを睨みつけながら後ろへ移動した。


 そんな黒い女騎士を見てフィオ様は改めて頭をギルドマスターへ下げる。

 そして、謝罪の言葉を口にしてからこんな言葉を放った。


「改めて非礼を詫びるわ。できれば彼女のこと、許していただける?」

「いえ、こちらもしつこく聞いてしまいましたからね。お許しください」

「わかりました。そうね、これから説明することを外部に漏らさないのなら話すわ。いい?」

「承知いたしました」


「なぜ突然ここに訪問したのか。そしてどうして優秀な探索者を必要としているのか。その理由は二つある」

「二つ、ですか」

「一つは王位継承に関して。我が父、いえ国王が病に倒れたという話は聞いているわよね?」

「噂では。そうですか、あれは本当でしたか」


「ええ、本当よ。国王は己の命がもうじき尽きると悟った。だから次期国王を決める継承戦を始めると宣言したの」

「継承戦?」

「簡単に話すなら、とある迷宮に眠る財宝を手に入れた者を次期国王とする、と宣言したの」

「なるほど、だから探索者が欲しいのですね」


「そっ。でも私は序列が一番下。他の候補者よりも権力が弱いの。だからあなたのいう弱小ギルドに頼りにきたってことよ」


 ううん?

 なんだか難しい言葉が使われててよくわからないよ。


 えっと、つまりどゆこと?


「ニーナ、お前理解してるかッポ?」

「全然です。先生は?」


「お前よりはしているッポ。ま、そうだなッポ。簡単に説明すると、あのお姫様は立場が弱いから、同じように弱い立場のギルドと協力して目的を達成したいって言ってるんだッポ」

「へぇー、そういうことなんだー」


 さすが先生。

 あの小難しい話を理解できるなんてあったまいー!


「なるほど、それが一つ目の理由ですか。それで、二つ目はどういったものでしょうか?」

「私の目的は次期国王になる以外にもあるということよ」

「ほう?」

「そうね、これは一切口外されてない話なんだけど」


 フィオ様がそう言葉を切り出すと黒い女騎士が思わず身体を乗り出した。

 だけど、フィオ様は躊躇うことなく続きを言葉にする。


 それは衝撃的なものだった。


「私の兄、いえ第一王子のアルベールが暗殺された」

「暗殺……!?」

「私は兄妹の誰かがその指示を出したと思ってる。だから、その犯人を探しているの。でも、継承戦もあって犯人探しに集中ができない。だから、このギルドの最高な探索者が欲しいのよ」


 話を聞いていたギルドマスターは鋭い目に変わる。

 寝ているふりをしていた先生は面倒臭そうに息を吐き出し、黒い女騎士は頭が痛そうにしていた。


 ハッキリとはわからないけど、あまりいい状況でないことだけは伝わってくる。


「それはそれは、とんでもない状況ですね。わかりました、では我がギルドの最高な探索者を紹介しましょう」

「お願いするわ」

「あ、もう目の前にいますよ」

「え?」


 ギルドマスターはそう告げると私の後ろに回り込み、両肩に手を置いた。

 そして、とびきりの明るい声でこんな宣言をする。


「たった今、満天星になった駆け出し探索者ニーナです! この子を推薦しましょう!!!」

「え、えーーー!!?」


 私は直感的に感じ取ってしまった。

 ギルドマスターに、面倒ごとを押し付けられたって。


「その子が、最高の探索者?」

「そうです! 将来的にも有望であり、本日最難関の迷宮を踏破した実力を持ち合わせています! まだ誰にも唾をつけられていないのがミソですね。今ならお好きなように使えますよ?」


「ちょっ、ちょっと待ってギルドマスター!」

「贅沢言っている時間がないわね。いいわ、その子で我慢してあげる」


「えーーーーー!!!!!」


 こうして私はフィオ様の目的を達成するために行動を共にすることになる。


 ああ、どうしてこうなっちゃうのーーー!

 私、まだランチを食べてないよぉーーー!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る