このゲームは先手必勝

うーんと唸りながらどうするか決めあぐねている髭田に、更なる追い討ちをかける。


「なあ、髭田さん。まだ時間はたくさんあるけど、誰かと手を組めるチャンスは今しかないかもしれない。俺の気が変わらないうちに、はやく決断した方がいいよ?」


「今しかない」とはまさに、魔法の言葉だ。

この言葉で人は、チャンスの価値に気がつく。


「分かった分かった、よろしく頼むよ」

「じゃあ、交渉成立だ。俺は金の皿に投票するから、髭田さんは銀の皿に投票してくれ」


デバイスを操作する。約束どおり、俺は金の皿に投票した。髭田が銀の皿に投票するところも確認したから、これで間違いはないだろう。


「これで俺たちのどちらかは脱落し、どちらかは勝利することとなった。あとは、結果を待つのみだ」

「感謝するよ」

「あと、分かってるとは思うがこの作戦を他の参加者に悟られないようにしてくれ。口外NGで」


俺は人差し指を口に当てる仕草で髭田に釘を刺した。


「もちろんだ」

「頼んだ」


最後に髭田と固い握手を結び、喫煙所をあとにする。

そう、このゲームは先手必勝。さっさと誰かと手を組んで、自分に有利な状況を作り出した奴が勝つ。


さて、広間に戻ろう。


「伊地目、お前は作戦通りやったか?」

「ああ、風谷は俺の指示どおり投票してくれた。俺のためにわざわざこんな作戦まで立ててもらって、悪いな」


俺は広間の前で伊地目と合流し、経過報告を行った。


「同郷の仲間を助ける為ならお安い御用だ」


俺が本当に手を組んでいたのは、髭田などではない。伊地目だ。


解散した直後、伊地目は俺に協力関係を持ちかけてきた。

奴の顔を見るに、どうやら打算などはなく、俺を本気で同郷の仲間だと思い込んでいるらしかった。正直言ってキモすぎる。


だが、俺はその提案に乗った。

伊地目のことを許したわけではないが、俺のことを勝手に仲間だと思い込み、俺に助けを求めようとするならば、その気持ち、最大限利用させてもらおう。


「おふたりとも、戻って来られたんですね?」


広間では大羽が俺たちの帰還を待っていた。


「ああ、俺たち少し話をしたんだ」

「何のお話を?」


伊地目は俺と目を見合わせた。

勝負は今、ここで決まる。


「どちらに投票するかって話。話し合いの結果、俺と天釘は共に金の皿に投票することになった。そしてもうすでに投票は完了してある」


俺と伊地目はデバイスの画面を大羽に見せた。

投票後、自分がどちらに投票したかを確認できるようになっており、俺たちの画面にはしっかり『金の皿に投票しました』と表示してある。


大羽からしてみれば、既に金の皿に二票入っている状態なので、金の皿に投票した瞬間敗北が確定する。つまり髭田か風谷が金の皿に投票することを願って、銀の皿に票を入れるしかない。


しかし俺らは既に髭田と風谷が銀の皿に投票したことを知っているので、大羽が銀の皿に投票した瞬間、俺らの勝利が確定する。


「では、私も投票を終わらせますね」


大羽も状況を理解したようで、デバイスを操作し始める。

勝った。確実に勝った。俺らは見事他の参加者の票を掌握し、一億円に一歩近づいたのだ。

踏み台の馬鹿どもに、乾杯!


大羽がデバイスの操作を終えると同時にカウントダウンがストップし、モニターが再び切り替わる。


『全員の投票が投票が終わったみたい!結果発表をするから、所定の広間に集まってね☆彡』


暫くすると、髭田と風谷が足並み揃えて戻ってきた。これで再び、五人全員が集まった。


『では、結果発表をするよ!このゲームの勝者は——————————————』


ドラムロールが始まり、緊張が走る。だが俺と伊地目は勝利を確信していたため、余裕の表情だ。


そしてcongratulation!の文字と共に勝者の名前が掲示され、スピーカーから大音量で拍手の音が流れた。


そこに俺らの名前は無く、代わりにあったのは、「風谷ジョウ」と「髭田フトシ」の文字だった。


風谷と髭田は、飛び上がって大喜び。


「......は?」


俺の思考は止まった。

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