第12話 異世界③

 虎竜は、バッグの中に入っていた真っ黄色の柑橘と干し肉を見て、ある事にを閃いた。


 「もしかしたら、これで起こせるかもしれません!」


 彼の言葉に狐の者と角の男が少し呆れた様子で彼を見た。


 「おいおい、大丈夫かよ?俺達が色々手を尽くしてもダメだったんぜ!」


 「オマエ、本当に起こせるのか?」


 不安そうにしてる彼等とは対照的に猫の者はメガネを整えながら言う。


 「まあ……理論的に考えれば不可能ではありませんが、場合によっては、こちらの方がせっかく用意した食材を失う事になりかねませんね。あまりお勧め出来る提案ではありません。かくなる上は私の極秘奥義、必殺寝ちゃった方を目覚めさせる……と言う超一流技なら完璧に彼を覚醒できますね。皆さんがどうしても見たいとおっしゃるのであれば、見せやらくとも無いのですが……」


 猫の者が自信たっぷりな表情をして腕組してる時に、彼を押し退けて狐の者が虎竜に近付く。


 「まあ、ここは君に任せよう。ダメだったら別の手段を選ぶまでだ」


 「了解です、では……やってみます!」


 彼が食材を持って移動する時セフィラが「頑張って!」と、彼に一声掛ける。それを聞いた虎竜は軽く微笑んだ。


 眠っている熊の者の頭部に移動した虎竜は、熊の者を見下ろす様な感じの立ち位置へと回り、柑橘と干し肉を彼の鼻の上へとぶら下げる。


 以前、彼は……家族でテレビを観ていた時、中々目覚めない人が柑橘類や、食事の匂い等で目を覚ましたと言う再現ドラマを観た。その現象が本当なら、現在自分達の手元にある食材で起こせる筈、しかも……熊の者は、長時間の睡眠で、空腹の筈……彼の予想が正しければ、この状況で目を覚ませる筈……


 そう思った瞬間だった―――


 ヒクヒク……と、鼻を動かし、美味しそうな匂いを感じた熊の者は突然、目が開き、ヌオオーー!と、言わんばかりに勢い良く起き上がって、干し肉と柑橘系の物に向かって、大きな口で被りついた。


 意識が覚醒すると同時に、目の前の食材に被りつく光景を目の当たりにした皆は、彼の作戦が上手く行った事に対して、大きな声を出しながらてを叩いて喜んだ。


 「ほお……お見事!」


 「ふむ、素晴らしいの……」


 等と皆が喜んでいた。その光景を目の当たりにして、口に柑橘系と干し肉を加えた熊の者は、目を丸くしながら周囲をキョロキョロと見回していた。


 「おんやあ……?ヤバッ!!ワシ、まさかまた寝落ちしまったか……?」


 事の事態に気付いた熊の者は、口に加えた干し肉と柑橘を食べ終え皆のると、自分の後ろに立っている虎竜に気付く……


 「アンタが起こしてくれたのか?」


 「ええ、まあ……」


 そう返事すると、熊の者はギュッと力強く彼の両手を強く握りしめた。


 「あんがとう、感謝するぞ!」


 彼は深々と礼をすると、前へと歩み寄ると頭を下げた。


 一礼した熊の者は、急いで近くの手洗い場へと向かって、急いで顔を洗い、用を済ませると、停車してるバスの側へと戻って来た。


 彼はバスのチョークを引いて、アクセルを数回踏み、車体の前のフロントグリルにクランク棒を差し込み、手回しで棒を数回、回転させる。


 ブオォン!


 バスがエンジンの唸り声を発生する。


 「お待たせ、皆乗ってくれ!」


 彼は陽気な声で停留所に集まった人達に声を掛ける。


 「ようやく発進か、さあ……皆乗ろう!」


 狐の者が皆に向かって言う。メガネを掛けた猫の者、角の大男達がバスへと乗り込む。


 その傍らで虎竜が乗車するバスを眺めていた。


 車体全体が木製のバスで、エンジンを掛ける動作は、昔……彼が身内の田舎に行ったときに、身内がレトロカーのエンジンを作動させる時の動作によく似ていた。


 まるで、こちらの世界が、少し日本の時代を遅らせながら発展して来ている様にも何処となく思えた。


 「さあ、我々も乗りましょうか」


 ネズミの男性が虎竜の傍に来て言う。彼の後ろにはセフィラの姿もあった。


 彼等3人が車内に入ると、熊の者が車内を確認する。


 「他に乗る方はおらんね?」


 彼の言葉に皆が頷くと、バスは停留所を出発してなだらかな下り坂をゆっくりと走行し始める。


 一番後ろの席に乗った虎竜と、セフィラ、ネズミの者が3人並んで座席に座っていた。


 虎竜は外の景色を見ると、熊の者を起こす間に陽は既に傾き始めていた。西に沈む夕焼け空は、それに連なるかの様に上空に浮かぶ惑星も赤みを帯びていた。


 バスは坂を降りて、広い道を走行する。前方に大きな木造の橋が見えて、そこから眺められる海を見ると、海の色が濃い青色をしていた。海には巨大で見た事の無い姿の魚が、橋の高さまで飛び上がり水飛沫を巻き上げる。


 「大迫力ですね!」


 「そうかね、まあ……こちらでは、見慣れた景観だがね……」


 虎竜が外の景色を見ていると、今度は別の巨大な魚の群れが、水面から飛び出して来たかと思うと、その魚は、そのまま上空を飛行して、橋の上を飛び越えて、反対側の海へと潜り込んだ。


 「中々……豪快な演出をする魚達もいるのですね……」


 「ま、まあ……目立ちたがり屋な魚達も居るようだね……」


 ネズミの者も初めて見る光景なのか少し驚いた様子だった。


 視線を海のほうへと向けると、更に巨大とも思える様な魚の背びれ見たいな物が確認できた。


 一行を乗せたバスは夕闇のにくれる長閑な草原地帯へと進路を進める、夕焼け空の下、赤く照らす台地の中、一本のアスファルトで出来た道を西方面にバスは進んで行った。


 道の途中、休憩場に立ち寄りながら、駅方面へと向かうバスの中、虎竜は自分の両隣を何気なく見た。右側に座っている民族衣装を着こんだ、自分よりも少し年下と思われる少女は、少し疲れたのか眠っている様子だった。


 右側に座るネズミの者を改めて見ると、少し他の者と比べて風変わりな様子だと感じた。彼は虎竜が自分を見ている事に気付くと「何かな?」と、声を掛ける。


 「そ……そう言えば、まだ謝ってませんでしたね?」


 「何をだね……?」


 「貴方の食材を無断で使ってしまって……」


 それを聞いた彼はハハハ!と笑い出した。


 「気に病む事では無い、確かに使われたが、その食材を食べた者が謝ったでは無いか、それに……君の行動のおかげで、我々は旅を出来たんだ、礼を言うのはむしろ我々の方だよ」


 「そうでしたか……」


 虎竜は少し安堵した表情で相手を見た。


 「そう言えば、貴方の名前をまだ聞いてませんでしたね。僕は中崎虎竜と言います」


 「虎竜君ね、なるほど了解……今後は、そう呼ばせて貰うね。私の名は……そうだね、佃坊≪でんぼう≫とでも呼んでくれ」


 佃坊と名乗る人物は、少し考え込んだ様子で彼に向かって言う。

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魔術学園物語 〜虎竜君の冒険奇譚 じゅんとく @ay19730514

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