第9話 不思議な空間
薄暗い不思議な空間の中を虎竜は歩いていた。コツコツ……と歩くスニーカーの足音が空間内に響き渡る。
周囲を見渡すと、大きな柱の様な物が一定の間合いで揃っている。その空間内を歩き続けて行くと、目の前に一ヶ所だけ暗闇の中を照らすような感じで、佇む受付場が設けられて居た。
受付場は、まるで小さな屋台の店の様な感じで置かれて居るかの様にも見えた。ふと……虎竜が、受付場の近くまで来ると、その近くの壁に大きな振り子時計が置かれている事に気付く。
振り子時計の時刻は、虎竜が廃墟の駅のに居た時に確認した時刻とは違っていて、時計が示している時刻は2時過ぎだった。
(なんだろう……この時計は?異世界の時刻を示して居るのかな?)
そう思いながら、彼は受付の場所へと近付く。受付の窓口には人の姿は無かった。
「え……と、こんにちは」
「はい。何か用ですかあ……」
「わあッ⁉」
突然背後から声が聞こえて、かれは振り向くと同紙に、その場でしゃがみ込んでしまう。
「うわ……何ですか、アナタは?」
「ああ、失礼……私は、ここで受付担当しているヤマザキと言う者です。以後……お見知りおきを」
ヤマザキと言う男性は、そう言って軽く一礼をした。
突然何処からともなく出現したヤマザキと名乗る男性に対して、虎竜は少しばかり奇妙な雰囲気を感じた。
黒色の帽子と制服を着こみ、背丈は虎竜と比べて、少し低く、身体も制服が大きすぎるのか、ブカブカな感じがしているので身体は痩せてる感じがした。
「何か御用ですか?」
「え、ああ……あの、異世界に行く為の手続きをしようとしまして」
「異世界……何処の異世界ですか?」
「何処って?」
「私が知る限りでは約10000以上の世界がありますが……どちらをご希望ですか?」
「そんなにあるの⁉」
「ええ、探せばもっとあります!」
彼は、ふと……虎竜を見て何かを思い出したかの様に考え込む。
「ところで、アナタは今回初めて訪れる方なのですか?」
「はい、そうですが……何か?」
「以前、首都・明道園≪めいどうえん≫に行った方が居まして、何処となく似ている感じがしますが……」
「自分は、そんな世界は知りませんね、僕が行く場所はアルメディアン王国と言う場所です」
「ほお……そうでしたか、では……直ぐに調べます」
男性は、そう言って、受付の部屋の中へと瞬間的に移動した。その一部始終をみた彼は起き上がって受付場の近くへと行く。
「え、どうやったの?」
「はい?」
虎竜は周囲を見回すが、何処にも扉らしき入口は無く、男性は一瞬で受付場の中に入り込んだ。
「コツがあるんですよ、まあ……凡人には逆立ちしても不可能ではありますが」
ヤマザキは満面の笑みを浮かべながら言う。虎竜は何か嫌味言われているようで少し腹がたった。
「ちなみにお客様、アルメディアン王国と呼ばれる場所が、複数見つかりましたが、王国のどちらまで行かれますか?」
「あ……えと、魔術学園です」
「魔術学園ですか!」
ヤマザキは少し驚いた様な顔で答える。
「何か推薦状とか、招待状はお持ちですか?」
「いえ、持ってませんが……」
持ってない……と、言う虎竜の言葉に対して、彼は少し呆気に取られた様な表情をする。
「そうですか……取り敢えずお調べしますので、こちらの用紙にサインをしてください」
ヤマザキから紙とペンを渡されるが、そこにある記入欄の項目が何処の言語なのか、全く意味不明な文章が綴ってあった。
「何ですかコレ……?」
「ええと、ですね……上から住所、名前、生年月日、電話番号、性別、それと……好きな食べ物、あと……ガーリックペッパーに会う食材と、レシピ……それと、これまで歩いた歩数の記入です」
「はい?」
虎竜は、困惑した表情で返事をした。
「好きな食べ物までは分かりましたけど、何故、自己紹介の欄にレシピと歩数の記入しなければならないのですか?」
「え、普通記入しませんか?」
「名前とかは書きますけど、歩数なんて、生まれた時から歩数記録している人は存在しませんよ」
「そう、じゃあ、歩数やレシピ以外を書いて下さい」
そう言われて、虎竜は住所や名前を書き終えて、ペンと紙をヤマザキに渡した。それを受け取ったヤマザキは書かれた紙を見るなり「汚ねえ字だな」と、呟く。
(コイツ……!)
虎竜は一発殴ってやろうかと本気で思った。
「少々お待ちください」
そう言って、彼は素早くキーボードを打ち込むが、何処かで打ち間違えたのか、入力し直す。その時、デスクトップを軽く叩いた。
「おかしいな……」
再び、キーボードを打ち込むが、入力をミスって最初からやり直す。その時彼はデスクトップをガンガンと叩いた。
「この野郎……!」
再び入力し直す時、遂に彼は完全に苛立ってしまう。
「うおのれー……ポンコツ野郎ー!」
彼は椅子を持ち上げて、デスクトップを叩こうとした。
「ちょ……ちょっと、落ち着いて!」
虎竜の言葉を聞いた彼は、気を取り直して「失礼しました」と、椅子に座って入力し直す。
「おや……?」
入力が終えると、コンピュータの隣にあるプリンターから用紙が出て来るのに彼は気付く。
「貴方宛の学園からの招待状が届きましたよ」
ヤマザキは招待状がプリントされた紙と、ハルナが腕に巻き付けていたウェアラブル端末の様な物を彼に渡す。
「そちらのチケット端末を手首等に巻き付ければ、以後……こちらに入力した場所から行き来が可能になります。出入りしたい場所を端末に入力すれば、より便利に移動が可能となります」
「わかりました。ありがとうございます」
「ちなみに、翻訳用の機器はとかアクセサリーはお持ちですか?」
「はい、これですね」
虎竜はハルナから受け取ったペンダントを見せると、彼は大丈夫と言う様な笑みで頷く。
「もし……旅の途中、困った事があったら、チケット端末を000にして、身近にあるアクセス用ボックスに行けば、大丈夫です」
「分かりました」
虎竜はチケット端末を腕に付けて招待状の紙をバッグの中へと入れる。
「では……行ってきます」
「良い、旅を……」
ヤマザキは軽く手を振った。
「そう言えば、思い出しました」
「何がですか?」
「首都・明道園があった場所、新たに建国された国がアルメディアン王国でしたよ。確か……その時、日本から向こうの世界に行った方も、私の記憶が正しければ名前が中崎だった様な?」
「え……誰ですか?」
「ちょっと……思い出せません」
ヤマザキは愛想笑いしながら答える。
「まあ、思い出したら、そちらの端末にメッセージを送って置きますね」
「は……はい、分かりました。ではメッセージが届くのを楽しみにしてます」
「かしこまりました。では、そちらにある白い扉の前のボックスに端末を押し当ててから扉を開けてください」
虎竜は壁の方へと向かい、白い扉の形状した壁の前にあるボックスへと端末を押し当てた。
すると、壁がガコンと軽く音を立てて、目の前に扉が出現する。
扉を開ける前に、彼は振り返るとヤマザキが受付場から出て、自分の真後ろに立っているのを確認して、軽く一礼をすると彼は扉のドアノブにてを掛けて勢い良く外へと飛び出した。
パアッと眩しい光が視界に広がる。
薄暗い空間から眩しい場所へと飛び出した為、目が慣れるまで少し時間が掛かった。
ようやく視界が慣れて来て、周囲を見渡すと……少し陽射しが傾き始めた様な午後の空模様だった。
辺りを見渡すと、見た事の無い世界……地球上には存在しない異形の風景が広がって居た。建物に書かれて居る文字をとっても、地球上には存在しないと思われる用語で書かれていた。
ふと……周りを見渡すと、目の前で、色んな者達が集まっているの場所を見つけた。
(何だろう?)
虎竜がそう思っていると、人間の様な姿の女の子が彼の側へと近付き、彼に声を掛けてきた。
「〇▽〇▽▲◎〇●△〇▽〇▽▲◎〇●△?」
何を言っているのか全く分からない。
女の子は不思議そうな表情で、皆の方へと戻って行ってしまう。
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