第18話 ヤルのが早すぎたか......


最近、黒いフィルムの貼ってあるワゴンを良く見かける。


弘毅の奴……しっかりと半グレかヤクザと繋がっていやがったな。


流石に、病院に取り立ては可哀そうだと思い、仏心を柄にもなくだした結果がこれかよ……


『金で終わらせてやろう』そう思っていたのによぉーー



これで、更なる地獄に落とさなくちゃならなくなったじゃねーか。


幸い、祥子も洋子もあのまま不登校のままだ。


しゃーねーな。


わざと攫われてやるか……


此奴らはプロ……にしては気がつかれる時点で甘い気がする。


だが、満更素人ってわけでもねー。


無理しないで確実に人気の無い場所で車の横を通るのを待っていやがる。


ヤクザにしちゃ手際が悪い。


恐らく半グレだな……


此方から行ってやるか。


幸い、武器は持っているし……どうにかなるだろう。


そのまま、黒いフィルムの貼ってあるワゴンの横を通り過ぎようとした。


「静かにしろ……」


「うんぐっうう」


後ろから口を塞がれて、そのまま俺はワゴンに後部座席にのせられた。


ここで左右に男が乘るのは良い。


だが、猿轡も手錠も無し。


腕力に相当自信があるのだろうが……


ボディチェックも無し……


なんだ、此奴ら……


半グレだと思うが……全然知らねーな。


そこそこメジャーな奴らなら知っている筈だが……駄目だ見覚えがねー。


しかし、俺を一体何処に連れて行く気だ。


「あのぉ……俺これからどうなるんですか?」


「クックックッ粋がって弘毅くんに手を出すからこうなるんだ」


「ガキだから命の保証はしてやるが! それ以上は期待するなよ……手足の一本位は、覚悟しておくんだな!」


「そうですか……」


相手がガキだと思って舐めている。


殺す気も無さそうだし……


後遺症が残る程、痛めつける気もねーな。


精々、ある程度ボコって、恐がらせて解放。


そんな程度だろう……


随分舐められたものだ……


それに此奴らどこかで見た様な気がする……どこだ?


それなりの奴ならすぐに分る筈だが、駄目だ解かんねー。


しかし……何処に向かっていくんだ……


どんどん、山道へ進んでいく。


こう言う場合は海の近くの倉庫か山奥が定番。


さぁ、どうするか……此処で数を減らしておくか……


体を運転席の方に延ばし、右側、山側に思いっきりハンドルを切った。


「お前……」


運転手をしていた男が驚くが、俺はすぐに後ろに戻り左手で男を引っ張りクッションにした。


車で拉致られた場合……事故を起こさせるのが手っ取り早い反撃だ。


右ハンドルで右側が崖側じゃなく山側の場合は右にハンドルを切れば、助手席の人間と運転手は、大抵大怪我を負う。


その状態で後部席で頭を抱えていれば、大概の場合は致命傷を避けられる。


ガラガラガッシャ――ン


車は山にぶつかり、明らかに前側が潰れたようだ。


「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ」」」」


不意をつかれた事で悲鳴をあげているが……


かなり悲惨だ。


俺を含み5人で車に乘っていたが……助手席の人間はフロントに頭を突っ込んで、多分死んだかもな……うめき声もあげてない。


運転していた男は……


「ううっううっ……ハァハァお前ぇ」


エンジンらしき物に足を挟まれて身動きがとれない。


太腿からおびただしい血が流れている。


俺がクッションにした男は……


「ううっ、ううっ……」


多分、肋骨でも逝かれたのだろう。


呻いているだけだ。


そして俺の右側の男は……


「お前――っなにすんだよぉーー! 絶てぇ許さねーーか、えっ! うっぐぼぁ」


「折角、生かしてやろうと思ったんだが……本当にムカつくなぁ……衝動で刺しちまったじゃねーか!」


つい条件反射で煩いからナイフで殺しちまった。


本当に仕方ねーなっ。


此奴で我慢するか……


男の死骸を超えて車を降りると、クッションに使った男を引き摺りだした。


「ううっううっ痛ぇぇぇぇーーよ!」


「うるせぇボケがっ! 殺すぞ!」


あとは要らないな。


丁度良い位にガソリンも漏れているし、ライターで火をつけた。


瞬く間に車は火だるまになっていく。


中から悲鳴が聞こえてくるが気にならないなぁ。


「あ~あっ、可哀そうに事故っちゃって、安全運転しないから、事故って死んじゃうんだ……本当に可哀そうだよなぁーー! そう思わねーか!」


「おまえが……やったんじゃ……ハァハァ……うぐっねーか」


「そう言う事言っちゃう? あ~あっあんっ! これは事故だよなぁーー悲しい悲しい事故だよなぁぁぁぁーー」


バキドカッドカッドカッ


ムカつくからひたすら蹴った。


「ううっハァハァやめてくれ……うっうっ」


「まぁ良いや……それで俺はなんで攫われたわけ! というかお前等誰!」


「ううっ……はぁはぁ俺達はお前を攫って痛ぶるように頼まれたんだ……マッドウルフの俺は……田中……」


なんだ、此奴ら弱小半グレのマッドウルフか。


だから、知っている様な気がしたのに記憶にない訳か。


何処かで見かけた事がある小物だ。


「そうか? それでマッドウルフの田中さんは俺をこれからどうしたかったんだ?」


「はぁはぁ……残りの4人と合流して……沢木さんの目の前でお前をいたぶる……話しだった」


「沢木って誰だ!」


「山上建設の……人間だ……ハァハァ助けてくれ……胸が痛ぇぇぇんだ……救急車を」


「これで最後だ、俺を何処に連れていく気だったんだ」


「この先の山上天空ハイランドという別荘地の38番……」


「そうか、それじゃ助けてやんよっ!」


俺は田中を崖に引き摺っていく。


「や、やや……止めろーーっ! 止めてくれーーっ」


「いや『お前がやった』とか言う奴は要らねーんだよ! じゃぁなぁーーっ!」


田中を崖から放り投げた。


「わぁぁぁぁぁぁーーーっ」


これなら、助かった奴が助けを求めて崖から落ちた。


だれもがそう思うだろう。


しかし……此処で仕掛けるんじゃ無かった……


ハァ~3キロも歩くのか……







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