運命の天秤は俺に傾く
洋館の広間は、ジャコビアンかつレトロな様式で、天井中央に煌びやかなシャンデリアが吊るされていた。
これだけでも人をして瞠若たらしめる光景なのだが、それ以上に目を引くのは、「ようこそ」の文字で俺を歓迎する巨大なモニターだった。
「おっ、彼でラストかな?」
広間には既に数人の男女が集まっており、そのうちの一人が俺の存在に気づいたようだった。
デバイスを着用しているのを見るに、彼もゲームの参加者で間違いないだろう。
「ってあれ?もしかして天釘?」
「え?」
「天釘だよな?」
俺の顔を凝視しながら近づいてくる一人の男。
名前を知っているということは、知り合いなのだろうが、しかし俺にこんな好青年の友人などいたことはない。
「俺だよ俺!
そう言われて、徐々に記憶が鮮明になってくる。
—————そうだ、こいつは高校のとき俺へのイジメに加担してた、クズ野郎だ。
確かに主犯の不良男の取り巻きにこんな顔の奴がいた。
「いや〜まさかこんな場所に同高の奴がいるとはな!世界って狭いな!」
「ハハ、ソウダナ......」
どのツラ下げて馴れ馴れしく話しかけて来てんだ。という本音は心の中に仕舞っておいて、ここは無難にやりすごそう。
どうせこいつも俺の踏み台なのだから。
「そうそう、全員揃ったら自己紹介はじめようって話してたんだ」
そう言って伊地目は俺の手を引き、他の参加者たちのもとへ案内した。
見たところ今ここにいるのは、俺を含め男三人、女二人の計五人。
「じゃ、まずは俺からな。俺は伊地目アラタ。勤務先の会社が倒産しちまって金に困ってたから、ここで一発逆転しようと思って来た。よろしくな」
伊地目。やはり俺と比べて圧倒的にまともな人生を送っていたらしい。俺をイジメていたくせに、実に腹立たしい。はやく死んでくれないだろうか。
「
金髪でメイクがケバくて態度が悪くて、ついでに頭も悪そうな女だ。俺をいじめていた不良男の恋人に似ていて、なるべく関わりたくないタイプである。
「俺は
デブで薄汚いヒゲオヤジ。もうすでに顔面から哀愁が漂っている。俺と同じパチンカスのようだから、こいつとは気が合いそうだ。
「私は
こんな場所に似つかわしくない制服姿の女子高生がいると思ったら、何か深い事情をお持ちのようだ。
少し気になるが深くは追求しないでおこう。
さて、最後は俺か。
「俺は天釘ハカマ。まぁ、そうだな。ここに来た理由は、伊地目と似たようなもんだな」
勿論嘘をついた。赤の他人に自分を知られたくないというのもあるが、何より伊地目の前でくだらない人生を歩んでいたと赤裸々に明かすのは、屈辱だからだ。
この後に及んで変なプライドを持ち続けているのはお笑いぐさだと、自分でも思うが。
『おや?全員揃ったみたいだね☆彡』
突如モニターの画面が切り替わり、いつぞや見た星形のマスコットキャラクターが姿を現す。
驚きのあまり、その場にいる全員の視線が、モニターの画面に集中した。
『こんにちは、ぼくの名前はティンクル!今日は集まってくれてありがとう!これからゲームの説明をするから、よーく聞いててね☆彡』
相変わらず、おかしな喋り方のマスコットキャラクターだ。声を聴いているとだんだん腹が立ってくる。
『今回皆さんに遊んでいただくゲームは〜?——————ジャン!≪運命の天秤≫だよ☆彡』
ドラムロールに合わせ、ゲーム名が発表される。その名も、≪運命の天秤≫。仰々しいというか何というか、なんとも内容を想像し難いネーミングだ。
『運命の天秤には、金の皿と銀の皿が吊るされているんだ。これからみんなには、どちらか好きな方を選んでもらうよ。腕にはめているデバイスで、金の皿か銀の皿、どちらかに投票してね☆彡』
デバイスからピピピ!と電子音が鳴る。画面には、金の皿と銀の皿を吊るした天秤の絵が表示されていた。
試しに金の皿の方をタップしてみると、「金の皿に投票しますか?」という確認のボタンが現れる。
『天秤は重たい方が下に落ちる。つまり、投票終了後、投票人数の多い皿に投票していたプレイヤーが脱落となるよ☆彡』
なるほど、多数決ならぬ少数決というわけか。人数が五人だと、勝ち残れるのはたったの二人だけといったところだろうか。
『投票時間は60分。もし時間内に投票しなかった参加者がいた場合、その参加者は問答無用で脱落。その代わり、時間内に投票を行ったプレイヤーは全員、次のゲームへ進めるよ☆彡』
投票しなかったプレイヤーは脱落か。時間には余裕を持って投票を行った方がよいだろう。
『ゲームの説明は以上!それじゃあみんながんばってねー☆彡』
ティンクルが別れを告げると、モニターの画面に制限時間が表示され、カウントダウンが始まった。
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