第1話、さよなら日常


「あ~身体じゅう痛いなぁ」


どれだけの間気絶していたんだろう。なんとか体を起こす。


「リン!意識が戻ったのですね!よかったです!3時間の寝坊ですよ!」


そうか、俺は3時間も気絶していたのか...

いつもはうるさいデウすけの声が今は逆に体にしみる。



 耳鳴りとともに脳内に突如機械音のようなアナウンスが流れた。


『あなたのスキルは《超回復》です。』


あまりに突然の出来事に俺はしばらく放心状態に陥った。


やっとのことで口を開く。


「何が起こったか...単刀直入に教えてくれ...」


「わかりました。では私なりに調べたことを報告します。まず初めに.....」


それからの話はあまりにも衝撃的だった。


あの原因不明の地震以降、地球に仮称『マナ』が出現し色々あって全世界に

ファンタジー的な『モンスター』が出現したらしい。

それだけでなく人々にも謎の力が発現したんだとか。

デウすけ風にいうなれば『スキル』だ。

剣でモンスターを倒したり、魔法を使ったり、いろいろできるらしい。


あと、さっきの地震は世界樹的なマナを放出する植物が地中から生えてきたせいらしい。


昔読んでた漫画の設定みたいな事を延々と聞かされて最初は困惑したが、

今はこの不思議現象に好奇心がおさまらない。


「スキルは一人につき一つ。と推測します...」


「俺の《超回復》はどんなスキルだ?」


俺はデウすけの話を遮る勢いで質問する。


「随分と呑み込みが早いですね、スキルに関してはまだまだ分からないことだらけですが、おそらく身体の回復力が強化されるといったものでしょう」


その辺に落ちてたナイフで手のひらを切ってみると、すぐに傷口がふさがり完治した。


まあこの世界を生き抜くには良いスキルではあるのだろうが、あまり戦闘向きとは言えないな。


なんて考えていると急にデウすけの声のトーンが変わる。


「世界観の説明はいったん終わりです。続いて現在の状況説明なんですが、ぶっちゃけモンスターに包囲されています。やばいです。今は警備ロボと火災用の防壁で何とか対処していますが間もなくこの研究室に到達しそうです。」


確かにドアの奥で微かに銃声が聞こえる。


「ほかのみんなはどうなった?」


「残念ながらリン以外は死亡しました。」


「そうか....わかった」


一瞬大きな悲しみが襲ったが次の瞬間にはそのすべてが消えていった。


「どうやら、超回復ってのは心の方にも適応されるらしい...」


俺が力なく笑うと、心配して損したと言わんばかりにクソAIの声がもとの明るいものに戻った。ひどい奴だな...


そんなことよりも今はこの状況を切り抜けることが最優先だ。

とりあえずはこの研究所からの脱出だな。


「全棟の見取り図と監視カメラ映像を表示してくれ」


「了解です。監視カメラの方は、閲覧注意とだけ言っておきます...」


うげっ


監視カメラの映像はひどいものだった。

死屍累々を体現したようなむごたらしい廊下とゴブリン。


転がる同僚の死体には目もくれず、ゴブリンの数と配置を頭に叩き込む。


「このルートは...ダメか...どのみち正面戦闘は避けられそうにない」


脱出経路をしばらく考えていると俺の頭に天啓が下りてくる。


「なあデウすけ、この前の演習で全兵装データのダウンロードとナノマシンでの投影やったよな?」


「はい、ですがあれは一時的に使用権原が付与されただけで現在はその権限が...」


やはり、これならいける。


「今からお前を俺の体に入れる。権限の制限は国防軍のシステムをハックしてこじ開けるし、脳への負荷は《超回復》が何とかしてくれるさ!」


デウすけはしばらく考え込んでいたが、俺はそんなのお構いなしに作業に取り掛かる。


「検討してみましたが、超回復があるとはいえ、私が少しでも調整に失敗すればリンは死んでしまいます。本当によろしいのですか?」


「あぁお前ならできる!なんてったってこの俺が作ったんだからなぁ!」


「了解です!作業に取り掛かります!」


激しくキーボードをたたく音と、冷却ファンの音だけがしばらく続いた。


国防軍のシステムをいじるぐらい造作もない、なんせ今回が初めてじゃないからな。


「よし、いけるぞ!」


「了解です! 3、2、1、融合開始します!」


融合は想像を絶する苦しみだった。

脳をシェイクされるような痛みが時間感覚を狂わせ、1時間とも1日ともとれるような間苦しみは続いた。


痛みがひくとなじみの声が耳元から直接聞こえた。


「リン、融合は成功しましたよ、リンのナノマシン器官および全インプラントを戦闘仕様にセットアップしました!いつでもいけます!」


道理で体が軽いわけだ。


「デウすけ、兵装の投影を開始する。戦闘服と...そうだなせっかくだし剣が良いな。一番いいのを頼む!」


「了解です!特殊空間対応型戦闘服2型およびKATANA社製ロングヒートソードの投影を開始します。」


胸のあたりから全身がナノマシンでおおわれていき、最終的にはピチピチスーツに関節を避けるように装甲がついた真っ黒スーツといかにも刀‼って感じの剣が

出来上がった。

どこかヒーロースーツを思わせる服に刀身が真赤に輝く黒い刀が良く映える。


だが、俺の趣味には合わない。


「顔はマスクとヘッドセットだけにしてくれ、あと黒のロングコートも投影よろ。」


コートは兵装データにはない!? そんなもんネット上に落ちとるわ!

顔さらしたら特殊空間使用の意味がない!? うるせぇ!


とまあそんなこんなでピチピチ装甲スーツに黒コートと赤黒い刀という特大中二病

ファッションが完成してしまったが気分は最高。


「ドガンガラガラベキッ」


と自動ドアから今にも壊されそうな音がする。イケメン装備に浮かれてしまったが今割とやばい状況なんだった。


「ふぅぅ~」


俺は深呼吸をしつつ準備運動で体をほぐす。


「デウすけ、いけるか?」


「えぇ、リンが私の指示通りに動いてくだされば、私たちの勝利は確定です!」


コイツがこんなに楽しそうにするのなんてずいぶん久しぶりだなぁ。

なんだか俺も楽しくなってきたじゃないか。


「さぁ、ゴブリン退治と行きますか!!」


「ますか!!」





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