第2話

 衝撃の余命宣告から1ヶ月。クラスの皆で進めている制作もだんだんと進んできた。僕が思っている以上にみんな本気を出してしまって、実際に完成するかどうかは分からないけれど、僕の声を何回でも思い出せるように僕の声を録音して再生する機械を作ろうとしているらしい。

 いや、普通にボイスレコーダーで録音して流せばいいじゃんと思ったが僕を思ってやってくれているので野暮なことは言わないようにした。


 玲は持ち前の頭の良さをフル活用してプログラミングで機械を制御していたし、僕の隣の席の瑠偉は玲と一緒になってあーでもないこーでもないとぶつぶつ言いながら試行錯誤を繰り返してた。


 僕はといえば、クラスのみんなから僕に言ってほしい言葉を募集してそれを片っ端から録音していた。はたから見ればかなり滑稽な姿だと思うけれど、僕らからしてみればいたって真剣にやってることだった。

 時々、みんなが作業してる傍でわざと録音して、僕はここの一員だったんだって証明してみたりもした。


 一通り録音し終えてふぅ、と一息つくと見越したように玲と瑠偉がこちらに駆け寄ってきた。


「健!その録音のやつ、こっちに渡して!」

「テンションたっか。まあいいや、はい。」


 僕が録音したデータを渡すと玲は嬉々として受け取り、すぐにPCに向き直った。ひょっこりと画面を除くとなにかよくわからないコードがたくさん並べられていて、見ただけで眩暈がしてしまったけれど何をしているのかということに関してはとても気になったので眺めていると


「できた!!!」


 と、急に玲が大声を上げた。


「うるっさ。」


 思わず声が出てしまったのは許してほしい。ほぼ耳の真横で大声を出されたら誰でも抑えようと思っても声が出てしまうのは当然だろう。


 玲に急かされて僕は完成したプログラミングコードが打ち込まれた画面を見てもいまいち理解することが出来なかったが、瑠偉が


「違う違う、こっちだよ」


 と、コードにつながった機械を見せてくれた。機械、というよりもPCとかに入っている記憶媒体みたいな感じだったけれどこれをどうやって僕の声を再生する機械にするんだろうと思っていると魔法みたいに瑠偉はぱぱっと別の部品を組み立てて、ロボットの下面にそれを取り付けた。


 すると、ロボットが動き出して、僕の癖である話すときに腕を後ろで組むしぐさをしながらさっき録音した声を発し始めた。本当に驚いた。こんなふうにプログラミングを組んで実際に動かすところを見たのは始めてだ。不謹慎かもしれないけれどいい冥土の土産ができたと思う。


 いつの間にか集まっていたクラスメイト達も口々に


「めっちゃ健だ!」

「癖とかほんとまんまだわ。すっご!」

「玲君本当に頭いいんだね!てか、このコードどうやって組んだの?」


 そう1人が聞くと、玲はあっけらかんとした様子でしれっととんでもないことを言って見せた。


「俺が自分で開発したプログラミングのソフトでできるだけ簡略化した。」


 全員の時が止まったのち、31人見事に声を合わせて


「自分で開発した!?」


 と、総出でツッコミを入れた。いや、僕一人の声を残すためになんという発明をしれっとしているんだこいつは。と正直ドン引きだった。というか、プログラミングソフトって高校生でも開発できるものなのか?プログラミング業界にとんでもない激震走るんじゃないのかそれ?

 様々な疑問が頭を駆け巡ったが、小学生の時から突拍子もない発明をしてきた玲を見てきた僕にしてみれば、まあこいつならやりかねないか……と納得してしまうのが恐ろしい。


 ちなみに玲は小学生の頃から意味不明の発明をしては周りを驚かしていた。ちなみに個人的に強烈なのはあり得ないほどリアルに動くオニヤンマの模型が本当に怖かった。全力で泣くぐらいにはトラウマになっている。そのオニヤンマは玲の祖父母が引き取って畑の番をしてもらっているらしいが。


 とりあえず玲のことは頭の片隅に置き、みんなの方を向き直った。この計画は、玲と瑠偉と僕だけで進めているわけじゃない。ここからはクラスのみんなの力がいる。


 ロボット感むき出しの機械に家庭部に所属している人達が型紙を作って、数班に分かれて型紙に合わせて材料を切っていく。裁縫が得意な人で集まって片っ端から縫い合わせていく。最後に細かい作業が得意な人たちでロボットに丁寧にかぶせていく。

 すると完成したのは可愛らしい僕が一番大好きなペンギンを模した着ぐるみを着て僕の声を出すロボットだった。

 試運転と称してみんなワクワクしながら僕に早く動かしてくれと目で訴えてきた。軽く深呼吸をしてから動かす条件としてプログラムされている行動である頭を撫でた


 さっき動いた通りのまま、僕の声が流れて腕を組む癖をした。着ぐるみも相まって声が自分ながら本当にかわいいと思った。


「……動いたね。」

「マジでよかった……なんか一気に疲れたわ……」

「1ヶ月よく頑張ったわ俺ら。」

「ねー、健君がずっと一緒にいてくれるみたい。」


 その言葉でまた教室が静かになる。そう、なんだかんだで薄れつつあったが僕が余命宣告されてから1ヶ月が経っている。だから僕が生きられるのはあの2ヵ月。

 早いな。それが正直な感想だった。ちなみに病気の方に関しては確かにゆっくり進行するんだなというのが分かる感じだった。宣告されたときにはほとんど何もなかったのに、最近は体育の授業の準備運動だけで息切れするようになって、嫌でも弱っていることが自覚できた。


 そう思ったときに、僕はとあることを思いついて瑠偉と玲にそっと耳打ちした。

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