第11話 異世界②
バス停近郊は海岸に近い場所にあった。なだらかな風景と眺めの良い場所で、地元スポットとしても人気で、観光名所としても有名な場所でもあった。近隣住人の憩いの場としても人気だった。海岸沿いには、様々な飲食店や雑貨関係の店が軒並み並び、国の経済効果に貢献していた。
その一角にある『アルメディアン王国雑貨専門店』と言う店があった。小さな店ではあったが……それでも店を営業してから20年近く続いていた。
……そんな店にその日少し風変わりな者がに1人(?)来店していた。
ネズミの様な姿で、頭に麦わら帽子を被り、大きな耳が麦わら帽子からはみ出ていた。顔も身体も丸く、手袋と茶色のブーツを履いていた。首にはマフラーを巻き、ジャケットと黒のズボンを履き、丸く黒い鼻の下にヒゲを生やしている、風変わりな者だった。
彼は店内を周り「ふーん、へえ……」と、頷きながら、店の中を歩き周り、色んな物を物色していた。
「中々良い品が売られていますね。ほお……これは天然熟成高級果実酒350年ものか……!」
「いやぁ……ダンナ中々良い目をしてますな、これはちょっとや……そっとじゃ手に入らない幻の逸品、それ相応の値段がしますよ」
「ふむ……」
来客者は店内をくまなく見て周り、結果的に干し肉と、柑橘類、クネクネ七色饅頭、ドリンク等を購入した。
「ところで、バス停はどちらにありますかな?」
「店を出て、西の通りを行った先に停留所があります、これから出掛けるのですか?」
「まあ、ちょっとね……。それにしても、しばらく来ない間に周りの景色が変わってしまって、ちょっと地形が分からくなってしまいましたよ」
「ほお……お客さん、以前もこの辺にいらしたのですか?」
「以前なんて言うよりも、もう随分前の過去の事ですよ」
来客者は和やかな表情をしながら店を出て行く。
*
ベンチに横たわった焦げ茶色の者を虎竜が近くへと見に行くと、それは体格の大きい熊の様な者だった。
その者は大きなイビキを掻いて眠っている。
「コイツ、昨夜からここで眠っていて、全く起きないんだ」
「この方を残して出発してしまえば?」
「ダメだ。彼がバスの運転手だ。バスは彼しか運転出来ない」
角の大男が呆れた口調で言う。
「全く……信じられませんよ、コイツは昨夜の夜10時から、ベンチで眠っていると付近の者が言ってました。現在午後2時だとして、ちょっと寝過ぎではありませんか?一般的にも8時間程眠れば良いものを、それ以上寝ているのは考えられません、かくなる上は、このわたくしめが、ひと肌脱ぎましょうぞ!こう見えても、あらゆる武芸を身に着け、独自に開発した究極の快眠技を得た技をお披露目しましょう!」
「お前はうるさい!さっきも同じ事しただろう!」
狐の者が、強引に猫の者を立ち退かす。
「目覚ましで起こすとかは?」
虎竜の言葉に皆は残念そうに首を横に振った。
彼等の表情を見て、虎竜は自分の足元を見ると、周りには破壊されたと思われる時計の残骸が無残に散らばっているのを確認する。
「コイツに目覚ましを鳴らして見たが……起きる処か、強烈な一撃を喰らわされて、俺達の目覚まし時計の方が永遠の眠りだよ」
悔しそうな表情で狐の者が言う。
「私の目覚まし時計も壊された……明日から、ちゃんと起きれるか不安だわ」
フィアラも、バックの中に機能しなくなった時計を取り出して悲しそうに言う。
彼等を見た虎竜は、熊の者の近くに行って、耳元で大声で声を掛ける。
「起きてくださーい!」
しかし……彼には反応すら無かった。
「起きろー!」
虎竜は熊の前でアレコレして見せるが、全く反応が無い。
数十分後……
虎竜も皆と同じ様に少し呆れた状態で、その場に座り込み熊の者を見るだけになってしまった。
「ふう……ここまで手強いと、流石に打つ手無しか……」
彼はセフィラの方を見た。
「ねえ、もし……魔術学園に行けなかった場合はどうなるの?」
「入学は今週中まで行っているから……まだ時間は大丈夫よ。ただ……学園は入学の為の適正検査を行っているのよ。学園内適正診断で、一定数に達した場合、その年の応募を打ち切って、それに間に合わなかった生徒は、翌年に繰り越しになるって言われているわ。だから、出来るだけ皆は早めに行くのよ」
「入学の検査期間は、駅は若い子が沢山になるよ。多分……今は駅の列車も順番待ちだろうな」
狐の者が皮肉ぽく言う。
「そう……なのか」
虎竜が少し呆れた様な表情して居ると、角の大男や猫の者が、何かに気付いた様子で、バス停の丘を上って来る者を見た。
「ふう……ふう……やっと着いた……」
その者を見るなり、狐の者は角大男に声を掛ける。
「知り合いか?」
「いや……初めて見ますね。どなたでしょう?まあ、少なくとも私や貴方達の知り合いではなさそうですね」
彼等が言い合っていると、その者はバス停付近集まっている彼等の側まで近寄る。
「おやぁ……?まだバスは出発では無いのですか?」
「運転手がお目覚めにならないのでね……。彼を永遠の眠りから解放してくれる、目覚めの口付けを提供してくれるお姫様か、美少女をどなたか紹介してくれますか?」
狐の者がネズミの男性にむかって声を掛ける。
「眠りのお姫様って言う童話があるの?」
虎竜は何気ない質問をフィアラにする。
「ええ、悪い魔法使いの呪いで眠りに落ちた姫が、王子様の口付けで目覚めるお話しがあります」
「へえ……そんなお話しが、この世界にもあるんだ。目覚めさせてくれる美少女ね……」
「美少女だなんて、そんな……私は大役任される自信はないわ。でも……貴方がどうしてもというなら……」
フィアラは恥ずかしそうに言いながらチラッと虎竜の方を見ると、彼は既にネズミの男性が居る側まで近寄っていた。
「は……?」
フィアラは少し呆れた様な表情で皆が集まって居る方へと近付く。
彼女が近付いた時、虎竜は彼女が少し頬を膨らませて居る様子に気が付き「どうしたの?」と、声を掛ける。
「別に……」
彼女はそれだけ言って顔を叛ける。
虎竜は、そんな彼女を皆見ながら、ふと……香ばしい匂いがする事に気付く。
「何か、良い匂いがしますね」
虎竜の言葉に気付いたネズミの男性が「ああ、これの事か?」と、バックの中から、取り出したものを見て、彼はハッと気付いた。
「もしかたら、これで運転手を起せるかも!」
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