第8話 エリーの秘密の行動 その①

 妹を王子と結婚させる事で果たせる、もう一つの目的を秘めながら、アーサーは小さな丸いパンを一口かじったのだった。



 青空の下、エリーは早歩きで隣国の中を歩いていた。

 日が昇る前、検問所の兵士へ無理を言って国境の門を開けてもらったのだ。その時に事情を聞かれたが、何とか誤魔化せられた。

 昨日は大勢で歩いた道を、今日は一人で歩いている。魔王の脅威がなくなったとはいえ、まだ安心できない状況だ。

 馬車が余裕で通れるくらいの道を歩いていたら、ふとうめき声が聞こえた。道の右側は茂みが広がっており、その向こう側は深い森だ。

 森の方から聞こえてきたうめき声に、エリーは森へと方向転換する。足音を消し、周りを用心深く伺いながら、それでも速足で進み始めた。


 茂みに身を隠しながら、エリーはうめき声がする方へと顔を向けた。

 目に見えたのは、大柄な男の背中だ。しゃがみこんでいるが、気分が悪いわけではないとエリーはすぐに分かった。

 荒い息をしながら、両手を動かしている。男の足の下に、細い両足が見えた瞬間、エリーは呪文を唱えた。

「守りの女神アミナ様、彼の者をお守りください!守りの光箱!」

エリーの杖の十字架が光ると同時に、男は「うわっ⁉」と尻もちをつく。男の目の前に細長い光る箱が現れたからだ。

その箱の中に、エリーと同じぐらいの少女が居た。目からぽろぽろ涙をこぼしており、怯えた顔のまま起き上がろうとしなかった。

「な、なんだ⁉」

 男は怒鳴り声をあげていたが、急に周りが白くなる。濃い霧に包まれたように。

「―⁉」

 霧の中から、無数の大蛇が飛びかかってきた!

「ぎゃああああっ‼」

 大蛇に腕や足を噛まれ、男は絶叫しながらあたふたと無様な姿を見せながらその場から逃げ出していった。

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