第2話 理不尽には理不尽を
春秋は冒険者ギルドに到着した。
「(ここが冒険者ギルドか……。少し寂れているな。町の冒険者ギルドはそういうものなのか?)」
ギギー
ギルドの扉を開ける。掲示板のようなものがいくつかあり、そこには紙が何枚も貼られている。
受け付けカウンターが目に入るも、人は見当たらない。
「なんで、誰もいないんだ?」
ゴンッ
頭部に大きな衝撃が与えられる。気絶せずに済んだだけで、身体を動かすことはできない。
「(クソっ!頭が割れそうだ)」
「(これは《魔法》か。誰かが《魔法》で俺の背後に移動したんだ!)」
【コピー】発動。《精神魔法ー認識阻害》習得。
《精神魔法ー認識阻害》五感による認識を誤魔化すことができる。
「(いや、移動したんじゃない。最初からそこに居たのか!!)」
「アニキ、侵入者がいたのでヤッときましたぜ」
「人払いは済ませたんだがな。まぁいいか、あと1人くらい。町外れの奴隷商に売りつけるとするか。おい、こいつを縛っておけ」
大柄の男が痩せぎすの男に命令する。
「へいっ」
痩せぎすの男が春秋をロープで縛り上げる。
「(結び方が素人だ。これならすぐに解ける。この場は乗り切れそうだが、気絶したフリをして情報を集めるとしよう)」
「しっかし、このアイテムボックスってのは便利だなものだな。ギルドの金全部入ったぜ」
「売ってよしヤッてよしの上玉も手に入りましたし、臨時収入も入ったので、言う事無しッスね」
「あの獣人はオレが最初に手をつけるからな。少し筋肉質だが、十分オレの好みだ。オレより先にヤッたらお前を殺すぞ」
「分かってますってアニキ」
「(ゲスが……。他にも捕まったヤツがいるということだな。にしても獣人……ね。)」
「じゃ、さっさとズラかるとするか、おい、連れてこい」
「へへー」
「(【コピー】《精神魔法ー認識阻害》発動)」
大柄の男はアイテムボックスと呼ばれる袋に夢中で春秋から意識を外している。その隙にロープを解き、痩せぎすの男が使った魔法で身を隠しつつ追跡する。
ギー
ドアを開けた瞬間に滑り込む。
バタン
部屋の中には獣耳の女性が1人、ロープで縛られて気を失っている。
「アニキには内緒で手ぇつけておくか。キシシ、アニキには勿体ない上玉。この際獣人でも良い。ここで逃したら一生回ってこないからな」
春秋はその言葉を聞き、ふつふつと怒りが湧くのを実感する。
「(とても見過ごすことはできないそうにない。なら、俺に気がついていない内に対処するのが得策だ)」
ゴキ!!
「ダッ!?」
春秋は痩せぎすの男の背後から力任せにタックルして男を弾き飛ばす。
「キミ達は誰かな?見たところ、ギルドの職員ではなさそうだけど」
【コピー】《分身》発動
春秋は痩せぎすの男に尋ねつつ、《分身》を増やす。
「お、お前こそ誰っ!?ガッ!」
《分身》が痩せぎすの男の喉を押さえつける。腰についたナイフを奪う。
「静かにしろ。そして、俺の質問以外のことを答えるな。言うことを聞けないなら、次は目を抉る」
「やってみろよ」
声が出ないように《分身》が喉を掴み、手を口の中に突っ込む。さらに《分身》を増やし、男の身体を固定する。
「本当はこんなことしたくはないのだが、恨むなら本気にしなかった自分を恨むんだな」
男はもがこうとするが、《分身》により全く動くことができない。
「ウーウー」
何か男が伝えようとするが、春秋はそれを無視する。
「じゃ、行くぞ~」
プチッ
「ウー!!ウー!!ウー!!」
男の眼球が片方潰れる。それと同時にもがく力が強くなるが、全く意味をなさない。
「五月蝿いな〜。静かにしないと殺すよ。動いても殺す。質問に答えなくても、質問以外のことを答えても殺す。ほら、お前らは何者だ?」
質問を言い終わると、男から喉に掛けた手と口の中の手を離す。
「アニキ!!侵入者ッ!」
乱暴に痩せぎすの男の口を押さえるが、もう遅い。
「がッ」
痩せぎすの男を殴って気絶させる。
「あーあ、バカだねぇキミ。余程死にたいようだ。殺すのは後にしてやるよ」
ドンドンドンドン
大柄の男が春秋のいる部屋に向かう足音が響く。
【コピー】《精神魔法ー認識阻害》発動。
春秋はドアの裏に隠れる。
バタンッ!
乱暴にドアが開かれる。
「どうした!オットマー!!」
大柄の男は警戒することなく、ズカズカと部屋に侵入する。
「(バカが)」
グサッ!
春秋は大柄の男の背後から心臓めがけてナイフで突き刺す。
「あ"?何だこの野郎!!」
ゴッ
「痛っ!」
大柄の男が腕を振るだけで、春秋は吹き飛ばされる。
「あ~油断したな。(多分、ナイフは筋肉か骨に阻まれたんだろう)」
「《付与魔法ー身体強化》、死ね」
男が魔法を発動すると同時に、春秋に追い打ちをかける。
【コピー】発動。《付与魔法ー身体強化》習得。
《付与魔法ー身体強化》発動者の身体能力を強化することができる。
「【コピー】《分身》、壁になれ」
《分身》を春秋と男の間に2人挟む。
グシャァ
男の腕は《分身》を2人とも貫通したが、春秋本体に届くことはない。
「【コピー】《分身》発動」
《分身》が10人出現する。それを見て、男は背中の斧を構える。
「なんだぁ?妙な魔法を使うな。とりあえず、死ね!!」
グシャ
「脆い脆い。脆すぎるぞ」
男の斧で《分身》が両断されていく。《分身》は本体と同じ強度であるため、それだけ男の筋力が圧倒的ということだ。
春秋は《分身》を隠れ蓑にして男の背後の物陰に隠れる。
「【コピー】《精神魔法ー認識阻害》」
【コピー】は同時に別のものをコピーできない制約がかかっており、時を同じくして《分身》と《精神魔法ー認識阻害》を発動することはできない。
「(《分身》のほうは消えてしまうが、寧ろこれでいい)」
「どこ行きやがった?まさか、逃げたってことはねぇよな?」
男は春秋を探し始める。
「おら、出てこい!」
ドゴッ
圧倒的な筋力で机や椅子などを蹴り飛ばしていく。
春秋は既に男の背後に隠れているため、当たることはない。
「隠れているのは分かってるぞ!!」
八つ当たり気味に斧を振りかぶった瞬間、春秋は動き出す。
「【コピー】《付与魔法ー身体強化》発動」
ズブ!
背中に刺さったままのナイフを蹴りで更に押し込む。
「グッ!ガハッ」
大柄の男から倒れ込む。
「(トドメをさそう。トドメ?俺が?いや、ゴブリンを殺すのと同じだ。同じだと思え。そもそも致命傷だ。トドメを刺さなくても死ぬだろう)」
「クソッ、ジャックめ!!こんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!!クソ!く……」
その言葉を最後に、男は絶命する。
「スーハースーハー」
春秋は深呼吸で呼吸と感情を整える。
「よし」
ロープで拘束された獣耳の女性に目を向ける。春秋は獣人の女性が息をしていることに安堵する。とりあえず女性のロープを解く。
「(痩せぎすの方はどうだ?こちらも一応生きているようだ。殺しておこう。殺すべきだ。俺の顔が見られている。なるべく面倒事を起こしたくない)」
ナイフを首筋に当てて思い切り引く。
プシャ
辺りに血が飛び散る。肉を切ったときの生々しさが春秋の手に残る。
「…………そういえば、アイテムボックスとか何とか言ってなかったっけ?」
大柄の男の腰に絹のように真っ白な袋を発見する。袋は外見よりも容量が大きく、中にはぎっしりと金貨が詰まっていた。
「うわ、すげぇ!!これってマジモンの金?流石に取るのはやめておこう。アイテムボックス………もどうせ盗品だから取らないほうがいいだろう」
金貨はアイテムボックスごと職員と思われる女性の手元に置いておく。
「念の為にギルド側の誰かが来るかこの人が起きるまでここにいることにしよう。他にも強盗犯の仲間がいるかもしれない」
「【コピー】《精神魔法ー認識阻害》発動」
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