第4話 結局は顔が全ての世界じゃないか
俺、渡里 悠哉は考える。
青春とは不公平なものであると。
広く一般的に語られる青春というものを享受できる人間は限られており、イメージ通りの青春を過ごした人間は数少ないだろう。
しかし、だからこそ青春には希少性があり、さも綺麗なものとしていつの時代でも羨望される。
桜の樹の下には死体が埋まっているように、綺麗なものの裏には常に隠されたものが存在している。
青春に隠されたドロドロとした人間関係。
すなわち青春とは、友情を破壊するものである。
それをいい思い出として語れるか、黒歴史として胸の奥に封印するのか。
その違いが、青春を享受できたかできなかったかの違いだろう。
つまり、全員に訪れているであろうそれを、考え方一つで全く違ったものに変換してしまう。
よって、青春は不公平である。
Q.E.D.
それはそれとして、俺は現在窮地に立たされている。
こいついっつも窮地に立ってんな。と思った読者諸君。お目が高い。主人公とは窮地に立たされてこそ輝きを放つものなのだ。
ともあれ、俺がこうしてピンチに陥ったのにはいくつか理由があるが、そのうちのほとんどの割合を占めるのが今の俺の一人語りをツインテールを揺らすことで自己主張し邪魔をしようとしているこいつ、蒲谷 光莉である。
蒲谷は俺と小山先輩の密会を目撃した。それだけならばよかったのだが、あろうことかそれを学校中に言いふらして回ったのだ!
いや厳密に言えば蒲谷が言いふらした証拠はないのだが、噂の発信源が蒲谷であることはまず間違いないだろう。
そして俺は今、俺が三股男のレッテルを貼られた原因となぜか学校近くにある大型ショッピングモールに来ていた。
いやまじでなんで??
「待て待て。俺たちはここに何をしに来たんだ?」
俺がそう聞くと、俺の二歩ほど前を後ろで手を組みながら歩いていた蒲谷はこちらを振り返りながら答える。
「え?だって今日は20日ですよ?」
いやAE○Nポイント10倍だよやったね!☆じゃねーよおこがましいよ。
「まぁ真面目な話をすると、小山先輩とのことを黙っててほしいなら私の言うこと聞いてくださいね?っていう話です」
ウインクをしながら蒲谷はそう付け足す。
こっ......こいつ!まだろくに話したこともない上にほとんど素性も知らないような先輩のことを脅してやがる......!?只者じゃねぇぜ.......!
いやまてよ?
「そういう脅しって普通噂を広める前にするもんじゃないの?俺もう学校中に知られてるから今更なんか言われたところで痛くも痒くもないんだけど」
俺は蒲谷の作戦の穴を見つけたと思い、ドヤ顔でその穴を指摘してやった。
すると蒲谷はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「でもまだあーんしてたことは誰にも言ってませんよ?お口チャック」
そうして口の前で両人差し指を交差させる。その仕草やる人初めて見たわ。それもあざといポイントなの?AE○Nだけじゃなくてあざとさポイントも10倍なの?
ていうか痛くも痒くもあるじゃねーか!なんだその特大すぎる爆弾は!?
「おーけー分かった。なんでもするからそれだけは誰にも言わないでくれ」
「今なんでもって言いました?」
やべ、口封じにあまりに必死になりすぎて勢いでとんでもないことをいってしまった.......!
俺はいったいどんな無理難題を吹っかけられるのかとビクビク怯えながら2秒前の自分を恨んでいると、予想外の角度の言葉が飛んでくる。
「それなら、私の相談に乗ってください」
こいつ、不純なのか純粋なのかよくわかんねーなほんと。
「今なんでもいいって言った?」のあとに続くのは1つの例外もなくいかがわしい要求だってのは相場が決まってると思っていたのだが。
「まぁ、相談くらいならいいけど」
「やったー!まぁここじゃなんですし、ス○バでもいきますか」
そうして俺たちはモール内に併設されたカフェへと向かう。
「せんぱぁい。わたしぃ、キャラメルフラペチーノが飲みたいですぅ」
店内に入るや否や、俺はキャラメルフラペチーノよりも甘い声でそんなおねだりをされる。
「いや知らねーよ自分で買えよ」
なまじ高校生にとってフラペチーノというのは中々値が張るものである。
そんな俺の返答に蒲谷はため息を零すと
「あーん」と言った。
俺はその言葉に弾かれたように顔を上げる。
「買わせていただきますぅ!?」
所詮男とは、弱みを握られると力に屈してしまう悲しい生き物なのだ。
注文した商品を受け取り、俺たちは辛うじて空席を確保し腰を落ち着ける。ちなみに俺は抹茶フラペチーノにした。
「それで、相談だっけ?別にいいけどどうせ自分が可愛すぎて辛いとかそういうのだろ?」
「違いますよ!私のことなんだと思ってるんですか!?」
蒲谷はツインテールをぶんぶんと揺らし否定してくる。
「アイドルでもないくせにSNSに自撮り写真ばっかあげてるような自己顕示欲と承認欲求だけで構成されてるバケモノ」
「偏見が酷すぎません!?あとその言い方は多方面に敵を作りすぎてますから!!」
「他に悩みなんかあるのか?」
「ありますよ!ふつーに......恋愛相談、的な?」
蒲谷はそういうと、視線を落としなにやらモジモジし始める。
「おいおい、冗談は程々にしろよ?」
「何が冗談ですか!」
「だって、俺相手に相談するなんて、ほとんど告白も同然じゃないか」
俺のその言葉に蒲谷は顔を上げると、ゴミを見るような白けた目を俺に向けてくる。
「は?いったいなにを言ってるんだろうこの人は。モテなさすぎて現実逃避し始めたんでしょうか一度病院に行って検査してもらうべきですねえぇもちろんそれが最善です人類のためにも」
息継ぎすることなく思っていることを言い切る。いや肺活量すごいな。水泳選手にでもなったらどうだ?
「いや言いすぎじゃない!?だって昨日一目惚れしたって言ってたじゃん!!」
「あーあれですか?あれはなんか一目惚れっていったらお隣の女の子が面白い反応しそうだなぁって思って。あれ?もしかして期待しちゃってた感じですかぁ?こんなに可愛い後輩に一目惚れされたって、本当に思っちゃってた感じですかぁー?恥ずかしいー!」
やめてくれ、俺のライフはもうゼロよ.......。
ていうかあの一瞬で美鈴の扱い方を見抜くとは、お主相当やりおるな......?
「それで?実際は誰が好きなんだ?」
俺のその質問に蒲谷は少し考え込むと、恥ずかしそうにはにかみながら答えた。
「それが......好きな人がいないんです」
「は?恋愛相談じゃないのか?」
「そのぉー、好きな人がいないのが相談というか。私って今までそういうのできたことないんです。告白なんかはもう覚えてないくらいされたんですけど」
なんだ?自嘲風自慢か?かかってこいよ。俺はそういうタイプにも平気で手を出せる男だからな。
「それでも、そういう人は大体、私の顔しか見てないんです」
あーなるほど。容姿ばかりを気にして内面を見てくれる人が少ないっていうやつか。大変そうなもんだなー、まったく。
「容姿も大事だと思うけどな。第一印象なんかはほとんどそれで決まるだろ」
「それはもちろんわかってますよ。でも、それだけが理由になっちゃだめじゃないですか。人の内面をよくも知らないまま好意を抱くなんて、そんなの本当の好意なんて言えません」
なんか、こいつ、、、
「純粋すぎじゃね?そんなに初恋に理想抱いてるの?やめとけよ傷つくのはお前だぞ」
俺が蒲谷に現実を見せてやろうと正論を言うと、蒲谷は口を尖らせて反論してくる。
「私は初恋の人と一生添い遂げるんですー」
「お前の初恋の人がお前のこと好きになるとは限らないだろ」
「は?私に言い寄られて靡かない男がいるとでも思ってるんですか?」
蒲谷は本当に信じられないものを見たという顔で俺に言ってのける。
どうして俺の周りにはこんなにも自分に対する評価が天元突破してるやつばかりなのだろうか。
「私は思うのですよ。いいですか?どんなにガードが硬い男の人でも、両手足を縛って監禁すれば最終的には私のモノになるんです」
よくねぇよ何思想強めの犯罪計画立ててるんだよ。YouTubeによく転がってるシチュエーションボイスかお前は。
「やってること洗脳じゃねーか許されるわけないだろ」
「まぁそれは冗談ですけど。ただまぁそういう恋愛に嫌気がさしてたといいますか。それが原因で好きな人もできなくなったわけですよ」
「難しい話だよなぁ」
「ちなみに先輩は彼女とかいたことあるんですか?」
俺はまだ失恋(俺自身が認めたわけではないが)の痛みから抜け出せていないので、自分の過去の恋愛に対する質問はなるべく答えたくなかったのだが仕方がない。
「丁度一年前くらいかな。高校入学くらいで振られたけどいたよ」
できるだけ未練がないと思われるように、声になんの感情も込めずに答える。
「えぇその人見る目ないですねー先輩を選ぶなんて」
「あんまり思ってても言うもんじゃねぇよ!?」
「で、先輩はその人のどこが好きだったんですか?」
俺は、あいつのどこを好きになったのだろうか。どこに惹かれたのだろうか。
そうして過去の記憶を探っていると、今までの思い出が浮かび上がってきて泣きそうになってしまった。しくしく。
「改めて聞かれるとよく分からないけど、やっぱり顔だったんじゃないかなぁ」
「は?先輩最低ですねほんと。上っ面でしか人を判断できないなんて見損ないましたよ」
いつもの甘ったるい声はどこへやら。2トーンくらい下がったドスの効いた声で罵声を浴びせられた。
ねぇそれほんとやめて。新しい扉が開きそうになるから。
「まてまて話は最後まで聞け」
隙を見つけたらすぐ罵声を浴びせる癖どうにかした方がいいぞほんとに。今後の人付き合いに関わってくる問題だからなこれは。
「なんですか言い訳ですか?いいでしょう聞きましょう」
あぁ聞いてくれるんだ。言い訳ではないけども。
「もちろん性格とか声とか、色々好きなところはあったけど、やっぱり俺はあいつの笑顔を見るのが好きだったんだと思うよ」
「へー」
俺が涙を堪えながら話したその内容に、蒲谷は心底興味がなさそうに返す。
どうやら蒲谷は俺の恋愛よりもフラペチーノの方に興味があるらしい。
「いや自分から聞いといて興味なさそうだな!?」
「そんなことないですよー」
そういってフラペチーノを飲み干すと、蒲谷は席を立ち上がって言う。
「なんか吹っ切れました!好きな人とかいりません!今日はありがとうございました!」
真面目な話をしていた時の姿はなりを潜め、いつも通りの蒲谷が見れて安心した。
「あぁ、なんかよく分かんないけど、力になれたならよかったよ。もう暗くなってきてるけど、送ってかなくても大丈夫か?」
外に目を向けると、もう日は沈みかけ街は夕日に照らされていた。
春にはなったものの、まだ日が落ちるのは早いらしい。
「大丈夫ですよ。先輩の家と方向真逆ですし」
「そうか。じゃあ気をつけてな」
蒲谷はそういうと、1人でどこかへと歩いていく。
俺はその背中が人混みに紛れ見えなくなるまで見届けると、少し離れたところにあるバス停へ向け歩き出す。
いやまてあいつなんで俺の家の方向なんて知ってるんだ!?
俺は自身のプライバシー管理をより一層強化しようと心に決めたのだった。
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