ゲーム世界転生したゆるゆる少女は追放王女を王様にするために追憶迷宮を攻略する 〜詩詠み探索者の夢想曲《トロイメライ》〜
小日向ななつ
★0★ 腹ペコ探索者の迷宮攻略
迷宮――そこは様々な宝が眠る場所。
生える植物、転がるガラクタ、闊歩するモンスターの全てが恩恵をもたらしてくれるという大いなる財宝が存在する場所。
という設定がされているゲームがあるんだ。
ここはゲーム【ラビリンスチェイサー】の世界。
私はそんな世界に転生した女の子!
なんでそんなことがわかるのかって?
だってここは私が楽しんでいたゲームだし、それにこの栗毛の女の子は私がキャラメイクしたキャラクターだからなんだ。
つまり私は転生者!
まあ、お昼寝から目が覚めたらこんなことになってたんだけどね。
何はともあれ、私はゲーム世界にある迷宮の中でも最難関と呼ばれる場所に挑んでいた。
「だいぶ進んだッポ」
「お腹が空きましたよ、先生ぃ〜」
私はもうすぐボスが待ち受ける最深部の部屋の前でへこたれていた。
だって朝からご飯を食べてないもん。
もうスグお昼なのに、一口も食べてないもん。
お腹の虫を鳴らしている私を見てか、師匠ことハトのポッポー先生が叱咤する。
「もうすぐこの迷宮を踏破できるッポ。そうすれば豪華な飯にありつけるぞッポ、ニーナ」
「うぅ、今すぐ食べたいです。先生を焼き鳥にしてもいいですか?」
「ダメだッポ。だが、腹が空いては戦えんからなッポ。そうだな、ワシの乾パンを食べろッポ」
「うっうっ、また乾パン。塩味乾パン……もっと美味しいの食べたいです!」
「ワガママいうなッポ!」
泣きながら私は乾パンを手にする。
うぅ、先生が一念発起しなきゃ今日は今頃、友達とランチを食べてたのに。
はぁ〜、なんでこんなにお腹を空かせてるんだろ。
転生した時は魔法があってモンスターがいて興奮したけど、こんなしんどい思いをするなら探索者になるんじゃなかったよ。
そんなことを考えながら私は乾パンが入った缶詰のフタを開くために適当な岩に腰をかけた。
そのまま缶詰のフタに指をかけようとした瞬間、腰かけた岩が沈む。
思わず「きゃあっ」っと私が声を上げると後ろからゴゴゴッという妙に重々しい音が聞こえてきた。
振り返ると閉じられていた最深部の扉が開かれ、その奥で待っていただろうドラゴンと目が合う。
あれ? これってヤバいんじゃないかな?
私がそう考えた瞬間、ドラゴンは大きな大きな咆哮を上げた。
「ガァアアアァァァアアアアアァァァァァッッッッッ!!!!!」
「きゃあぁあああぁぁあああああぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
うそでしょ!!?
ここのボスってドラゴンなの!!!
ムリムリムリ、こんなのに勝てっこないって!
相手はドラゴンだよ、先生は何考えてここに連れてきたのぉー!!!!!
「ほぉ、グリーンドラゴンかッポ。腕慣らしとしてはちょうどいいなッポ」
「せ、先生。これどうやって倒すんですか!? こんなのどうすればいいんですか!!?」
「もちろんお前の【詩詠み】でだッポ。さあ、さっそくやるんだッポ!」
ムリムリムリ、ムリだってばぁー!
私のことをなんだと思ってるの先生は。
言っておくけど、私はそんなに強くないんだからね!
「カァァァァァッッッ!!!!!」
私のことを先生がどう思っているのか気になっていると、ドラゴンの口が妙に赤く輝き始めた。
まさか、いや確実にそうだ。
あれは灼熱の炎で敵を焼き尽くすドラゴンの必殺技――【
あんなの喰らっちゃったらひとたまりもない。
「さあ、ニーナ! 詩を詠むッポ!」
もぉー、先生のバカ!
詩詠みはすごく体力を使うの忘れたの!
でも、このままじゃ丸焦げどころか消し炭にされちゃうのは明白。
ええい、こうなったらやるっきゃない!
「〈心地よき風〉〈身を焦がす業火を冷ます風〉〈灼熱の侵攻を妨げる風よ〉〈我が身を包め〉」
私が詩を詠むと、先生ごと心地いい冷たさがある風に包みこまれた。
直後、ドラゴンの口から強烈な輝きが解き放たれる。
それは一瞬の出来事。
迷宮を形成する壁や床、転がっていた石や岩が溶けていたのはもちろんのこと、後ろに広がっていた森が悲鳴を上げて燃えていた。
あまりにも強力な攻撃だ。
もし詩詠みを使わなかったら、私の身体は跡形もなく消えていたかもしれない。
そう思えるほど、恐ろしい攻撃だった。
でも、立っている私達を見てドラゴンは後退りしていた。
『なんだ、お前達は……』
「うえ、ドラゴンが喋った!」
『我が問いに答えろ! 何なんだお前達は!』
あれ? ドラゴンが驚いてる。
若干引かれているようにも思えるけど、どうしてだろ?
「えっと、探索者ですけど?」
『一介の探索者が我が必殺を防げるか! 何なんだお前達は!』
「だから探索者ですけど……」
『ありえん! そんなことありえん! そうか、あの魔女の遣いだな。ならば答えは決まっている。我は奴なんぞに仕えんぞ!』
何の話をしてるんだろ?
まあ、いいや。
喋れるなら話が通じるかも。
そうだ、話し合ってみよう。
そうすれば平和的に解決するかもしれないし、不必要に傷つかなくて済むと思うし。
私がそう考えていると、ドラゴンはまた口に光を集め始める。
そう、ドラゴンは明確な敵意を向け、私達を睨みつけたんだ。
『我を従わせたいのならば力を示せ! でなければその生命を喰らおうぞ!』
ちょっ、私の話を聞いてた!?
ヤバッ、ドラゴンが攻撃する気満々じゃん!
えっと、えっと、詩を詠まなきゃ!
えっと、えっと、えっと……!
「やれやれッポ」
慌てている私を見て、先生が首を振った。
そしてパタパタと飛び、私の肩に留まると先ほど口にした詩を詠み始める。
その声はハトなのに美しく、緩急をつけられ、そして私よりも感情が込められていた。
「我らを守れッポ」
放たれる
だけど攻撃が止まらない。
「参ったッポ。これでは動けないッポ」
「せ、先生ぇー……」
「情けない声を出すなッポ。ワシが攻撃を防ぐからニーナは攻撃しろッポ」
「で、でもー」
「乾パンを食べろッポ。そうすれば力が出るッポ」
うぅ、確かにお腹が空いた。
お腹が空きすぎて力が入らないし。
もう乾パンでもいいから何か食べたい。
そう思って私はもらった乾パンを少しだけ食べようとした。
でも、ドラゴンに攻撃された拍子にどっかに行っちゃったのか私の手には乾パンがない。
「先生、乾パン残ってます?」
「お前に渡したので最後だッポ」
「そんな! 他にないんですか!」
「ないッポ!」
そんな、そんなそんなそんな。
じゃあ、この迷宮を出るまで食べれないってこと……?
そんな、そんなのって、あんまりだよ!
大きな絶望が私を襲う。
その絶望はすぐに怒りへ変わり、私の中で大きな渦となる。
その渦はやがて食べ物の恨みへ変わり、その八つ当たりはドラゴンへ向かった。
「私のご飯を、返せぇぇぇぇぇ!!!!!」
ああ、食べ物の恨みは恐ろしや。
おかげで私の魔力が爆発的に高まる。
こうなったらドラゴンをとっとと倒して迷宮から出る。
そうすれば美味しいご飯にありつけるはず!
「〈燃え盛るは心の炎〉〈怒り狂うのは心の刃〉〈それは牙へ変わり鋼鉄すらも噛み砕く〉〈大いなる詩は剣となり汝を飲み込む炎となれ〉――私を怒らせたことを後悔しろ、ドラゴン!」
怒りは至高の剣。
空腹は極上のスパイス。
つまり、腹ペコの私は最強!
怒りのまま私は詩を詠み、ドラゴンへ魔法を力いっぱいにぶつける。
その威力は最深部となっている広い空間が消し飛ぶほどだ。
ドラゴンだってそんな魔法をぶつけられたらタダじゃ済まない。
はずなんだけど、何事もなかったかのように立っていた。
『な、なんだこの威力は……お前、本当に魔女の遣いじゃないのか?』
「だーかーらー! 私は、探索者だって言ってるでしょーーー!」
でもそんなの関係ない。
こいつを倒さないと迷宮から出られないもん。
なら、こいつが倒れるまで魔法をぶつけるだけだ。
『うおっ!』
私は怒りのままに詩を詠み、魔法でできた豪火球をぶつかる。
するとドラゴンは怯んだのか、それとも本当に恐れを抱いたのか大きく後ろへ下がり始めた。
だけど関係ない。
こいつのせいで私はご飯を食べ損ねたんだ。
だからこいつが倒れるまで魔法をぶつけまくる!
『ちょっと待て! もうやめろ!』
「このぉ! いい加減倒れろぉぉ!!!」
『待てと言ってるだろ! ええい、降参だ。降参する! 降参するからもうやめろ!」
「知ったもんか! 倒れろぉぉぉぉぉ!!!!!」
『降参すると言ってるだろ! ええい、やめんか! 迷宮が壊れてしまうわ!!!』
私はとにかく暴れた。
もう何もかもを破壊し尽くすほど暴れた。
幸い、迷宮は壊れなかったけど後でポッポー先生に怒られちゃったよ。
とはいえ、私はドラゴンを降参させたことでこの迷宮を踏破してしまった。
この最難関と呼ばれる迷宮を、駆け出し探索者である私が。
こうして私は最難関の迷宮を踏破した最年少探索者として名が売れることになる。
本来嬉しいことなんだけど、ちょっと複雑だよ。
だって食べ物の恨みでドラゴンに勝っちゃったもん。
でも、この出来事が私にとって思いもしないクエストへと導かれることになる。
そんなことになるなんて、この時の私は知る由もない。
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