タネ明かし

「ふふっ、ふふふふっ」


大羽の口から、笑いが溢れる。

何が起こったのかを、俺の頭が漸く理解した。


「なぜだ......なぜお前、金の皿に投票した?」


そうだ。風谷と髭田が勝ったということは、大羽が金の皿に投票していたということだ。


だが、あり得ない。あの状況で金の皿に投票すれば、確実に負けると分かり切っているのに。

それともこのガキは、そんなことも分からないくらい馬鹿なのか?


「答えは、これです」


すると大羽は、一枚の紙切れを取り出す。


「それは......小切手!?」

「そうです。二十六万五千円分の小切手です」

「誰から受け取った?」


大羽は、視線を逸らした。

彼女の視線の先には、彼女手の中にある小切手と全く同様の小切手をひらひらとひらつかせている者がいた。


「言われたとおり勝たせましたよ、風谷さん」

「ご苦労様。これ、もう一枚の二十六万五千円分の小切手ね。手付金と合わせれば、参加費と同じ金額になるかな」


あの馬鹿そうな金髪女が、金にものを言わせて大羽を言いなりにしていたというのか?


「ちなみに、自己紹介は全部嘘。風谷ジョウって名前も偽名だよ。こんな見た目してるけど私、そこそこ有名な社会学者でね。いやー、貴重な体験ができたわ。後学のためになったよ」

「ふざけるな、一体いつこんな取引を......」


最初全員で集まった時以降、風谷のことは伊地目が捕まえていたのだから、二人だけになる時間なんて無かったはずだ。


いや、まさか......。


「俺たちが会場に集まる前か?」

「卑怯とか思わないでよ?会場に来るのが遅いあんたらが悪いんだから」


やはりそうか。

いや、だとしたらどうして大羽は「金の皿に投票すれば風谷が勝つ」と分かった?結局ゲーム中に接触していないなら、風谷がどちらに投票していたかすら分からないはずだ。


「ふふっ、天釘さん。もしかしてあなたの作戦、バレてないと思ってます?」

「なんだと?」

「質問、これはなんでしょう」


大羽が持っていたのは、一見何の変哲もないペンだった。


「実はこれ、盗聴器なんです。取引が成立した時点で風谷さんの胸ポケットに忍ばせておきました。つまり、あなたたちが私に内緒で他のプレイヤーと接触していたことも、風谷さんが銀の皿に投票したことも、全て筒抜けなんです」


大羽は淡々と説明した。


「すまない、天釘。俺がペンの存在に気づいていれば......」

「いいや、俺の詰めが甘かった」


頭の悪そうな人間だと思って油断していた。盗聴されている可能性を考慮し、あらかじめ会話は筆談で行うと決めておくべきだった。


「確か、勝つ確率を二分の一にする、でしたっけ?そう言って伊地目さんは風谷さんを銀の皿に投票させた。髭田さんも同じような手口で騙していたと推測できます」

「天釘、俺のことを騙していたのか!」

「うるせえっ!騙される方が悪いだろ!」


怒号を怒号で掻き消す。

騙されていたことを知って怒り心頭なのは分かるが、今はそれどころじゃないんだよ。


「そしてあなたたちが票を操作し二対二の状況を作りあげてしまったせいで、私はどちらに投票しても負けの詰み状態に陥ってしまいました。どうせ負けるんだったら、風谷さんの方を勝たせてお金をもらえるほうがいいですよね?」


私物の持ち込み自由というシステムを、これほど憎んだことはない。小切手とか、小型盗聴器とか、そんなのズルじゃん。


「あんたらに良いこと教えてあげる。このゲームは、先手必勝なの。さっさと誰かと手を組んで、自分に有利な状況を作った奴が勝つのよ。あんたらは後手に回ったから負けたの」

「この俺が、後手に回った......?」

「そうよ」


ふざけるな。こんな終わり方あってたまるか。ここまで頑張ったのに、金にもの言わせてただけの奴に負けていいはずがない。


「なあ、よく分からんが、俺たちは勝ったんだよな?」

「ええ、おっさんと一緒は気に食わないけど、私とあんたの勝ちよ」


そして失意のどん底に沈んでいる俺をよそに、風谷たちは出口へ向かおうとしていた。


まだだ。まだ、行かせるわけにはいかない。


「おい待て!」

「なによ、まだ何かあんの?」

「天釘、俺たちは負けたんだ。往生際が悪いぞ」


伊地目、お前はこの負け方に何の疑問も持たないのかもしれないが、俺はまだ納得いってねえんだよ。


「大羽サツキ、お前はどっちみち負けるなら風谷を勝たせて金を貰う方がいいと言ったが、それはお前が投票しなければよかっただけの話なんじゃねえのか?そうすれば、俺らも勝ってたし、風谷も勝ってた」


投票しなかったプレイヤーがいた場合、そのプレイヤーは脱落するが、そのプレイヤー以外は次のゲームに進出できる。

最初に俺らが目指していた勝ち方だ。


俺がその疑問をぶつけると、大羽は振り向いて満面の笑みを浮かべた。


「だって、独りで脱落なんて寂しいじゃないですか。どうしても欲しかったんです。み・ち・づ・れ♡」


ああ、そういうことね。ははっ。





この......っ、クソガキがあああああああああああああああああああああああああああああ!





to be continued

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