第9話 青春への切符
俺、渡里 悠哉は考える。
誰しもが自身の人生の主役であり、誰かの人生の脇役であると。
自分の人生は自分にしか歩めないのだから、たとえ日の目を浴びないからといって脇役なわけではない。
そもそも明確な主役なんてものは人生においては存在しないのではないだろうか。
一人称視点で進行していくストーリーの中で、それぞれが意志を持ち自由に生きていく。
そうした世界において、他人は他人を気にしていない。
どれだけ人気者で注目されているアイドルだとしても、自分にしてみればそれは主役にはなり得ない。
それは他人に他ならないからだ。
注目されることが主役になる条件であるのならば、毎日主役が変わっていくことになる。
つまり、この世界に主役など存在せず、自分の人生においては自分のみが主役なのである。
とはいえ他人からしてみれば自分は脇役にすぎない。
すなわち自分の人生は自分のみにしか変えられないのだ。
よって、自分の人生の主役は自分自身である。
Q.E.D.
それはそれとして、俺は今、とても気分が高揚している。
浮かれて誰に見られているのかも分からない廊下でスキップをしてしまうほどには。
というのも、今日は委員会の仕事がなく放課後が自由になったのだ。
最近は委員会やその他面倒な恋愛相談に付き合わされ十分に自分の時間が取れていなかった。
そんな中で突然休みが現れれば嫌でもニヤけてしまうものだろう。
俺は弁当の中身がミキサーにかけられずのも億劫に思わず遠心力を利用して手に持っているランチバッグを振り回した。
そうしてスキップのまま地学室の前にたどり着き勢いよく扉を開けた。
「わっ!びっくりした!」
そこにはいつものように先に弁当箱を広げ昼食を食べ始めている先輩の姿があった。
教室からの距離の都合上、どうしても先輩の方が先に着くことが多いのだ。
座っていた丸型の座面の椅子から3センチほど浮き上がり驚いていた先輩に謝罪をしながら対面の位置に腰かける。
例の卵焼き事件から、俺はこれ以上危害を加えられないよう対面に座るよう心がけている。
「あぁ、すみません。ていうか、なんか久しぶりですね」
「そう?毎日一緒にご飯食べてるじゃん」
先輩は不思議そうに首を傾げる。
「いや、こうして表舞台に出てくるのが」
「メタいよ!?」
「最近小山先輩の出番が全くなくて読者に忘れられるのを恐れた作者が無理やりお弁当回をねじ込んできたんじゃないかと思ってます」
文化祭が始まるとどうしても意識がそっちに引っ張られて日常を書くことが疎かになってしまう。
「だからメタいよ!?」
「そもそもお昼しか面識がないっていう時点で作品に登場させづらいですよねー」
「君、どの目線で語ってるのそれ」
先輩は白い目でこちらをみてくる。
「はっ!?無意識のうちに喋らされた!?」
「それはそれとして、なんか今日テンション高いね」
そういう先輩もなんだかルンルンと楽しそうにしている。
「そうですか?まぁ放課後がフリーになったからですかね」
「いつもは何か用事でもあるの?」
「俺、文化祭実行委員なんですよ」
俺がそういうと先輩は大袈裟に驚き、広げた手を口の前にあてる。
「えーむいてなーい!」
「やめてくださいよ自分で1番思ってるんですから」
「でも君そういうの嫌いなタイプだと思ってた」
先輩は肩肘をついてミニトマトを食べながらそういった。
お行儀悪いですよちゃんとしなさい。
「実際嫌いですよ。責任なんてものはできるだけ負いたくないですし」
「じゃあなんで急に?」
俺のあまりにあけすけな返答に先輩は吹き出しながら聞いてきた。
「それは、美鈴が......あっ、美鈴っていうのは」
「知ってるよ。君の幼馴染でしょ」
先輩と美鈴の接点ってこの前教室に来た時くらいのものだと思うのだが、あの時はごちゃごちゃしててほとんど2人は会話していなかったように思う。
それなのに、どうして、、、、?と思っていると、先輩はニヤニヤとしながら続けた。
「3年生でも有名なんだよ。2年にかわいい子がいるって」
「へー、それはそれは......」
「なに?嫉妬?」
先輩は下卑た笑みを浮かべながら聞いてくる。
「そういうんじゃないですよ。見かけに騙されて可哀想な人たちだなって思って」
「そんなに性格悪いの?」
先輩は意外そうに言った。
「性格悪いわけじゃないんですけどね。俺に対してはあたりが強いんですよ」
「なーんだ。愛されてるんじゃん」
「違いますよ!ただ気心知れてるというか、仲良いだけです」
語尾になるごとにどんどんと声量が小さくなっていく。
実際、今の俺と美鈴の関係というのはとても曖昧なものなのだと自覚しているからだ。
「わかってないなー君は。いい?女の子なんていうのはね、男子からの評価が気になりすぎるんだから。それなのに素を見せるのは相当愛されてるんだよ」
独特な理論を展開しているが、俺と美鈴の間にはもはや愛などは何もなく、ただひたすらに互いへの憎しみのみが残っている。
あいつが俺のプリンを黙って食べるのが悪い。
「そういうもんなんですかねぇ」
「......ちょっと嫉妬しちゃうけどね」
先輩は小声で何かを呟いた。
「何か言いました?」
「ううん。なんでもない。それよりさ、私達もそろそろ進展すべきだと思うんだよ」
先輩は胸を張りながら大真面目にそう言った。
付き合って2ヶ月目くらいのカップルのような会話が繰り広げられそうになる。
「進展といいますと?」
「お昼ご飯だけの関係じゃ嫌だってこと」
先輩は手に持ったお箸の先でくるくると空中に円を描きながら答える。
「まーたしかに、一年以上続けてますもんね」
なるほど、昼フレじゃお気に召さないと。そう仰るわけですね?
「私だって友達と呼べる人がほしいんだよ」
「俺たちもう友達だったんじゃないんですか?」
俺が真顔でそう聞くと、先輩はアニメみたいに崩れ落ちながら苦々しく呟いた。
「こっ、これが陽キャか.......」
吐血でもしそうな勢いである。
「先輩そんな深刻なもんじゃないでしょ」
「まぁこう見えてモテますからね?」
先程とは一転。厚かましいほどの自己顕示欲である。
「その割には彼氏の1人もいないじゃないですか」
俺がそういうと、痛いところを疲れたのかついに手を出してきた。
とはいえポカポカという効果音が着きそうなほど弱いものなので大したダメージにはならない。
「しかたないでしょーいいと思える人がいないんだからー!」
「ほんと、可愛いの無駄遣いですよね」
俺がそういうと、先輩は顔を赤らめながら上目遣いにこちらを見てくる。
「か、かわいい、、?」
「2年でも評判になってますよ。この前だって、先輩とご飯食べてるってだけで危うくさらし首になるところでしたし」
俺は目を逸らしながらどうにかそう答えた。
「ふーん、そうなんだ」
いや人がさらし首にされそうになってんだからもうちょっと心配してくれてもいいんじゃないですかね?
「なんか興味無さそうですね?」
突然態度が変わったので何かまずいこと言ったかな、と思い確認してみるが、どうやら俺の心配は完全に無駄だったらしい。
「だって今までも腐るほど言われてきたし」
「なんでそんな自信満々なんですか」
拗ねるとこおかしいだろ贅沢すぎるよ。
「なんでもいいけど。そういえば今日の放課後暇なんでしょ?ちょっと付き合ってよ」
俺の肩をつんつんとつつきながらそう言ってくる。
「急ですね。何するんですか?」
「まぁ、買い物かな」
「わかりました。放課後ですね」
先輩と学校外で会うのは初めてのことなので、内心緊張しまくりだったのだが、どうにか悟られないように必死に隠した。
かくして、俺と先輩のデートが決まったのだった。
次回、ドキドキ!?放課後ショッピングデート!
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