3.物音
もちろん大半の部屋が閉まっていた。しかし残念なことにある部屋のドアが無情にも開けれてしまったのだ。
「やりぃ」
「さすがダイちゃん」
嬉しそうに二人は騒ぐ、先ほどまでつまらなそうだったのに今やもうこの有り様。
入った瞬間、胸騒ぎがした。ここは夢でみた場所とあまりに似ていたから。
「おい、ハルキあっちみようぜ」
「おっけー」
その間も二人はずかずかと部屋の中を散策している。
「はやくこいよ、朔」
「ぼさっとすんなよ」
嫌な想像が掻き消せない、警鐘を鳴らしている。そんな感覚。これ以上中に入りたくない。
「なんだ、これ」
「枯れ葉? きもッ」
部屋の中に季節外れの枯れ葉があちらこちらにある。そうだ、嫌な予感はこれだ。夢と同じように枯れ葉が部屋の中にある、秋でも無いのに。
「なんもなくね」
「出ないのかよ、おもんねぇ」
飽きたらしい、良かったこれで帰れる。それなのにまだ警鐘が鳴り止まない。むしろ段々大きくなっている。
出ようと後ろを追おうとした瞬間、二人は嫌なくらい吊り上がった笑顔でドアを閉めた。
「開けて⋯⋯開けて⋯⋯」
閉じ込められた鍵はないが彼らは体重をかけて持たれているらしい。押し殺すような嗤い声が返ってくるだけだ。
「じゃあな、朔」とだけ告げて閉めるのを見ていた。
何度も殴り続けた、助けを請いつづけた。段々痛くなってきた、血がにじむ。その時、音がした。
ガサッ⋯⋯⋯⋯ガサッ⋯⋯⋯⋯。ガサッ⋯⋯⋯⋯ガサッ⋯⋯⋯⋯。カサッ⋯。
枯れ葉を踏む音、虫なんかじゃない。気のせいではなさそうだ。夢と同じような音がする。
懐中電灯を消す。見えないのは怖いが見つかる方がよっぽど怖くなってきた。冷や汗が止まらない。何故かドアの外が静かになっていた。自分の呼吸がやけに大きく聞こえる。ガサッ⋯⋯⋯⋯ガサッ⋯⋯。その時、体をムカデが這うような奇妙な感覚に襲われた。ピーーンポーン間延びしたようなチャイムの音が鳴った。外には人の気配はない。そもそもさっき三人で入る時チャイムは壊れていたはずだ。ガサッ⋯⋯ガサッ⋯⋯。先ほどより枯れ葉の踏む音が近くなっている。明確な方向を向いている、着実に玄関のぼくがいる方向へ足を向けて。動けない体が、息ができない。ガサッ⋯⋯ガサッ⋯⋯。ガサッ⋯ガサッ⋯。
がらがらがら⋯⋯ぴしゃん。足音とは別の方向ベランダから戸を開け閉めする物音がした。トンットンットンッ。ガサッ⋯⋯ガサッ⋯⋯。トンットンットンッ。先ほど枯れ葉を踏んでいた音とは別の足音が混じる。軽やかな足音。後ろにこれ以上は下がれない、そもそも動けない。何かが、複数ひしめいている。トトトッ⋯⋯⋯⋯トトッ⋯⋯トトトトトッ⋯⋯。早足で子どものような足音が増える。この部屋の中を走り回る子どもが頭に過る。ガサッ⋯⋯ガサッ⋯⋯。トンットンットンッ。ガサッ⋯⋯ガサッ⋯⋯。ピンポピンポピンポーンチャイムを連打する音がする。足が固まり
動けない。手を引っかかれたような感覚。ポトッ⋯⋯ポトッ⋯⋯。何かが住んで暮らしているそう感じた。上手く考えられない。ずるっ⋯⋯ずるっ⋯⋯。頭の中を虫が這っている。頭が痛い。ガサッ⋯⋯ガサッ⋯⋯。
頭の中に虫が入っていく。血が落ちていく。音が響く。ぺとっ。手に何かが触れた、目には見えない。ガサッ⋯⋯ガサッ⋯⋯⋯⋯。
魅せられるように、自分の意思とは無関係に足が動き出す。玄関とは反対方向へ。
ガサッ⋯⋯ガサッ⋯⋯⋯。ガサッ⋯⋯ガサッ⋯⋯。トトトッ⋯⋯⋯⋯トトッ⋯⋯トトトトトッ⋯⋯。ぺとっ⋯⋯ぺとっ⋯⋯ぺとっ⋯⋯⋯⋯。
がらがらがらっ⋯⋯⋯⋯。目の前でベランダがひとりでにひらく。
ベランダを何かの足跡が先行する。べとっ⋯⋯べとっ⋯⋯。体も勝手についていく。何かが手すりに体重をかけよじのぼる光景が頭に過る。体が後を追うように同じように動作する。ぎぃ⋯⋯⋯⋯ぎぃ⋯⋯⋯⋯。ガサッ⋯⋯ガサッ⋯⋯。トトトッ⋯⋯⋯⋯トトッ⋯⋯トトトトトッ⋯⋯。バンッ。何かがぶつかる感覚、体が前方に傾く。
恐怖が喜びに変わる。笑顔のはりつけた表情をしているらしい。手をパタパタする。もはや恐怖は残っていなかった来るべき死に心が踊った。視界が回転する。
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