第2話 期待

第三騎兵師団、師団長室。

アヤヴァウィン・オペリン大将が、客人を座りながら眺める。



「皇帝直隷第二十一班、エチカ・ミーニア少佐に、ユト・クーニア上級大尉、クラン・イミノル伍長。運の良い落伍者ばかりだな。帝国戦記編纂業務、上からその邪魔はするなと言われている。はたしてあの船に後世に残すべき何事かがあるとは思えないが」



クーニア上級大尉と、イミノル伍長にとっては元上官である彼はまだ若く、三十代後半のように見えた。下級貴族出身での叩き上げから師団長になったという点では、エチカに似通った経歴の持ち主だった。



「それから、君は、、、」


「俺にも手厳しいことを言ってくれるのかな?」



と、ニスカエルマ・トーラーが、皮肉ではなく本当に楽しみにしているように言う。



「君は、、、そうだな、、、弱者に用はない、好きにするといい」


「うん。いい師団長だね。ありがたくそうさせてもらうよ」



四人の行動許可が下りた後、一人の兵卒が部屋に入ってくる。



「ジャルジャ師団長からの推薦だ。好きに連れてけ。役に立つかは知らんが」



と、オペリン大将がその老人を顎で指して言う。




「第三騎兵師団所属、ミンク・クヘルス二等兵でございます。無理はできませんが、よろしく頼みます」



額が露わになり、骨と皮だけの身体を、だぼりとした軍服に隠している。

60代よりもさらに老けたように見える。



「クヘルスおじさん、、、?」

「クヘルス二等兵、お久しぶりです」



イミノル伍長と、クーニア上級大尉が困惑気味に頭を下げる。



「二人とも、元気にしていたかな?儂が増援と知って、さぞかし落胆しただろう」



クヘルス二等兵は二人に握手を求め手を伸ばす。

その手は、誰が見ても分かるぐらいに震えていた。

それに皆が気づいたとき、クヘルス二等兵も照れたように手を引っ込め、



「へっ、いけないねぇ」



と言いつつ、水筒を不安定に握り、口の端から零しながら琥珀色の液体を流し込む。

イミノル伍長とクーニア上級大尉は、握手しようとした手の行き先が不明となって、それぞれ軍服を直したり、髪を弄ったりした。



「時間がないのだろう?さぁ行くといい」



と、オペリン大将はクヘルス二等兵から視線を外しながら言った。



「承知」



エチカが答えて、部屋を出ようとしたときだった。



「皇帝直隷第二十一班の諸君、期待しているよ」



五十代くらいの、皺ひとつない派手な花柄のウエストコートを着た男だった。

見るからに貴族然としたその男は、入ってくるなりそう言い、



「パミドール州の高等弁務官を拝命している、ラホム・ブジョールだ。よろしく頼むよ。今、この州は泡沫貴族共の動きも危険だ。これ以上、混乱は民の精神に良くない。エチカ君、テミナル島出身者でありながら、この帝国の重要な役を負っているミー二ア家に恥じぬ活躍をお願いするよ」



ブジョール高等弁務官は、無機質の壁に寄りかかりながら、全く期待を感じない、軽い声だった。



「はっ、承知!」



そう言ってエチカは師団長室を出る。











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