『俺の代わりに死んでくれないか?』 死んでくれたら復讐してやるからさぁ……
石のやっさん
第1話 樹海にて
俺の人生は、こんな物か……
俺の人生は金に暴力、薬に女それだけだった。
それだけで、刺激的に充分楽しく生きてこられた。
一言で言うなら俺の人生は『クズ』だった。
だが、クズの人生は楽しい。
従わない奴には暴力を使えば良い。
顏の形が変わるまで殴れば大抵の奴は言う事を聞く。
死ぬ程の暴力を振るい、最後まで抵抗出来る奴なんて一握りだ。
それでも抵抗するなら殺してしまえば良いだけさ。
女も同じだ……俺を振るような女にはひたすら暴力を振るえば良い。
顔の形が変わる位殴るか薬を使えば大体の女は堕ちる。
それでも耐えきった女は解放してやったが、醜い顔に不自由な体。
もう誰からも愛されねーよな。
世の中なんて汚い事ばかりだ。
悪い事に手を染めれば……楽しい人生が待っているのさ。
だが……俺はやり過ぎた。
面白半分で組の為に懲役になった兄貴分の女を寝取り、それを咎めた若頭をつい腹が立ったから半殺しにした結果、組を破門。
半グレ集団に流れ着いたが、組織が欲しくて頭を殺して、そいつの女がなかなか良い女だったからドラッグを使い俺の物にしていたら……手下が反旗を翻して襲ってきやがった。
ヤクザに追われ、半グレに追われ……更についでに中国、台湾マフィアに追われた俺は……ここ、富士の樹海の近くの別荘地に逃げてきた。
『ついてねーな』
別荘地には本来なら獲物が沢山居る。
金持ちが女連れで遊びに来て、警察が遠く、家同士が離れている。
此処に居れば、鴨が向こうからやってくる。
そう思っていたが……時期外れなのか、殆ど誰も居ない。
女も金もねー。
最悪だ。
そのうち、此処も気づかれて追手が来るかも知れねー。
仕方ねー。
伊豆か伊東あたりに今度は逃げるか……
勝手にカギを壊して入った別荘から窓の外を見ていた。
『なんだ、あのガキ』
学生服を着たガキがそのまま樹海の森へ入っていった。
こんな時間に森に入るなんて……自殺者ってわけか?
なんだか面白そうだ……
俺は別荘を出て、ガキの後を追う事にした。
俺がガキを探しながら森を歩いているとガキはリュックからロープを取り出していた。
「おいガキ! お前、これから自殺をするのか?」
「貴方は……何ですか? 僕はこれから……」
自殺の邪魔をされた。
そう思ったのか、ガキが高圧的な目で俺を睨んできた。
「死ぬんだろう? 邪魔なんかしねーよ! 俺は偽善者じゃねーからな……ただ、もし話す気があるなら、なんでおめーが死ぬのか話してみねーか? 場合によっては俺が首つりなんかより楽に殺してやるぜ」
此奴が死ねば死体が一つ手に入る。
なにかしら利用価値があるかも知れねー。
「本当ですか?」
食らいついて来たな。
本来、此奴みたいな奴は俺の目すら見れねーんだが『もう死ぬ』そういうつもりだからか、普通に話せている。
まぁ良い。
「ああっ、話してみな……」
此奴、なかなか悲惨な人生送っているな。
簡単に言うなら、虐めを苦に自殺、そういう事だ。
しかも、幼馴染に裏切られ、家族からも見放されて悲惨その物だな。
くっくっくっ……此奴は使えそうだ。
「それで、僕は自殺をしてこの遺書で告発をするんだ」
「まぁ無理だな……」
「無理?」
「ああっ、お前が死んだ所で何も変わらない。遺書があろうが相手も未成年『多分、加害者側の未来を考慮されて誰かに握りつぶされて』終わりだ」
「そんな……」
「世の中なんて、そんなもんだぜ! 被害者よりも加害者に甘いんだぜ! 運が良くマスコミに知られても隠ぺい体質だから、校長が庇っておしまい……そこから更に運が良く学校側が虐めを認め、虐めの主犯格が実名で晒されても『運が悪かった』そう思ってなんの反省もしないで、数年したら、そんな事実は忘れられ、楽しくイジメた側は生きていくんだぜ! お前は死ぬのに相手はそんな生活だ……割りはあっているのか?」
「僕が死んでも……何も変わらない……そう言いたいの? だけど僕には、もうこれしか考えつかないんだ……」
「悔しいか?」
「悔しいに決まっているじゃないか!」
「もし復讐できるならどうなっても良い! そう言えるか?」
「仕返しできるなら……あいつ等に地獄を見せられるなら……なんでもよい!」
「そうかい! だったら、俺の代わりに死んでくれ! それとお前の個人情報を全部寄越せ! そうしたら俺がそいつ等に地獄を見せてやる! どうだ、あと、約束だ……楽に殺してやるぜ!」
「あいつ等に復讐出来るなら、喜んで死んでやる……それに楽に死ねるなら、はははっその方が僕も良い......」
「解った、これで取引き成立だな」
これで、俺も死なずに済む。
◆◆◆
別荘に戻り、お互いに服を着替えた。
背丈はほぼ同じだ。
これならうまくいく。
時間をかけてガキの情報を事細かに聞いた。
俺の情報は伝える必要はない。
『泉省吾』それがこのガキの名前だった。
「これで大丈夫だ! 俺がもう聞くことは無い! それで、これから俺は省吾になる。お前はこれから俺の代わりに死ぬ訳だが良いんだな」
「死ぬのは構わない……だけど、貴方が本当に復讐をしてくれるのかが僕には解らない」
「確かに信頼はねーよな! お前のポケットに免許があるから見てみな」
「ああっ……田向竜二さん……」
「今度はスマホで、俺の名前を検索してみな」
「こっこれは……」
「どうだ? 地獄へ送れないと思うか!」
「あははははっ、僕はとんでもない人に復讐を頼んだ訳だ……ありがとう」
「いや……それじゃ行くぞ……」
「これで、僕は安心して死ねる」
最後の最後、自殺する為に用意した薬を注射器で省吾に打ってやった
意識が薄れまもなく省吾は眠るように死ぬだろう。
『死んだな』
俺は物置にあった灯油を冷たくなった省吾にかけた。
このまま燃やせば、俺が死んだ事になる。
車と死体と荷物から『逃げられなくなって俺が死んだ』そう判断される筈だ。
火を放ち別荘を出る。
車は使えないな……
省吾の乗ってきた自転車に乗り、俺はその場を後にした。
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