第2話 中崎家
~翌日……
「虎竜、何をしているの!早くしないと遅刻するわよ!」
母の叱りで、慌てて制服に着替えてパンを加えながら、虎竜は鞄を持って玄関へと向かう。
「行って来ますー!」
彼は母に声を掛けると駆け足で家を出る。小さなマンションに済む中崎一家は、マンションの最上階で暮らして居た。
エレベーターを待つ、最上階にエレベーターが到着すると乗り込み、1階のボタンを押す。通勤ラッシュの時間帯はエレベーターは各階に止まり、1階に到着する頃にはエレベーターが満員状態だった。
彼は毎朝の学校は駆け足だったが、運動が苦手の彼は途中まで走ると、そこからは歩きになる。
遅刻常習犯で、遅刻の度に彼の天敵である風紀委員とか言って威張る女子に、毎回反省文の紙を渡されている日々だった。
彼は先日、提出が遅いと言われた反省文を風紀委員番長に1枚渡したら、何故か用紙が3枚になって返って来た。
「ちょっと何これ……?」
と、彼が文句を言うと。
「誤字があったわ、それと遅刻した時間が間違っている、あと……脱字があったし、文章から遅刻に対しての反省の意図が見受けられなかったわ。それ以上に字が汚過ぎるから、全部書き直してきてね。ちなみに……今日中に提出しなかったら、明日から1日1枚反省文の用紙を増やすから覚悟していてね」
この女子は他人に文句言う為だけに生まれて来たのか!それ以上に、どんなペナルティーだよ。完全なブラック校則だな……と、彼は内心思った。
そんな事にめげずに、何時もと同じ様子で彼が徒歩で歩いて居ると、友人達が彼に朝の挨拶をして来る。
毎日の日課の商店街の道を歩き、例の『幻夢堂』の前を、友人と何気ない会話の時にチラッと見るが、昨日見た時と同じ様に更地の状態だったのを彼は確認した。
夏休み前……学校は数日後の1学期の終業式を控えて半日で終わる。昼間の帰宅で虎竜はマンションへと帰る。オートロック式の扉に番号を入力させて、マンション内へと入り、最上階の、自分達が暮らす部屋でキーを入力させ扉を開けて入る。
昼間の帰宅で誰も居ない。虎竜の両親は共働きで、母が帰って来るのは、決まって夕方5時だった。
テーブルに目を向けると、母親が事前にお金を用意してあり、書き置きの手紙にコンビニでおにぎりか弁当を買うように書いてあった。
彼は親が用意してくれた小遣いを持って出掛けようとした時、友人からメッセージの着信をキャッチする。
「サトルの家で、スプラのバトルしようぜ!」
虎竜は画面を確認すると、自転車でコンビニへと行き買い物を済ませ、そのまま友人宅へと向かう。
友人宅に行った彼は、スプラのバトルをプレイしていて、順番待ちしてる時に軽く昼食をして、彼の部屋に置いてある漫画雑誌を読んでいた。その時……彼の妹友達関係と言う事で、虎竜の同級生の女子も来て皆で賑わっていた。
「ねえ、そう言えばさ虎竜君て、風紀委員長の松山先輩に相当気に入られてるよね?」
「本当、私も見ててそう思うわ。彼の時だけ、何故か先輩、アレコレと指示させるのよね」
「ええ……止めてくれ、僕に取っては風紀委員番長は天敵でもあり、ラスボスだ!学校卒業したら彼女とは二度と接することの無い場所に引っ越したいよ」
そんな風に彼がいうと、同級生で少し体格の良い男子が、彼の肩に腕を掛けて来た。
「虎竜……諦めろ、運命は変えられないのだ」
(一体どんな運命だよ!)
彼は、そう叫びたかった。
「ところで虎竜、知っているか……?ヒロシが最近入院してたらしいって噂だったぜ」
「え……!そうだったの?知らなかったよ」
「何だ、お前達友人じゃなかったのかよ?」
「彼とは小学生の頃、一緒に野球やってた位で、中学に入って野球部練習がきつくて、僕は今年になって辞めて、それ以降は彼とも連絡とかは取り合って無かったんだ」
(なるほどね……テストの順位がワースト1では無かったのは、彼が休んでたからなのか……)
「お前は、アイツからも目をつけられて居るみたいだな」
「止めてくれ!彼とは小学生時代の仲で、今は教室も違うし、会話と言う程の会話はしていないんだよ」
皆と雑談しながらゲームしてた虎竜は、午後4時半を過ぎる頃、友人達と解散して帰宅した。家に帰る途中、彼は『幻夢堂』があった場所に自転車を止めて、周囲を見回した。
少年の彼は建築菅家の事は詳しくは無いが……それでも、僅か1~2日で建物を撤去して元の更地までにするには数日間は掛かると思っていた。それ以上に、建物があった場所には雑草が生い茂って居る。既に長い期間、何も無かった様な感じをさせられた。
虎竜が周囲を見回していると、彼の事が気になった隣の雑貨屋に勤めている年配の女性が店内から出て来た。
「さっきから何をしているんだい?」
「あ、すみません……この辺に風変わりな店があったと思ったのですけど……」
「ああ……幻夢堂ね」
それを聞いて虎竜は少し安堵した。自分が見たのは決して幻では無かったと彼は確信した。
「多分……今は、店の人達は皆異世界に行って居ると思うよ」
「はい?」
虎竜は自分の耳を疑うかの様な発言に少し驚いた。
まさか、そんな異世界とは無縁と思われる年配の女性の口から異世界と言う単語が飛び出して来るとは彼は想像も付かなかった。
「アンタ、店の人と知り合いなのかい?」
「知り合いと言うか……先日、この付近で転倒してしまって」
虎竜はズボンの裾を捲って、まだ絆創膏を貼ってある膝を見せる。それを見た女性は「ふーん……」と、明らかに興味なさそうな返事をした。
「あんまり、彼等と関わらない方が良いよ。彼等と関わって居ると、アンタも異世界に連れて行かれるわよ」
「そ……そうなのですか」
彼は愛想笑いしながら答える。
女性が店に戻ろうとした時、虎竜は女性に一声掛ける。
「店の人は、もう戻っては来ないのですか?」
「さあね……どうだろうね、向こうで何か急用でも出来たんだろう?少し待てば、また店が現れるよ」
女性の言葉を聞いて虎竜は安心して、そのまま自転車に乗ってマンションへと向かった。
時刻は夕方の5時頃で、その時間帯には母親が食材を購入して、帰って来ていた。虎竜は、夕食の手伝いをする。
食卓のテーブルに出来たての料理が並べられる頃、父親も帰って来て皆で食事をする。
食事を終えて、一息着くと虎竜は寝室へと行き、ベッドに軽く横たわる。ウトウト……転寝しそうな時だった。
彼の新しいスマホがショートメールの着信をキャッチした。
「んん……?」
スマホを片手にメッセージを開くと、ヒロシからのメッセージに気付く。
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