第9話 エリーの秘密の行動 その②

「…怪我は?」

 魔法を解除したエリーは、まだ涙が止まらなかった少女へそっと声をかける。

「………」

 返事は、ない。エリーは少女へこう声をかけた。

「もうここへ戻ってこないから、安心してもいいよ」

 リュックから替えのシャツを出し、横たわっていた少女の体へかけたエリーは、安心させるように話した。

「………!」

 エリーが少女を起こそうとすると、少女はそのままエリーに抱き着いた。そして、恐怖から解放されたことから、大声で泣き出したのだ。

「…怖かったね。もう大丈夫だから」

 エリーは頭や背中を優しく撫ぜながら、少女の今の気持ちをすべて受け止めていった。


 泣き止んだ少女は、エリーへ少しずつ話し始めた。

 朝早くキイチゴを摘みに来たら、いきなりあの男に襲われたこと。あの男は前からしつこく言い寄って来て、何度も断っていたのに無理やり交際を迫られていたことも。

「…それは酷いよね」

 男が何をしていたか、エリーにも分かった。力ずくで既成事実を作ろうとしていたのだ。

幸いにも、被害は服だけで済んだ。エリーが幻術をかけなかったら、体だけでなく心にも深い傷を負わされていただろう。

「本当に、助けてくれてありがとうございました…」

 エリーのシャツで、破かれてしまったブラウスを隠しながら少女は何度も頭を下げた。

「家まで送ります」

 そっと肩へ手を置きながら、エリーは優しく声をかけた。


 少女を近くの村の家まで送ったエリーは、速足でさらに道を歩く。

 やがて、ある町へと入っていった。その町は昼間だというのに、誰一人いない。

 建物の中は荒らされてなかったので、盗賊などに襲われたわけではなさそうだ。それでもエリーは周りに警戒しながら歩いて行った。

 エリーの足が、止まる。目の前には古城が立っていた。

 ここだけまるで激しい戦いがあったように、あちこちが壊れていた。だが、中は今すぐ崩れ落ちる事はなさそうだ。

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