隣の席のサキュバスさんはヤンデレ気質だとしても可愛い
八橋こむぎ
1章 一学期編
第1話 聖城さんはサキュバスだった
高二に進級して早二ヶ月。
いまだに俺──
中学までの対人関係は、それほど問題なかったはずなのに、高校に入ってからはそれも上手くいかず、特に刺激のない日常を繰り返していた。
しかし、そんな状況を打開できるチャンスというのも、一応だがあるにはあった。それこそが今行われている席替えだ。
「あっ、日野森! また近いじゃん!」
「お? ああ、
「よろー」
先に席を確保していた俺に声をかけてきたのは、今まさに俺の右隣に机を運んできた才色兼備の優等生──
身長は多分160cmくらい。
冷涼感ある紺色のミディアムボブ。
制服越しにでも膨らむ胸部。
太陽のように眩しい笑顔。
部活のバレーはそつなくこなし、成績も毎度学年で五本の指に入るほど。その上、誰に対しても分け隔てなく接するという真の意味での陽キャ女子。
そんな彼女とは去年から同じクラスだが、特別仲が良いという訳でもない。
今だって隣り合ったクラスメイト全員に声を掛けているのが、その良い証拠と言えるだろう。
まあ右隣が永峰になったのは良いとして、重要なのは
「…………」
「…………」
ああ、これは気まずくなる予感しかしない。今、俺の左隣に席を移してきたのは、めちゃくちゃ美人だけど塩対応で有名な銀髪女子──
身長は見たところ160半ば。
腰まで伸びた絹の様に滑らかな銀髪。
鮮やかに
永峰以上にたわわな胸。
ノイズ一つとしてない純白の肌。
そんな抜群のプロポーションを持つ彼女とは、今年から同じクラスになったばかりだが、今のところ人付き合いはどうやら苦手なようで、良く言えば高嶺の花、悪く言えばぼっちといった印象だ。
進学当初は周りからもちやほやされていたが、読書という名のバリアを張り続けた結果、とうとうクラスでも孤立する始末。席替えが終わった今でも、早速本を取り出して──。
「……何見てるの?」
左隣の席のようすをボーッと眺めていると、開いた本からこちらに顔を覗かせ、甘く、耳心地の良いダウナーボイスで、鋭いクエスチョンが飛んできた。
これはまずい。先程までの視線に下心が全くないとは言えないが、このままでは明らかに『変態』のレッテルを貼られてしまう。それだけはなんとしてでも避けたいところ。
ここは何か、言い訳でも……!
「え、い、いや別に見てたとかそんなんじゃ──」
「あっ、日野森ー!」
俺が言い訳を考えていると、今度はまた右の方から永峰の声が飛んできた。こればかりはナイスタイミングだ。
「あんた0.5のシャー芯持ってたよね?」
「あ、ああ、まああるけど?」
「ごめん。ちょい貸してくんない? ウチ替えの奴忘れちゃって」
その後の話を聞いた感じ、0.5mmのシャー芯を持ってる奴が周りに誰も居なかったので、俺に聞いてきたということらしい。
「ほい」
「ありがとー♪」
シャー芯を渡すと、彼女はニコッと笑ってそう言った。誰に対してもそんな態度取るから、勘違い男子量産するのに……という思いもあったが、それは心の中に仕舞っておいた。
永峰とのやり取りも一段落したので、俺は聖城とのわだかまりを解消するため、再び彼女の方に目をやったが……。
悲しいかな。聖城はもう既に本の世界に戻っていた。
*
放課後。午後五時半過ぎ。
明日の小テストに必要な参考書をうっかり教室に忘れていたことに気付いた俺は、今まさに、三階の教室へとUターンしていた。
結局、聖城とはあの後一言も話せなかった。周りに話せそうな男子もいないので、頼みの綱になりそうなのは、永峰くらいと言ったところか。
早いとこ参考書を回収したら、帰ってアニメの続きでも──。
「……?」
三階廊下を渡る途中、いつもなら誰もいないはずの教室から、口論を繰り広げるような男女の声が聞こえてきた。
教室に入る前に、一旦入口近くにあった壁にサッと身を潜め、その音の鳴る方へと目を送る。そこで俺は、衝撃の光景を目の当たりにした。
「ねぇ、そろそろ答え聞かせてよ」
「そ、それは……」
それを見て息を殺した。
誰もいないはずの教室。
そこに立つ男女が二人。
片方は背の高い男で、もう一人は……
聖城?
「き、気持ちは、有り難いです……けど、答えはもう少し待ってくれませんか?」
「君さぁ、告白してきた人には仮交際とかしてたんだよね? なんで俺にはしてくんないの?」
男は彼女の出した案を聞こうともせずにそう言った。そこまで聞いて初めて、俺はそれが告白であることを理解する。
にしても仮交際だって?
普段誰とも話さないような聖城が?
いや、まあ冷静に考えて彼女ほどの美貌の持ち主なら無理もないか。流石に、こんなあからさまな男は、彼女も嫌といった感じなんだろうが。
「そ、そもそも、貴方とは根本的に合う気が──」
「……はぁ」
そこまで彼女の話を聞いていた男はわざとらしくため息を吐くと、なんと次の瞬間、半ば強引に彼女の左手を引っ張った。
「え、ちょっ、ちょっと!」
「君、部活もやってないみたいだし、どうせこの後暇でしょ?」
……まずい。まずいまずいまずいッ!
こんなとこで隠れて見てる場合じゃない!
アイツに勝てる勝てないの問題でもない!
今、ここで俺が止めないと、聖城は──!
「やめ──!!!」
ここで俺が出たところで、この先どうなるかは分からない。それでも俺は決死の覚悟で、一歩を踏み出すことを選んだ……。
その時だった。
グイッ──!!
「……うぅっ!? 痛ってぇぇ!!」
目の前に広がる光景は、俺の予想を遥かに上回っていた。なんと聖城は素早く男の後ろに回り込み、そのまま彼女を掴んでいたはずの腕を流れるような動きで反対にひねり、締め上げてしまったのである。
とはいえ、それだけならまだ現実の
さらにそれを目で追うと、先端部分にスペードのような形をした突起があることに気付く。
それはまるで、悪魔の尻尾のようだった。
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