第21話 思わぬ正体
「あなたは、他の魔物を違うような気がするんです」
一歩前で立ち止まって、警戒心を解くようにエリーは話しかけた。
「…え?」
エリーの言葉に、アリス達は「何言っているんだ?」という顔になる。もしかしたら、油断させるためにわざとそんな風に装っているかもしれないのに。
だが魔物は、エリーを見つめると両手を前後に動かし始めた。まるで、何かを訴えるように。
エリーはその動作を細かく観察する。すると、熊によく似たその両手は、自分の体毛を引っ張るように動いている事が分かった。
「どうして、自分の毛を引っ張るの?」
つい聞いてしまったエリーへ、今度は自分の体を叩く。そして勢いよく両手を前へと出したのだ。
「………」
考え込んだエリーは、杖を構える。そして、何か呪文を唱えたのだ。
「―――⁉」
熊の魔物の体が、淡く光る。だが、それだけでどこも変わってなかった。
「エリーは、何やってんだ…?」
アーサーが警戒をしながら、アリスの隣で呟く。エリーは、今度は別の呪文を唱えたのだ。
すると、まるで急に皮膚のあちこちが避け始めるように、熊の魔物の体から毛皮が剥がれ始めたのだ。
「ええっ⁉」
毛が全くない、つるつるすべすべな熊の体が目の前に現れる。エリー以外全員そう予想した。
だが、毛皮が剥がれた中身は、予想をはるかに超えた、まったく別のものだったのだ。
「…た、助かったあ!」
ボロボロに泣きじゃくりながら、熊の魔物の中から現れた青年は安堵の声を出していた。
「あの、これ」
エリーが自分のハンカチを差し出す。白い大きなハンカチを受け取った青年はそれで涙を拭いた。
「…本当にありがとう!もうダメだと思っていたから」
声を震わせながら、青年は再び涙を拭う。その青年は、ボタンすら付いていない黒色の長袖長ズボンしか身に着けていなかった。
「…囚人の服?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます