第5話 アーサーからの頼み その➀

 アーサーを含む騎士達は魔物との戦いで心身ともに疲れていたが、魔王を倒した喜びで心の疲れは吹っ飛んでいた。



 国境を越え、エリー達の国側の検問所に着いた時はもう夕闇が空を完全に覆っていた。

 検問所は数人の見張りの兵士が寝泊まり出来るくらいの小さな小屋だったので、討伐隊は検問所の後ろにある広場で寝泊まりさせてもらう事となった。

 一泊する事を想定していたので、騎士達はテントなど用意していた。だが、魔王の城に向かう前に「戦いの時に邪魔になるから」と、この検問所で預かってもらっていたのだ。

 騎士達がテントを準備している間、エリーは全員の食事を準備した。アリスは手伝ったのだが、三人の修道女達は「騎士様の手当てがるから」と、食事の準備は最後まで手伝わなかったのだ。



「頼む、エリー!アリスが王子と結婚するまで一旦ここで討伐隊から離れてくれ!」

 食事を終え、他の騎士達と修道女達と、体調であるジョージが寝静まった夜中、まだ起きていたアーサーが右手で懇願する仕草をしながら頭を下げてきた。

「えっ?」

 明日の朝食の仕込みを終え、エプロンを外したエリーは、いきなり現れた短い金髪と青い目の美青年からの頼みに、驚きの声をもらす。

「明日、魔王を倒した報告を王様にするだろう⁉その時に褒美としてアリスを王子の花嫁にしてくれるように頼むから!念のため、エリーは結婚式が終わるまで、王子から離れていてくれ!」

 必死に頼み込むアーサーに、エリーは何も言わなかった。自分を仲間外れにしようとするアーサーに怒っていたのではなく、頭の中が「?」でいっぱいだったからだ。

「エリー、お兄ちゃんがいきなりごめんね。でも、私はどうしても王子様と結婚しなきゃいけないの」

 まだ頭を下げているアーサーの隣に、三角帽子と外したアリスが立っていた。そしてアリスはまだ頭の中が疑問だらけだったエリーへ、険しい顔で話し始めたのだ。

「魔王を倒した事で、私達の国が侵略される心配がなくなったけど、そうしたらこれから他の人達が『もう攻撃魔法は必要がない』って思ってしまう。そうしたら、戦の男神バリガ様に所属している魔法使いへの信用がだんだん減ってしまうの」

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