第3怪 夏休み  巽 伊織

1.合宿

 中学生になると移動範囲も広がり、許されることも増える、かくして僕らは夏休みの数日間を友人の親が送迎のために走らせた車に乗って飛鳥市の民宿に泊まり遊ぶことになった。


 〈鹿宿かやそと〉という名前の民宿だが、洋間の綺麗な部屋で構成されている、友人の親は僕らを降ろすと元来た道を通って帰っていく。いくつかの約束だけ守っていれば問題ないそれが僕らの家族同士の話し合いで決まったこと。晴れ晴れとした気持ちに浮かれ中へ入る。リノベーションされているとは聞いてはいたが、思いの外、新しい。受付、食事処と風呂が一階で部屋は二階の壁沿いに左右それぞれ数室、二軒くらいの家を並べ壁を取っ払ったような広さだ。林間学校の施設程でかくはないが充分広く、困ることはない。僕らは案内されるままに進む。あまり騒いで面倒を起こすなと言いつけられていた僕らはにこやかに移動し二階の中程にある部屋に通される。食事の時間だけ良い終えると案内の人は去って行った、とたんに僕らは談笑しつつ荷物をほどく。



 子どもだけのお泊まりという事実が僕らを高まらせる。食事に降りた際に数組僕ら以外のお客さんがいた、オーナー夫婦の話では親戚の子どもの年代が近く、明日には来るそうな。なんでもここの地元の子らしい、色々聞いてみたいそんな気持ちを胸に早々と食事を済ませ、部屋に戻るなり我先にと風呂へ駆けていく。夜更かしをしたところで怒る大人はいない、先に風呂を済ませてゆっくりゲームなりしよう。

 受付でもらったマップや車内から見た記憶が確かならこのエリアは少し自然の多い方で住宅街からやや外れた位置にあるらしい。部屋から外を望んだ限りでも、それは明白だった。地元の子とうまくやれるだろうか。うまくやれないならそれはそれでもかまわないのだけども地元ならではの遊びだとかも有るのだろう。引率者なしのお泊まり、いや、合宿や旅行は初めてだった。もちろんオーナー夫婦とぼくらの親と話し合い決めたことだ、ある程度の制限はある例えばそれは門限がある。まぁ旅行というより田舎合宿、田舎留学と言い換えることもできるだろう。ここのオーナーと友人の親が知り合い同士でなければ、こうも簡単に話は通らなかったはず。ぼくらはそもそも親同士仲が良いというか家族ぐるみで付き合ってきたからハードルは低い。中3になったらこうもいかないだろう受験勉強でそれどころじゃなくなるのは目に見えている。これは言わば残された限り少ない余裕ある時間のひとかけ。きっと高校生になったら変わりゆく形。




 

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