第6話 オフ会潜入計画

 恩納月の誕生日オフ会招待のお知らせ


 こんにちは!区長の恩納月です!ありがたいことに私は今年で九歳(人間でいう七十歳)になりました。時が経つのは早いものですね(笑)。ということで私の誕生日を祝って今週の土曜日に誕生日会を開きたいと思います!ごちそうもご用意いたしますのでぜひご参加ください!場所は春の海北西区の私の家です!なお、このメールは特定の方のみに贈っています。拡散はお控えください。



 俺はこれを読んだとたん寒気がした。まるで下駄をはく七十歳の文章には見えず、挙句の果てには(笑)までつけている。拡散防止を防ぐ最後の文にも強い意志を感じる。

「これは俺の妹に来たメールなんだが噂によると女性にしか送られてきていないらしい。現に大月家でも妹以外には送られてきていない」。

「妹さんと区長は親しい仲なのか?」

「いいや、全く。それどころか今まで一言も話したことがないらしい」。

「それで突如このメールを?いったいどういう風の吹き回しだ?ちなみに区長に奥さんは…」

「いる」。

そして俺は即決した。

「よし、土曜の朝俺の家に集合だ。区長の家を偵察しに行こう。妹さんにも行くならくれぐれも注意するように言っておいてくれよ」

「もう言ってある」。



 土曜日の朝、大月はしっかり時間通りに来た。普段と違い潜入ということで地味なグレーの羽織を着ている。対してピシッとしたスーツを着てどデカい四角のサングラスをつけている俺。

「おい、お前その格好で区長のパーティを捜索するつもりか?逆に目立つぞ?」

「え?だって映画とかの潜入系はこんな感じじゃん?」と普通に返答する自信満々な俺に大月はダサいと言うこともできず哀れみを覚えるのだった。そんなこんなで家を出る準備をしていると「ごめんくださーい」と美声が聞こえた。その声はまさに耳から鼻に向かっていやすような声だった。穴から出てみると驚くべきほどの美兎が目の前にいた。十年、いや百年に一匹と言われてもおかしくはないほどきれいだ。鼻の下を伸ばしてボーッとみつめること十秒、ようやく、おい、望月、おい!聞いてのか!と大月にたたき起こされて現実世界に戻ってきた。

「こちら、俺の妹、大月若菜」と紹介される。話には聞いていたがまさかこれほど綺麗だとは思わなかった。

「お前の妹さん美兎すぎないか?これでようやくあのおじいさんからのメールの意図が分かったぜ。下心満載ってわけだ。」

「そのうえ区長は帯妻者、いったいこのパーティがなんなのか、楽しみだな」

「ATMも望月さんも私、しょうがなく行くんだからね?」妹さんが会話に割り込んできた。しかし理解できない単語がある。

「ATM?それって金を引き出すやつだよね?」月面にも銀行システムはしっかりある。

「いやあ、望月、こいつ見た目はいいんだが心がゲス野郎なんだよ。いっつも俺に金を迫ってきて、その分でブランド物買うわけ。」

驚いた。やはり兎なんて人間ほどではないが金と人参にしか意識はないのだ。妹は兄の話など聞いていないようかに話をすすめる。

「それでATM兄さん、高級人参をおごる約束、覚えてるよね?」

「任せんしゃい!望月がすべて奢る!」。大月の返答を横で聞いた俺の目は点になる。

「え…?」妹さんの眩しい目線がこちらに注がれる。どうやら俺はATM二号機になったようだ。

 

 高級人参を奢る話はさておき。俺たちは三匹で区長の家に向かった。ぴょんぴょんと飛んでいく間、好きな食べ物、趣味、云々騙り合う。俺は妹さんと馬が合うようだった。ちなみにそんな金をどこで手に入れるのかと聞くと案の定ATM(兄)からのようだ。横で飛ぶ大月の目には涙が浮かんでいる。

 飛んで飛んで十分後。区長の家らしきものが見えてきた。家はザ和風という感じで蔦まで生えており立派な建物。屋敷というイメージで下級貴族の望月家の洞穴型とはレベルが違う。

「これ、耳元につけて」そう言って俺は妹さんに小型カメラを渡した。すると

「え!?ATMらは来てくれないの!?」と慌ただしく反応する。

「だって俺ら招待されてないし、入ったら追い出されるのは目に見えている」俺がそういうと

「高級人参百本追加で」と妹さん。

「望月が奢る」。と大月が即座に返答。俺の破産が決定するとともに妹さんが俺に握手をして扉を開けて中にずかずか入っていった。ちなみに高級人参は日本円で一本十万円は下らない。

 必死に高級人参の総額を計算していると手元のモニターにはギラギラしたものが映る。さあ、ショータイムの始まりだ。

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