爆弾

夜も更ける頃だというのに、館の明かりは未だ灯り続けていた。


第一ゲームで敗退した者たちは一箇所に集められ、ゲームから完全に脱落するか、金を払ってゲーム継続の権利を得るかの二択を迫られた。


俺が選んだのは、勿論......


「では、チケットを拝見します」


それまでポケットの中に大事に仕舞っていたチケットを取り出し、黒服に手渡した。


「では、こちらの番号札を持って部屋へお進みください」


受け取った番号札の数字は『一』。この数字が何を意味するかはまだ分からないが、それは俺の勝利を示唆しているようにも見えた。


「ようこそ」。

その文字が視界に入ったとき、脳内に今日の出来事が蘇る。あのときの屈辱を胸に、俺はここから這い上がる。さあ始めよう、仁義なき戦いを。




「天釘......?」


部屋の中央に設置された円卓。それを囲む五つの椅子のうちのひとつに、伊地目が座っていた。


奴と同じグループになったということは、俺の勝利が更に確実なものとなったということだ。

やはり今回の俺はツイているのかもしれない。


「よかった、俺一人じゃやっていける気がしなかったんだ。それで、番号札の番号はいくつだった?」


伊地目は嬉しそうに俺の方に駆け寄った。無駄に馴れ合うつもりはないが、今はただこの幸運を喜ぼう。


「『一』だ。お前のは?」

「『四』だった。テーブルの席にもそれぞれ番号が振られているから、恐らくこれは番号に対応する席に座れという意味だと思う」

「なるほど。ということは、俺が座るべきはこの席ということか」


席に腰を下ろし、ひと息つく。

そのまま暫く待っていると、他の参加者も続々と入場してきた。

円卓を見るなり彼らも番号札の意味を理解したようで、各々が自分の席に座ってゆく。


そして最後の一人が着席した瞬間、モニターが点灯した。


『どうやら、全員揃ったようだね!では早速、ゲームの説明を開始するよ☆彡』


お馴染みの声がスピーカーから放たれる。


『今回みんなに遊んでもらうゲームは————

ジャン!≪テンカウントボムリレー≫☆彡』


そして前回よろしくドラムロールに合わせゲーム名が発表された。


『まず、円卓の中央に置かれたティンクル人形を見てほしい。この人間はデジタル表示器になっていて、お腹のあたりに数字が表示されているよね☆彡』


彼の言う通り、確かに円卓の中央には気味の悪い人形が置いてあり、そこにはデジタル時計のように『10』という英数字が表示されている。


『これは時限爆弾だ。実際に爆発するわけはではないけど、ゲームを理解しやすくするためにそういう設定にしてあると思ってもらえればいい。これからみんなには、この爆弾のカウントを減らしてもらうよ。『一』の番号を振られたプレイヤーから順番に、ティンクル爆弾に表示されたカウントを進めてゆこう☆彡』


この番号札、座る席を指定するものというよりは、手番の順序を表したものだったらしい。

『一』の席に座る俺が一番、そして次に俺の左隣の『二』の席に座ってる奴が二番、というように、時計回りで手番が回ってゆくわけだ。


『一回の手番で進めることができるカウントの数は最小で1、最大で3。カウントを進めずに手番をパスすることはできないよ。そしてカウントを0にしてしまうと爆弾は爆発し、その手番のプレイヤーは脱落となるよ。また、このゲームでは持ち時間が設定されていて、手番中に持ち時間を使い切ってしまったプレイヤーも脱落になるから気をつけよう☆彡』


淡々と説明されてゆく中、俺は理解する。

この≪テンカウントボムリレー≫というゲームは、つまるところ石取りゲームだ。

交互に決められた数の石を取っていって、最後の一つを取ってしまった方の負け、という古くから存在するゲーム。

ただし、一対一のタイマン勝負でないという点において、普通の石取りゲームとは違う。

一対一で行う場合は必勝法が確立されているのに対し、三人以上で行う場合は必勝法が存在しない。石取りゲームの予備知識があるからといって、勝てるとは限らないということだ。


『脱落するプレイヤーが決まった瞬間、カウントは『10』に戻り、二巡目がスタートする。その際、脱落したプレイヤーの次の手番のプレイヤーからカウントを減らしてゆくことになるよ。一番のプレイヤーが脱落したら二番のプレイヤーから、二番のプレイヤーが脱落したら三番のプレイヤーから、という感じにね。これを繰り返していって、最後の二人になったらゲーム終了。生き残った二人は次のゲームに進むことができるよ☆彡』


生き残れるプレイヤーの人数は、前回と同様五人のうちの二人のみ。

だが、それで充分だろう。俺と伊地目の分の枠さえあれば。


『ゲームのルール解説は以上!ここからはティンクル爆弾の操作方法の解説も兼ねて、ゲームのリハーサルを行うよ☆彡』


デバイスから電子音が鳴る。

他の参加者のものではない。俺のデバイスだけが反応したようだ。


『まず、一番のプレイヤーからスタートだ。デバイスを操作することで、ティンクル爆弾のカウントを進めることができるよ☆彡』


俺は言われた通りに操作し、カウントを『7』まで進める。進められるカウントの最大数は3なので、これ以上進めることはできない。


『操作し終えたら、確定ボタンを押して次の手番に回そう☆彡』


そうして順々に手番が回ってゆき、再度俺の手番が回ってくる。ティンクル爆弾に表示されている数字は『1』。

手番が回ってきたら必ずカウント1以上を進めなければいけないので、俺の手番で爆発することが確定している。

試しにカウントを『0』にして確定ボタンを押してみると、ティンクル爆弾は安っぽいサウンドエフェクトを出し、微かに振動した。


『これにてリハーサルは終了。今回の場合は、一番のプレイヤーが敗北した事になるよ。本番は午前零時に開始されるから、それまで各自好きなように過ごしてね☆彡』


もしこれが本番だったら......と考えると恐ろしいが、まあいい。リハーサルのおかげで大体は掴めた。戦略を練る時間も充分にある。


今度こそは、俺が勝つ。

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Gamble Star 志賀 禅 @Icetrophy

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