第6話 扉の向こうへ……③

 ガチャン、チリンチリン……


 扉が開き、来店する客に「いらっしゃいませー!」と、愛想の良い笑顔でお迎えするアルメディアン・カフェの店長、灰色の頭髪に鼻の下にヒゲを生やした、60代前後と思われる男性は、来店した若いカップルが見晴らしの良い窓辺の席に行こうとした時、窓辺に座る3人組の来客の姿を見てカップル達に声を掛ける。


 「お客様、こちらの方が眺めが良いですよ」


 店長は、敢えて彼等の会話が聞こえない方へと彼等を誘導した。


 窓辺に座る虎竜は、自分の向かい側に座るハルナと詩織のを見て少し戸惑った様な表情をしていた。


 「で……話しとは何?」


 「その前に、簡単な自己紹介をさせて貰うわ、私は魔術学園で教師をしているハルナと言います」


 彼女は、そう言うなりポシェットの中から魔術学園の教師をしている照明のカードを虎竜の前に出した。そのカードは顔写真付で、異世界の文字が刻まれていた。カードは不思議な構造で、作られていて、プリズムの様な角度を変えると色が変えられて、更に何もしていないのに文字が変わり、カードに描かれている背景も様々な景色へと切り替わった。


 「で……隣の松山詩織ちゃんは、今期の魔術学園の入学として推薦したのよ」


 「え、そうだったんですか?」


 虎竜は、驚きながら自分の向かい側に座って特盛パフェを食べている少女に目を向ける。


 「まあ、彼女の場合は特別だけどね」


 「パパとママが、向こうの世界の人なのよ」


 詩織はパフェを頬ぶりながら言う。


 「彼の両親とは何度もお会いしてる仲で、今期の魔術学園の入学に推薦したわ。で……私達は、貴方達の住む日本から、彼女と貴方、そして……もう1人の子を、今回待遇するつもりで来たのよ」


 「つまり……僕達を異世界に連れて行くと言うことですか?」


 「ま……まあ、簡単に言ってしまえば、そうなるかな?ちなみに私達は、異世界なんて言う言葉は使わないわ」


 「分かりました。でも……何故、僕が推薦されたのですか?」


 「貴方には特別な能力が秘められて居ると、ある方から聞いたのよ」


 それを聞いた虎竜は、その人物が誰なのか直ぐに理解出来た。


 「フユキさんと言う方からですか?」


 「それは、この場では言えないわ。彼と貴方がどんなやり取りをしていたかまでは、私達は聞かされてないけど……。まあ、1つ言える事は、ウチの学園長は、結構いたずらっぽい一面があるのよね。話しを膨張させて、相手を驚かす事とか好きそうなのよね」


 それをきいた虎竜は、フユキが学園長と言うのを隠す為に、敢えて自分に作り話を持ちかけた……と考えると、以外に納得出来てしまう感じがした。その中で彼が1つ気になっていた事をハルナに問いかける。


 「1つお聞きしたいのですが……良いでしょうか?」


 「何かしら?」


 「アルメディアン王国て、現在激しい内紛とか起きているのですか?」


 虎竜の言葉にハルナはクスッと笑ってしまう。


 「全然そんな事は無いわよ、至って平和だわ。まあ……多分誰に聞かされたかは大抵予想が着くから、聞かないけど……多分その人は、貴方にアルメディアン王国に興味を持たせる為に敢えて作り話をして、貴方にアルメディアン王国に来させようとしたと……予想が着くわね」


 「そうだったのですか?では……そのアルメディアン王国とは一体どんな国なのですか?」


 彼の言葉に少し目を閉じたハルナが、残り半分だったコーヒーを飲み干して、虎竜に向かって口を開く。


 「そうね……以前は、国の大半が未開の地に覆われていたわ。でも……国家の発展と共に近代化が進んだ国ね。経済も発展した平和な国よ」


 ハルナの話しを聞いて虎竜は、フユキに出鱈目な事を吹き込まれた事に、少しばかり腹が立った。


 「まあ……でも、国内が内紛て、あの人にしては随分とマイルドな作り話ね」


 「え……マイルドですか?」


 虎竜は少し呆れたような表情をした。


 「詩織ちゃんの場合なんて……アルメディアン王国は、まだ未開の原始世界で行ったら最後、二度と戻れないとか言われたそうよ」


 「そんな事を言ってたのですか?」


 彼はフユキは真面目な人だと思って居たが……想像とは違う事に驚かされた。


 「では……光明石の事も嘘だったのですか?」


 その事にハルナは「えッ?」と、驚いた表情を見せた。


 「光明石がどうしたの?」


 それまでの彼女の穏やかな表情が一変、少し戸惑う様な感じを見せていた。


 「いえ……光明石を持った時に、それが光ったのですが……」


 虎竜の言葉にハルナは少し驚いた様子で考えこんだ。彼女はブツブツ……と、「なるほね……だからか……」と、何か言ってい頷く。


 彼女の隣を見ると……詩織は既にパフェを完食して、スマホを手にして友達にチャットを送って居た。


 「虎竜君……」


 ハルナの言葉に彼は「はい」と、返事をする。


 「彼からは、どんな話しを聞かされたの?」


 「え……水晶の中に女神様が眠っていて、光明石を光らせる者が女神様を目覚めさせれるとか……言ってました」


 「ふうん……女神様かぁ」


 「本当は、どうなんですか?」


 「まあ……どちらかと言うと少し近いかな?」


 ハルナの回答に、真相を聞けなかった事へのもどかしさを虎竜は感じた。


 「今、この場では教えてくれないのですか?」


 「君は、まだアルメディアン王国に行って無いし、それに詳しく話すと、多分何を言っているのか解らないと思うわ。光明石の事を知りたいなら、多少なりともアルメディアン王国に付いての知識が必要になるからね」


 (真相を知りたければ、こちらの世界に来い……と言う事ね)


 虎竜は、フユキに会って文句を言いたい事もあったので、アルメディアン王国に行く決意を固めた。


 「分かりました、光明石の事もあるので、アルメディアン王国に行きます。ただ……親にはどの様に言えば良いですか?」


 「その辺の事は心配しなくても大丈夫、私が少し能力を使って置いたから気にしなくても大丈夫よ」


 随分と手回しが早いな……と、虎竜は感じた。


 「そう言えば、あと1人は誰ですか?」


 「残りの1人の子は、残念ながら私の管轄外なの……でも、魔術学園で彼とは会えるかも知れないわね」


 「なるほど……」


 そう話しが終わると、ハルナは席を立った。


 「ちなみに、明日朝5時に貴方のマンションに迎えに行くけど、朝は大丈夫から?」


 「随分早いですね……」


 虎竜は呆れた表情で言う。


 「遅刻常習犯が早起きなんて大丈夫かしら?何なら私の美声でモーニングコールしても良いけど」


 (何が悲しくて朝からアンタの罵声なんて聞かなければならないんだ⁉︎一体どんな罰ゲームだ!)


 と、言いたかったが虎竜は「大丈夫です、頑張って起きますから……」と、伝える。


 「ところで、番長……ブ」


 うっかり何時のクセで変なアダ名を言ってしまった瞬間、おしぼりが彼の顔に直撃した。


 「あら、ごめんなさい、つい手が滑ってしまったわ」


 詩織はフフッと顔をひきつらせながら笑う。


 「で……なにかしら?」


 「君も、明日は早起きで合流なの?」


 「いえ……私は、既にアルメディアン王国に行く為のチケットがあるから、多分……向こうでの駅で合流になるわね」


 「どう言う事なの?」


 「色んな場所から、アルメディアン王国に行き来する手段はあるのよ。ただ……貴方のマンション付近からだと、最も近い入り口は……山の中まで行く事になるわね」


 「でしたら、僕も彼女と一緒の場所から出立すれば良いのでは?」


 その彼の問いにハルナは首を横に振った。


 「貴方は今回初めてアルメディアン王国に行くので、どうしても最初の手続きが必要になるわ。その手続きさえ完了すれば、どこからでも出立出来るから、今回は、私が入口まで案内するわ」


 「え……そうなの……?」


 虎竜は少し呆れた表情で答える。

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