第31話 国王との和解

 手紙を読み終えた国王は、丁寧に手紙を膝の近くまで下す。そして、右端に居たエリーの隣に立っていた青年の方へと向くと、深く頭を下げたのだ。

「…すまなかった。君達の事を誤解して、隣国まで迷惑をかけてしまうとは…」

 国王の言葉から、後悔の念が深く込められていた。自分の判断が間違っていた事を認めるように。

「…いや、自国で魔物に物騒な事件が長け続けに起こっていれば、そう思いたくなる」

 国王へそう答えたのは、この辺りの魔物を統べる魔王だ。あの闇のように濃い深紫の鎧は着ておらず、人間の貴族のような姿をしていた。

「あの若者の証言がなかったら、すぐ信じてもらえなかっただろう。魔物であるこちら側の言葉を聞き入れてくれた事は、感謝する」

 国王が討伐隊を差し向けてしまった事を責めていない、という顔で魔王は国王からの謝罪を受け入れた。

(ダンクさんのおかげだね)

 そのやり取りを見て、エリーはここに居ない隣国の青年からの証言を思い出した。


昨日、王子を助けるために魔王城で魔王と戦った後、ダンクが思わぬ証言をしたのだ。

 それは「隣国を侵略したのは魔物ではなく、山の向こう側の別の国の暴君だった」という内容だった。四日前、隣国にある実家から『国が山の向こう側の国に侵略された』と手紙で知らされたのだ。

 間一髪、その手紙は検問に引っ掛からずにダンクの元へと届いた。それでダンクは『魔物が故郷を侵略していない』と知っていたのだ。

 ならばなぜ魔物が隣国の城にいたのか、それは魔王がその国の暴君を追い払ったからだった。

 その理由は「たまたま通りかかった時に、嫌がる少女へ暴力をふるっていたから」と説明した。魔王は「女性に暴力をふるう輩は許せない」と、今まで何度も助けてきた。

 城の牢屋に閉じ込められていた隣国の国王は、暴君を追い払ってくれた魔王へ深く感謝した。そして、自国の端にある、誰も住んでいない土地を謝礼として与えたのだ。

 安住の地を探していた魔王は、その謝礼を快く受け取った。そして、隣国の王が自らこの事を説明するために古城がある町から離れていた時、留守番をするように古城に留まっていたところを、エリー達討伐隊が攻めてきた、という訳だった。


「…隣国の王には、儂からお詫びをする。城を荒らさせてしまった詫びとして、修繕費と清掃代を出す」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る