2.顔合わせ
朝は早く起きて手伝わなければと思っていたのは覚えているが騒いでいつ眠ったのかは覚えていない。最初に僕が起きて布団を片付け着替え終わった頃に残りのメンバーはぞろぞろ起床した。僕は一足先に階段をなるべく音を立てないよう細心の注意を払って降りた。
「おはようございます」
と最低限の挨拶をし、「おはよう」と返事が二人分返ってくるのを確認してから
「何すればいいですか?」と声をかける。
「食事処のテーブル回りを布巾かけて床を軽く雑巾かけるくらいかな」オーナー夫婦ことおばさんが言う。「後は配膳だけ手伝ってもろたらええ」と言ったのはオーナー夫婦ことおじさんだ。もちろん僕ひとりではなく僕らに課せられた最低限のルールのひとつだ。残りのメンバーが降りてきたのは朝食の配膳する頃合いで配膳は残りのメンバーに任せて他の泊まりの人と同じタイミングで僕らは食事を平らげた。家では朝はパンが一般的だったこともあって重いなぁと思ったのは内緒だ。朝はどうにも他の人も静かに食べ食器や箸のガチャガチャという音だけが響いていた。
「おばさん、おじさん、こんちには」
「おぅっ来たか、ぼん」
そんなオーナーの声と見慣れない男の子が現れたのは朝食が終わって一段落した頃だ。
「こいつらがこの前言うとった子らや」
そういって、おじさんが僕らを指差す。
「はじめまして」とぼくらは失礼の無いように先に男の子に。
「こちらこそ。どっから来たん?」
隠しきれない好奇心に胸を躍らせるように彼はまくし立てる。
「大阪や、名前は?」
今度はこっちが質問
「なつひこ、七つに彦って書いてなつひこ変な名前やろ?」
彼は頭を掻きながら恥ずかしそうに、そう言った。
「変ちゃうで、僕なんて伊織言うねん女の子っぽい名前やろ」これはほんと、時々女の子と間違えられる。だからあんまり好きやない。
「俺は雅也。みんなからマサやん言われとる」
「オレは龍生、タッちゃんって呼んでええ」
各々が自己紹介する。ほんとはあと二人メンバーがいたがそれぞれの事情でここには来てない。ひとりはそもそも女の子だからここには連れて来れなかった、もうひとりはたまたま体調が悪くて欠席せざるを得なかっただけのこと。
「ぼん、この子ら案内したげ」とおばさんだったかおじさんだったかが言った。この時すでに意気投合していた僕らは4人で飛鳥市を歩き回ることにした。
いくつかある住宅街のひとつに歩を進めている。
「なんでぼんって呼ばれとるん?」
誰からともなく聞いたのだと思う。ぼんぼんというほどの家庭では無さそうだと検討がついていたと言えば少し馬鹿にしているように思うかもしれないけどそういうニュアンスで考えたわけじゃなく彼の出で立ちがそう思わせた。もちろん貧乏くさいなんて意味じゃないただ、親近感が感ぜられただけのこと。
「さぁ? よう知らんけど、ぼくとか坊っちゃんみたいな呼び方みたい」小さな声で「あの人ら子供出来んから余計に気になるみたいな感じなんよ」で言ったのは恐らくこんなこと言うのはあんまり良くないと彼が考えているのかもしれない。僕らはそれに対して後半の事は暗黙の了解で聞かなかったふりをすることを決めていたんだろうか。そういうことはそれなりにあると知っていたから子供が欲しくても持てない人はきっと。だから知らないふりをすることこそが正解なのだ、触れてはならないことは一定数ある。
「どこ行くん?」
「中央の辺り、そっから考える」
何をとは聞かなかった
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