第3話 ステルスミッション
「……あ?なんでアタシここで寝ているんだ?」
誰かが来る前に獣人の女性が起きた。女性は寝る前の状況を思い出そうとする。
「(思っていたよりもずっと早いな。まだ待ってから数分も経っていないぞ)」
「………ん?ここで全裸で寝ているコイツは?………チッ、オラッ!」
ブチッ
獣人の女性は痩せぎすの男の股を蹴り上げ、男は死してなお尊厳を完全に破壊されてしまった。
「(うわ~。死人なのに。まぁ、人の尊厳を奪おうとしたやつだから何も同情しないけど)」
女性は石の板を手に取り、話し始める。
「(【知識】によると、アレは魔導具だ。魔石を消費して魔法を発動できるらしい。おそらく魔導具で連絡を取っているのだろう。なら、俺もここにいる意味はもう薄い。いずれ、ギルド側の援護が来るはず」
「(問題はどうやってここから抜け出すかだ。扉を自分で開けてしまうといくら《精神魔法ー認識阻害》でも気が付かれてしまう)」
「他の場所は荒らされてたりしないよな」
女性が部屋の外に行こうとする。春秋はギリギリで滑り込み、部屋の脱出に成功し、物陰に隠れる。
「(危ない危ない…ッ!)」
【コピー】《精神魔法ー認識阻害》消失。
「(こんなときに消失するとは……)」
【コピー】は魔法を含めたあらゆるものをコピーできるが、コピーしたものは時間経過で消えてしまうという制約がある。
「(待つべきじゃなかったか)」
「(出口は一つしかないため、別の場所に誘導するか、意識を逸らす必要がある。ギルドの増援が来る前に急いでここを出たい)」
【コピー】《分身》発動。
「(上手く注意を引いてくれよ。俺)」
《分身》は女性の視界に入らないように、射程距離ギリギリまで移動し、適当なドアの前に到着する。ドアノブを回し、空いていることを確認する。
「(やれ!)」
ダッ!ガチャッ!!バタン
大きな足音とともにドアの開く音がする。
「ん?誰かそこにいるのか!」
女性の注意を引くことに成功する
「(ナイス!俺)」
女性は慎重にそのドアの方向に進む。それと同時に徐々に入口に近づく。《精神魔法ー認識阻害》は消えてしまったため、音が鳴らないように慎重に進んでいく。
「(よし、入口まで着いた。人の気配はない。このまま開けるぞ)」
キーーーー
「(よしよし)」
出入り口のドアの隙間を人一人分だけ空ける。
「(あとは出るだけだ)」
一歩踏み出す。
キシッ
「誰だ!!」
「(ちっ、床が軋んでしまった!)」
ダッ、バタン
春秋は急いで外に出た。
「(とりあえず外に出られたが、追ってくるかもしれない。……屋根に登るか。幸い、人目もない)」
【コピー】《付与魔法ー身体強化》発動。
春秋は冒険者ギルドの屋根まで跳躍する。
「(流石にここは確認しないだろう)」
春秋を追ってきた女性が外に出てくるも春秋を見失ったと思い、引き返す。
「(《精神魔法ー認識阻害》があれば苦労しなかったのに。まぁ、なくなったものは仕方がないか)」
【コピー】《付与魔法ー身体強化》消失。
「あっ、やっべ、忘れてた。まぁいいか」
春秋は窓を伝って地面に降りる。
「ホイっと。服はどうしようか。いくら異世界といえど、血をつけて町中をうろつくヤツはいないし。そうだ」
【コピー】《水複製》発動
空気中の水蒸気をコピーし水の塊を作り、血を洗い流していく。【コピー】した水はすぐに消滅させる。
「これくらいならいいだろ」
その後、特に何事もなく宿屋に到着する。
「ダグラスさん。まだ夕飯やってますか?」
「ええ、やってますよ。冒険者ギルドには無事に行けましたか?」
「……いや~、実は、たまたま旧友に会いまして、道草を食っていたらこんな時間に。ゴブリンの魔石は結局換金できなかったので、ひとまず2個分を宿代にお願します(多少魔石の買い取りに手数料がかかってしまうが仕方がない)」
「分かりました。まず、ゴブリンの魔石を換金しますね。ゴブリンの魔石1つ113エムの計226エムです。次に、宿代ですが1泊150エムなので、宿代を差し引いて76エムのお釣りです。コチラが鍵です」
【知識】によるとエムはこの世界の通貨の単位である。石貨は0.1エムであり、石貨、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、神金貨の順に10倍されていく。大石貨など、大がつくと5倍になる。
「ありがとうございます」
春秋はお釣り(大銅貨1枚(50エム)、銅貨2枚(10×2エム)、大鉄貨1枚(5エム)、鉄貨1枚(1エム))と鍵を受け取る。
「いえいえ、こちらこそご利用いただきありがとうございます」
「ご飯頂いてもいいですか?」
「ええ、大丈夫です。1食30エムとなります。すぐそこを曲がったところに食事場があるので、そこで支払いを済まして妹から料理を受け取ってください」
「分かりました」
食事場に移動する。
「やあ、シエラちゃん。ご飯お願いします」
春秋は30エムを支払う。
「分かった!……はいどうぞ、ハル兄」
パンのような何かと、わずかに赤みを帯びたスープを渡される。
「…ありがとう」
春秋は席に座って食事を取りはじめる。
「(酸味がよく効いているスープだ。思っていたよりもパンと合う。少々物足りないが、悪くない。だが、パンが思っていたよりも硬いな)」
パンをスープにひたす。
「(やはり、これはスープにほんの少し浸して食べるものだろう。硬さは和らぎ、パサツキ感も軽減される)」
「ふーん、アンタはそうやって食べるんだ」
「んっ!?ゲフゲフ」
春秋は急に声を掛けられ、思わずむせてしまう。
「(誰だよ。この世界に女性の知り合いはいないぞ)」
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