第2話 田向の過去 悪魔が生まれた瞬間
これは竜二が省吾に会う前の回想だ。
『チクショウ』
もう俺は終わりだ。
流石にもう詰んだか。
捕まれば俺は拷問にかけられ殺されるだろう。
自由気ままに生きたツケがこれだ。
◆◆◆
田向竜二は最大の危機に陥り過去を思い出していた。
俺の家は凄く貧しく不幸だった。
親父はアル中で家の中で暴れまわる。近所の嫌われ者。
お袋は俺を育てる為に売春婦をして稼いでいたが、ある時出会った客と良い関係になり俺を捨てて駆け落ちしていなくなった。
そして、クソ親父の暴力は全て俺に向けられた。
大人しくしても、嫌われないようにしても日々暴力を振るわれる。
俺の子供の頃は、飯すら真面に食えず、痣だらけ傷だらけが当たりの日常だった。
そんな小学校時代を生きた俺だが……中学になり事態は変わった。
「竜二、酒かって来い!」
「父さん……金……」
「ねーよ! ねーからいつも通り盗んで来い!」
親父が怖くて、この頃の俺は万引きを繰り返していた。
「父さん……この間俺、捕まったんだ……次は無いって言われたじゃん……いやだよ俺!」
そして、子供だから貧しいからと最初は同情的だったが、何回も繰り返した結果……流石に皆から嫌われた。
今では俺も商店街の嫌われ者だ。
「買って来ないとひどい目にあわせるぞ! おらっ!」
遊び半分にこの頃の親父は俺を蹴った。
「痛いっ……父さん止めてくれよ!」
言うだけ無駄だが、この頃の俺にはただ声を上げる事しか出来なかった。
「うるせーよ! 酒を持って来るまで……ぐッ、竜二貴様……」
自分を庇う為に出した手が偶然親父に当たった。
なんだこんな物か……
こんな奴を俺は恐れていたのか?
あんなに怖かった親父が……尻もちをついて恐怖の目を向けた瞬間、解ってしまった。
此奴は強くない。
そうなると俺の頭の中は憎しみが止まらなくなり、手が足が止まらなくなった。
「なんだ!? こんな物か! おらよ! おらおらおらーーっ」
顔を叩き、蹲った親父をひたすら蹴り続けたのは今でも覚えている。
「竜二貴様ぁぁぁーー親に手を挙げるのかぁぁぁーー」
もう止まらなかった。
「親らしい事なんてして無かったろうがぁぁぁーーおらよ! クズ野郎!」
蹲った親父を見下ろすようにひたすら蹴りを入れた。
どれ位の時間、蹴りを入れ続けただろう……
外してもお構いなく蹴り続けたから足の甲が腫れている。
そして、親父は……
「竜二……ごへんなさい……ごへんなさい……許して……ヒィ」
顏は腫れて鼻血を垂らし体を丸め俺を見て泣きながら震えていた。
「親父、腹が減った……金出せ……」
「金は無い……無いんだ……」
許す訳ねーだろうが!
「ああん!? 無いで済ます訳ねーだろうが! 早く出せよ!」
バキッ!
腫れていて鼻血が出ている親父の顔面を情け容赦なく殴った。
「ひぃ……出す、出すから……もうやめてくれ」
ポケットの中からクシャクシャの5千円札を1枚出した。
俺はその5千円札をひったくり、生まれて初めてラーメン屋に入った。
あの時食べたチャーシュー麺の味は最高だった。
『なんだ!簡単じゃないか?』
親父を殴れば金は貰える。
逆らえば、暴力の嵐で答えれば良い。
逃げ出そうとしたら地獄を見せてやれば良い。
金が無いと俺が暴れるからか、親父はお金を稼いで来るようになった。
中学でも同じだった……散々俺を馬鹿にした奴らもただ暴力を振うだけでいいなりだ。
俺を貧乏だと馬鹿にした奴も顔を2~3回殴っただけで財布ごと金を差し出すようになった。
俺の告白を断った女は、親が居ない時間に無理やり家に押しかけて、顔の形が変わるまで殴ったら……泣きながら自分から股を開いた。
暴力は正しい。
暴力があれば、何でも手に入る。
暴力こそが俺の全て……後に最凶と呼ばれる田向竜二はこうして生まれた。
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