入院中の今城悟の録音

 一花を殺したのは俺です。しかし進を殺すつもりはありません。進は今も俺の横にいますが、今も俺と一つですが、すぐに俺を殺して欲しい。それで共に心中して欲しいのです。また俺が一花を殺したのは恨んでいたからではありません。これは単なる俺の自己陶酔による結果なのです。そして体をひねって、進を落としたのも同じような理由です。あまりに遅すぎた自己実現なのです。


 俺と進は生まれてからずっと一緒にいました。仲違いもありましたが、概ね関係は良好でした。彼に聞いても同じことを後に言うでしょう。でも、顔も才能も同じ程度ありました。だからサッカー嫌いの俺も、その試合には参加していました。しかし、性格はあまりにも違っていたのです。それはなぜでしょうか。きっと幼児期の影響でしょうか。が、そんなことは今となっては関係のない事です。俺は一花が大好きでした。彼女と交わるときは、一人の時よりも何倍も興奮しました。あなたもそうでしょう。進。


 でも、彼女から愛をいくら受け取っても、俺は満たされた心地がしなかったのです。俺はその感覚に、四年生になったときから、感じ始めたのでした。その前兆は大学入学時にもあったような気がします。そして、その答えに気づいたのは胃潰瘍と蕁麻疹が発症したときです。それは俺が余りにも無力だからと悟ったからでした。これで彼女の殺害に至るのはおかしなことだと、俺も分かっています。だが、まずこの空っぽさはおそらく、全ての人が無尽蔵の愛を注がれたときに、感じるものだと思います。そして、この空っぽさを埋める努力はしました。しかし、努力すればするほどに、空っぽさは増すのです。だから、この空っぽさを作った彼女を殺すことにしたのです。そうしなければ、俺はいつまでも不完全な器にならざるを得ないのです。


 一花と彼女の両親には申し訳なく思っております。それは親父と進に対しても同じ思いです。でも後悔はしておりません。きっと進も同じような空っぽさを感じていたに違いありません。そこで、進が一思いに俺を殺してくれれば、進は満たされた一人の人間になるのです。記者さん。イヤーマフをください。ありがとうございます。


 違います。そうじゃなくて。

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