★1★ 思いもしない冒険への誘い その1

 グランジア王国――ここは広い緑に囲まれた大きな国。

 たくさんの動物にモンスター、そして多種多様の種族と人間が住んでいる大国だ。


 見渡す限りの森には今日も穏やかな風が吹き、暖かな光が注がれる中でひときわ大きな城があった。

 それはそれはとても立派な王城で、私はいつも見上げてしまうほど大きな建物だ。


 元々は木造だったものなんだけど、一昔前にいた王様が建て替えの際に石造りにしちゃったから維持が大変だって話があったりなかったり。


 まあ、そんなことは置いておいて。

 そんな王城のお膝元に私がいつもお世話になっている探索者ギルドがあった。

 建物自体はそんなに大きくなくて、でもみんな優しくて素敵な人が集まっているギルドなんだ。


 私はそのギルドの扉を開き、すぐに鑑定の受付カウンターへ向かう。


 もちろん、手に入れた素材を鑑定してもらうためだ。

 その前にランチを食べたかったけど、ポッポー先生に先に換金したほうがいいと言われちゃったから仕方なく後回しにした。


 ああ、早く美味しいパスタを食べたいなぁー。

 そんなことを思いつつ、今日も忙しそうにしている妙齢のお姉さんに声をかけた。


「こんにちは、ローレルさん」

「あら、ニーナじゃない。どうしたの?」

「実は鑑定してほしい物があって。今いいですか?」

「ええ、いいわよ。何を鑑定してほしいの?」


「ドラゴンのツメです」


 私がそう告げ、アイテム収納バックの口を開く。

 そのまま口を逆さまにすると突然大きなツメが音を立てて現れ、ギルドの床にヒビを入れちゃった。


 思わず私は「あっ」と声をこぼし、やっちゃったことに顔が青くなる。

 だけどローレルさんの反応は違った。


「え? ちょっとこれ、え!?」

「ご、ごごご、ごめんなさーい! 床が壊れるなんて思ってもなくて……その、その、弁償します!」

「待って待って! これもしかして最難関の迷宮にいたドラゴンのツメよね? もしかして倒しちゃったの!!?」

「え? あ、はい。その、撃退って形にはなっちゃうんですけど、その成果としてツメを――」


「ウソでしょ!!! 誰一人として踏破できてない迷宮よ。そこのボスを、撃退って……」

「その、えっと、床、弁償しますから、その、怒らないで……」

「怒らないから! それよりもここで待ってて。お願い! ね?」


 こうしてお昼下がりなのに探索者ギルドがてんやわんやすることになっちゃった。


 ローレルさんに言われて待つこと三十分。

 お腹がペコペコで苦しんでいると、ローレルさんが「応接室へ来て」と声をかけてきた。


 ランチ食べたいなぁーって思いつつ、言われた通りに応接室へ入ると、そこからさらに十分部屋で待つことに。

 もうお腹と背中がくっつきそうと持っていると、ようやく誰かが来る。


 それは青いコートで細い身体を隠した笑顔が素敵なギルドマスターだった。


「いやー、まさか最難関の迷宮をクリアするとは。この成果は我がギルドとしては鼻高々になるよ」


 私はなぜか褒めちぎられる。


 床を壊しちゃったのになんでだろ?

 そんなことを考えているとギルドマスターはこんなことを言い出した。


「そうだね、これは見合ったランクにしないといけないね。よし、君のランクは満天星にしよう」

「えーーーーー!!!」


 探索者には専用のライセンスがある。

 そのライセンスにはランクがあり、全部で十段階。


 私は駆け出しだから本来だと一つ星なんだけど、それがいきなり満天星だなんて……


「あ、あの……いきなり満天星だなんて……」

「大丈夫、君ならやれるよ。それに困ったら頼れる先生もいるでしょ?」


 ギルドマスターはそういって静かに私の頭の上で丸まっていたポッポー先生にウィンクした。

 先生は聞こえるか聞こえないかの大きさで舌打ちをすると、そのまま何事もなかったかのように眠り始める。


 そんな先生を見て、ギルドマスターは参ったように肩を竦めた。


「ま、君に期待していることには変わりないよ。それに、君じゃなきゃ踏破できない迷宮はまだまだあるだろうしね。だからこのランクは妥当さ」

「……わかりました。私、頑張ります! もっともっと頑張って、成果を上げます!」

「うんうん、いい意気込みだ。さて、前置きが長くなっちゃったね。さっき君が手に入れたドラゴンのツメなんだけど、鑑定額は――」


 ギルドマスターが何かを言いかけた瞬間、突然扉がノックされた。

 そのまま開かれ、ローレルさんが慌てた様子でギルドマスターへ駆け込んでいく。


 なんだかヒソヒソ話してるけど、どうしたんだろ?


「それ、本当かい?」

「はい。断るにしてもしっかりとした理由がいりますが、どうしますか?」

「ちょうどいいかな。我がギルドの名声を上げる絶好の機会だし、お通しして」

「悪いけど、もう通らせていただいたわ」


 何の話をしてたんだろ?

 気になっていると、また唐突に部屋の出入り口から声が放たれた。


 目を向けるとそこには雪のように美しい長い銀髪を揺らし、白く煌びやかなドレスに身を包んだ少女が立っている。

 その後ろには漆黒の鎧に身を包んだ女性がおり、左の頬に大きな傷跡があった。

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