2.強制

 机を片付けて昼休みに読書でもしようとしていると、クラスに騒がしいくらいの話し声が響く。正直言うと関わり合いになりたくないのだけど、相手は絶対邪魔をしてくることをぼくは知っている。


「なぁ、幽霊団地。本当に出るんだって!」


 クラスでも大柄なダイキがわざとらしくそう言う。人をからかうことが好きで悪さばかりしている、いつも先生に怒られても懲りることはまるでない。だから誰もが彼のいたずらには諦めている。


「聞いた聞いた、おれも兄貴の友だちが見たって」


 ハルキはダイキといっしょになって騒ぐ。少しだけ大人びて見える、中学生の兄やその友人に取り入って。そういう彼らのいうところの面白い話題をもらう。


 髪も少し茶色がかっているから、余計にそう見えるようだけど、ひとりでいればそれなりにモテるみたい。


 というか、女子からは同級生のなかでは大人っぽいとか、おしゃれという理由で人気らしい。けれど、本質はダイキといっしょに騒ぐ悪がき連中に他ならない。


 先生からも何故か受けが良い、鼻につくがそういうやつなんだ。大人に取り入るのがとにかくうまい。


 この二人の前で下手に反応すると、反応をからかわれる、だから気にせず本に目をやる。


 女子の反応は怖がり離れるか、いっしょに騒ぐか二分するのがいつものこと。耳障りな声が耳をつんざいた気がする。


 たぶん誰かが怖くて悲鳴をあげたらしい。怖いなら聞かなきゃいいのに、と思う。


「おっ、さく。本なんて読んじゃって」


「朔ちゃん、いっしょに話そうぜ」


 二人は何がおかしいのか笑い声をあげ、ぼくを呼ぶ。気にくわないのだろ。


「ぼくは興味ない、読書の邪魔しないで」


「あっ」という間もなく本を上から取り上げられる。こうなると返してと言ったところで返してくれない。


「⋯⋯⋯⋯」


「連れないなぁ? 朔」


 一際ひときわ明るい声で彼らは下品な声をだす。


 互いに干渉しなければいいそう思うのに、やたら彼らは邪魔をする。反応するのは負けだ。


「なんでこんなことすんの」


「男が本なんか読んでんの女々しいな」


「そんなの勝手だろ、噂話してるお前らの方がよっぽど女の子っぽい」


 やたらと腹がたつ。正直噂話して面白がる方がよっぽど女子っぽいと思う。それ自体別に悪いとは思わないけど、人の邪魔をするなら話は違ってくる。こんな妨害されると不愉快。


「朔、肝試しやるよな?」


「やらないよ」


 何がなんでも有無を言わせないという思考が透けて見える。だから次の言葉もわかりきっている。


「朔ちゃん、びびってんの?」

 ほら、きた。

「びびってないなら来るよな?」 


 ため息がこぼれる。正直言うと行きたくない、けれどやはり拒否権はないらしい。




 人が住んで居ない県営団地が1棟ある、そこをみな、特に小中学生が幽霊団地と呼ぶようになった。


 ぼくも詳しくは知らないけど。


 聞いた話では次々、人が出ていき過疎化して、今も建物は取り壊されずに残っている。


 そこを幽霊を見たと言う噂だけがひとり歩きするようになって、たまに中学生が肝試しをしているらしい。


 近くを何度も通ったことはある。

 少し薄暗くて気味が悪い。だから、通るときは早足で過ぎる。


 見上げたとき誰かが居たら怖いから。





「よし」

「行こう」


 彼らは楽しそうに言う、ぼくは半ば無理やり家から連れ出されてしまった。不可抗力である。


 陽が落ちようとしていて、見慣れた場所なのに、別の世界に迷い混んだように見える。


「や⋯⋯やっぱり帰りたい」


 幽霊が居たらと思うと口からついこぼれる。


「駄目に決まってんじゃん」


「帰らせねぇよ、バカ」


 なんとなく懐かしいような、それでいて、不快な気分になる。懐中電灯が地面を照らしている。二人は先へ先へと進みだす。


「待って」


 置いてきぼりになるのが怖くなって追いかける。


 ふと思った、これは肝試しというより探索なのではないかと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る