第7話 七十歳ディスコ
タブレットからはまるで和風の外装からは想像できなようなディスコパーティが行われている惨状が映しだされる。ディスコボールがせわしなく回り、派手な曲が流れている。レーザー光線が壁をつたってカメラに映り、いちいちディスプレイが眩しい。読者諸君もたいそう気になるだろうから歌詞の一部をここに書いておこう。
「Hey! Hey!ワシは恩納月!区長で偉くて今年で古希!Yeah!まさにワシの時代は古記なんかじゃない!まだまだ長生きするぜ!フーーー!!!」
聞くに堪えない絶望的なBGMである。そんななか画面の向こうで誰かが呼ぶ声がする。
「お!君が若菜ちゃん?ワシと飲もうぜ!」見てみると四匹の若々しい美兎に囲まれ、シャンパンをあけまくっている例の区長がいる。大方の予想通り変態帯妻者野郎だったのだ。
「い、いえ、結構です…」。
「え?ノリ悪くない?楽しいぜ、ほれ!」
抵抗する妹さんに対しシャンパンを天井にぶちまける七十歳。カメラにシャンパンがかかり画面が見えなくなる。ふと望月の隣ではお目当ての兎に大月が必死で電話をつないでいた。
「ほらほら!こっち来なよ!」
「結構です!私もう帰ります!」音声だけが聞こえてくる。流石にまずいな。俺が事態は悪化を見計らい、中に突撃しようとしたその瞬間
「触んじゃねえええ!変態っ!」ガシャン!!!と断末魔と衝撃音が家の中から直接も、画面の向こうからも二重に聞こえた。何事かと呆然としていると憤慨しながらドアをドンッと開け、外に妹さんが戻ってきた。
「なんなの、あのジジイ!マジないわ!あの歳でディスコパーティって。やばすぎる。あんなのが区長なわけ!?まじで、まじでないわー。私たちの税金返せ!!!」
あまりの衝撃から語彙力を失っているようだ。
「まじでこんだけ私体張ったんですから人参たくさんくださいよ?」
「え?いやだから人参とかないって!」
「はあ?家には?」
「二本」
「はあああ??!!」
ダイナマイトの様に爆発する妹さんをなだめていると
「おい!望月!」
離れて作業をしていた大月から呼ばれた。
「繋がったぞ!もうじき戻ってきてくれるらしい!」
「よくやった!大月!」
二匹の会話内容が全くわからない妹さんは話をスルーし、話題を変えて話かけてきた。
「ところでなんかこの辺さっきから人参の匂いがしません?」
え?そうかな?人参欲求がすごすぎて鼻が利かなくなったんじゃない?と返す暇もなく妹さんはのらりくらり自身の鼻を頼りにどこかへぴょんぴょん飛んでいく。仕方がないので望月もついていく。
周囲の建物の間を二十秒ほど移動する。なお、周囲すべての建造物は区長の物だと思うと恐ろしく感じた。家という敷地ではなくもはや大きな公園のようである。
「ここです!ここが一番匂いが強い!」指さす方向を見てみると何やら大型の倉庫のようなものがあった。倉庫の大きさにたじろいていると視界の端に妹さんがずかずかと倉庫の扉の方へ歩いていく。
「あ!ドア、鍵あいてますよ!!」
「おい!勝手に入るな!!」注意するも全く聞く耳を持たず、カメラをつけた耳は闇のなかへ消えていった。幼稚園児の相手をしている気分になる。急いで望月もついていくと中から
「キャーーーーーー!」と高い声が聞こえた。
「おい!大丈夫か!」身構えながら中にはいると驚くべき後景がそこには広がっていた。
「な、なんだこれはっ!!」
そこには超大量に山積みにされた高級人参があった。一面にはただただ人参のオレンジ色が広がっている。高さは優に五メートルは超え、数えきれぬほどの数だ。あの奇声はただの歓声だったのだ。
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