第4話 扉の向こうへ……①

 夜8時過ぎ、商店街のアーケード沿いには人の姿もチラホラと確認出来た。道路を挟んで向かい側の道沿いではあるが、柵を飛び越えて行くのは、流石に交通量の多い場所ではリスクがあったし人目もある為、目立つ様な行動は避けようと思った虎竜は、交差点のある横断歩道から反対側へ向おうと、信号機がある場所へと走り出すが、思ってた以上に距離があった為、信号機に着く頃には息切れをしていた。


 信号の色が変わるまでには一息着けて、彼は信号の色が赤く変わると同時に横断歩道を渡って、向かい側の幻夢堂へと向かった。


 夜8時過ぎになると、商店街のほとんどの店はシャッターを降ろしてしまう。店によっては7時半位には、シャッターの半分を降ろしていて、余程の理由が無ければ、店に入ろうなどと思う人は居なかった。


 商店街で夜遅くまで営業してる店は、個人で営んでる居酒屋か、深夜まで営業してるラーメン店位であった。


 幻夢堂も、雑貨関係に近い店で、夜7時位には店を閉めても良い感じの店舗に感じた。しかし……その日の営業は、夜8時過ぎでも開いていた。虎竜は駆け足で店へと向かう。


 運動があまり特異な方では無かった彼は、息を切らしながら店へと向かった。自販機がある場所から、そう遠くは無かったはずなのに、走って見ると予想以上に距離を感じてしまう。


 やっとの思いで目的地に到着する頃、学年最下位の運動音痴の彼は「ゼ~……ゼ~」と、行息を切らしている状態だった。


 虎竜が店舗から店を眺められるガラス窓に近付いた時、彼は「えッ!?」と、驚いた様子で店を見た。


 先日まで、ガラス窓の向かい側の棚から、店内周辺の至る所に鎮座されていた筈の、異世界の商品がほとんど無くなり、店の中は殺風景とも思われる感じだった。


 (どう言う事……これは?)


 そう思っている間にも、彼の足は店の中へと入ってい行く。ガチャンとドアを開けると、店主である男性が紙に書かれた資料を確認しながら、彼の主婦と一緒に異世界の商品を箱詰めしていた。


 彼は来店客が来たと気付くと「ああ……すまんが、今は取り込み中でな……」と、言うが、彼は以前、店の前で転倒した少年が自分の目の前に立って居ると気付くと、少し驚いた様子で彼を見る。


 「おや……君は!?」


 片付け作業してた彼は、驚いた表情で主婦に「少し中断しよう」と、声を掛ける。女性は頷いて、店の奥へと行ってしまった。


 男性は、側にあった椅子を2つ用意して、1つを虎竜に差し出す。


 「中学生が、こんな夜に1人で出歩くのは良くないな……」


 彼は最初の一言を、ワザと皮肉っぽい言い方をした。


 「しばらく、お店が消えてましたね。しかも……お店が現れたと思ったら、片付けして……何か理由があるのですか?」


 虎竜の鋭い発言に、男性は返答に戸惑う。どう切り出して良いのか迷っていた。


 「確か……君は異世界は信じて無かったのだろう?その様な者には理解出来ない事だよ」


 虎竜は成績は悪いが、決して頭が悪い訳では無かった、男性が何かを隠そうとして必死に誤魔化そうとしている事位、彼には見抜けた。


 先日、彼は男性の話しを聞いてから、異世界に付いて興味を感じ、もっと色んな話しが聞けると期待していたが、やっと会えた途端に、まるで話しをはぐらかされている様な事に、彼は不快感を拭い切れない状態だった。


 「もっと色んな話しが聞けると期待してたのに……残念です!」


 そう言って虎竜は立ち上がると、店を出ようとした。


 その時、彼は棚に置いてあった、箱に肘が当たって、箱が落下してしまう。咄嗟に彼は箱を受け止めたのだが、中に入っていた石が落ちてしまった。


 虎竜は、床に落ちた石を拾った瞬間、石が眩い光を発した。


 ピカァ!


 「お、おおッ!これは……!」


 男性の声に気付いた女性が、店内の奥から現れ、その発光現象をみて驚く。


 驚いた虎竜は、慌てて石を箱に戻して男性に返す。


 男性は、受け取った箱を虎竜に渡した。


 「これは、お前さんが持っていなさい」


 「え……でも、これは商品なのでは?」


 その言葉に男性は黙て首を横に振った。


 「異世界を信じて居ないのだろう?ならば、この箱は家の戸棚の奥に閉まって置いて、我々の事は忘れて、普通の人として生活すると良い。我々は、ここを立ち去り、もう二度と、この場所には戻らないから……」


 「そんな、じゃあ……せめて、伯父さんが何処の誰なのか位教えてくださいよ!」


 虎竜の言葉に男性は軽く笑みを浮かべる。


 「私はフユキと言い、妻はミサと言う。我々は、自分達が居たアルメディアン王国が、最近紛争で、国内が緊迫した状況にあるので、それに加勢しに行こうと思っているのだ。それと……君が今光らせた石は、ある特殊能力を秘めた人間のみが扱える物だよ」


 「何ですか、それは……?」


 「遥か昔、我が国は、大災害に飲み込まれた。作物は枯れて、多くの人間や動物が、疫病等で死に絶えて、世界が崩壊仕掛けた時だった。天空の彼方から女神様が降り立ち、崩壊し掛けた世界に神秘の力を使い救ってくれたのだ。だが……力を使い果たした女神様は、水晶化してしまい、水晶の中で長い眠りへと入ったのだ。その女神様を再び目覚めさせる事の出来る者、それは『光明石こうみょうせき』と呼ばれる石を輝かせる者のみと言われている」


 「光明石?」


 「今、君が手にしているものだよ。我々の住むアルメディアン王国では過去数百年……誰も光らせる事が出来なかった事を、君は見事に成し遂げたのだ!」


 「そ……そんな、学校のテストだって万年最下位の僕が、そんな事出来る訳無いよ!」


 その言葉にフユキは軽く笑みを浮かべる。


 「そう思うなら、店を出て我々の事など忘れて、普通の生活を送ると良い。その石と箱は君に差し上げる。良いか……その石を持って居ると、今後、お主に近付く者が現れるかもしれないから気を付けるのだぞ!それと……もし、石の事に聞かれても迂闊に話してはならないぞ!」


 虎竜は戸惑った表情をしていた。嘘が苦手の彼に取って、フユキから聞いた事を忘れる事は難しく、更に石を知らないと隠し通せるか、どうか……自信が無かった。


 フユキが何気なく時計を見ると、時刻は夜9時を指そうとしていた。


 「さあ……あまり遅いと家族も心配するから帰った方が良いぞ」


 彼は虎竜を店の外へと押し出した。


 「あ……あのフユキさん!」


 「何だね?」


 「フユキさんは、アルメディアン王国に戦争しに行くのですか?」


 「ああ、とても危険な任務だ。子供には参加させらないほどのな……」


 「どんな作戦ですか?」


 「ええと……それは、そう……とても危険で、恐ろしいゲリラ戦法で、すごく恐ろしくて危ない作戦で、他人には決して言えない作戦なんだよ」


 それを聞いた虎竜は少し呆気に捕らわれた。他人には言えないとか、言っておいて喋っているよね……と、虎竜は言いたかった。


 「と、とりあえず……ご武運を」


 「ありがとう」


 虎竜は、ふと……視線を店の奥へと向けると、彼の妻ミサが軽く手を振って居た。


 彼は2人に向かって軽く一礼手して、帰って行く。フユキは虎竜が帰って行く後ろ姿を眺めていた。


 「彼は来るかしら?」


 「ああ、きっとハルナ達が連れて来るだろう。もう1人の方は……何と言ったかな?」


 「松山詩織ちゃんの事?」


 「ああ、そうだった。後は彼女達に任せよう」


 「それにしても……女神様だなんて」


 ミサはクスッと笑う。


 「は……半分は嘘では無いぞ!」


 「はいはい、分かりましたよ。学園長先生」


 そう言いながら彼等は店のシャッターを降ろした。

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