Gamble Star
志賀 禅
ゲームの参加費は530000です
ボロくさい賃貸アパートの駐車場に、一台の高級車が佇んでいた。
「目立つなぁ......」
明らかな存在感に、思わず声が溢れる。
近づいて手を振ると、運転席から黒スーツとサングラスを身に纏った男が姿を現した。
某有名賭博漫画に登場する黒服さながらの厳つさに、俺は少したじろいだ。
「この度はゲーム<<Gamble Star>>にご関心をお寄せいただき、ありがとうございます。
「ええ、俺が天釘です」
俺はハッキリと答えた。
「では、参加をご希望の場合はこの契約書にサインをお願いします」
手渡された契約書にじっくり目を通す。時間をかけて隅々まで見たが、大それておかしなことは書かれていない。
ただ、一点を除いては。
「参加費五十三万......ね」
「はい。ゲーム<<Gamble Star>>では、ゲーム終了後に参加費として五十三万円を請求させていただいております」
ゲーム<<Gamble Star>>を運営する「おほしさま☆こーぽれーしょん」。こいつらは一億円獲得するためのチャンスを、約五十万で売り捌いている。
「いかがなさいますか?参加を取り消すこともできますが......」
黒服の男の口角が少し上がる。
貧乏人なら、五十三万円というリスクに腰を抜かすとでも思っているのだろうか。
あまり俺を舐めてもらっては困る。
俺はペンを手に取り、迷わず名前を記入した。
「参加します。車、出してください」
「ご参加ありがとうございます」
こちとらパチンコ依存症ですでに五百万の借金背負ってんだバカタレが。今更五十万程度でビビるような人間じゃねーんだよ。
車に揺られながら、これまでの経緯を振り返る。
すべての始まりは、SNSに投稿された一本の動画だった。
『やあ、こんにちは!ぼくの名前はティンクル!今日はみんなに大事なお知らせを持ってきたんだ☆彡』
再生ボタンをクリックすると、星の形を模した可愛らしいマスコットキャラクターが映し出される。
『実はね、「おほしさま☆こーぽれーしょん」が近日ゲーム大会を開催するんだって!楽しみだなぁ〜☆彡』
「子供向けのイベントか......」
自分には縁のない話だと思い、他のサイトに飛ぼうとカーソルを動かす。
しかしその瞬間、マスコットの口から聞き捨てならないセリフが飛び出る。
『数々のゲームを勝ち抜いて、優勝を目指そう!優勝賞金は、なんと一億円!これで君も、億万長者だ☆彡』
気づけば俺は、参加申込を済ませていた。
さて、かれこれ五時間ほど経っただろうか。鬱蒼とした山道を抜け、妖しげな雰囲気漂う洋風の館へと辿り着いた。
いくら高級車の座席といえど、長時間座席に拘束されたのはなかなか苦痛だった。
ゲームはこの巨大な館のなかで、一週間、泊まり込みで行われる。勝ち残り方式だが、途中で脱落してもゲームが終わるまではこの館に留まることとなる。その間の衣食住は、全て主催者側が提供してくれる。
ちなみに危険物でなければ、私物の持ち込みは自由だ。今までまともな生活をしてこなかった俺にとっては、ちょっと贅沢なプチ旅行みたいなものだ。
「ゲーム開始前に、こちらを受け取りください」
黒服は、トランクケースから腕時計型の電子機器を取り出した。
「ゲームの進行は、こちらのデバイスによって行われます。くれぐれも破損や紛失にはお気をつけください」
そのアッ◯ルウォッチモドキを腕に装着し、電源を点けたり消したりしてみる。特に動作等に問題は無さそうだ。
「準備が整いましたら、扉の向こうへお進みください」
黒服に促されるまま、歩を進める。
俺はゆっくりと呼吸を整え、扉を開いた。
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