15匹目 アヒージョはほぼ油である


 腕まくりをしてエプロンを締めたエドアルド様。手には……オリーブオイルが二本?


「まずは鍋にピュアオリーブオイルを引く」


 おお……凄い量だわ。ドボドボって。そして包丁の横でたくさんのニンニクを潰して、その中に投入。鷹の爪も忘れずに。あと、オレガノも追加。臭み消しなのだとか。


「ここで気をつけるのは焦がさないことだ」


 いつにもまして真剣な顔だわ。ハマっていただけあってこだわりがあるのかしら。……横から見ると鼻が高いってわかりやすいわね。


「最初はマッシュルームを入れる。味に深みが出るからな」


 こちらに見せてから、スッと縦半分に切って投入。そして包丁を洗って。シンクに入れておいたのに、また逃げ出そうとしていたあれを掴む。


「まあそろそろ捌いておいた方がいいだろう」


 さようならタコさん。美味しくいただきます。

 というわけで……言語化はやめておきましょう。頭を裏返すとか臓器を取り出すとか、脳内でもちょっと戸惑うくらいにはグロテスクだわ。へなちょこに思っていたけれど、やっぱりマーレリア王国の王太子殿下なのね、エドアルド様って。ちょっと尊敬するわ。


「今回入れるのは、このタコにエビ、イカ。あとはプチトマトとブロッコリーだな」


 ジュワジュワジュワッと音を立てているオリーブオイルに具材を順番に入れていって。


「水分をしっかり切っておくことで、うまみが薄まらないようにする」


 あとはじっくり煮るだけ。ここで重要なのが加熱しすぎないように気をつけること。食感とオリーブオイルの風味を損なわないようにするらしい。ああニンニクのいい匂い……。

 そして煮ている間にバゲットを切っているエドアルド様。そ、そんなに切るんですか……?


「気になるか?」

「……私は海鮮の方が好きです」

「まあ待て。あとでのお楽しみだ」


 バゲットを切り終わったエドアルド様はなんと……鍋にオリーブオイルを足した。しかも違う色の瓶のやつ。どういうことなの?


「これはエクストラバージンオイル、つまりオリーブでも一番しぼりで香りの強い貴重なものだ」


 嗅いでみるか、と言われたので素直に嗅ぐ。確かに香りが強いし高級な感じがするわ。

 そしてパセリを入れて、塩胡椒で味を整えて……。


「ほら、できたぞ」


 味見してみろとタコを差し出されたのでパクりと。こ、これはっ……。

 思わずエドアルド様を見ると、満足気にニンマリとしている。もう一個食べたくて口を開けたけれど、あとは食卓でと鍋ごと運ばれてしまった。ケチ。匂いに引っ張られるようにしてついていく。


「「いただきます」」


 金色に光る油に浸かった海鮮たちに手を伸ば……したところで掴まれた。え、なんですか?


「まずは、バゲットからだ」

「えぇ……」

「騙されたと思って」


 海鮮達が私に食べられるのを待っているのに……と思いながらも浸して食べてみる。

 じゅわっと海鮮の旨みが広がり、上質なオリーブオイルの香りが鼻を抜けた。鷹の爪と塩胡椒がピリリと味をしめて……。


「お、おいしい……」

「ふん」

「油なのに海鮮だわ!!」


 エドアルド様のドヤ顔がむかつくのにむかつけない……逆にケチとか思ってごめんなさい。


「口にあったようでなによりだ」

「おいしいです!」

「そうか」


 油につけて、食べて。つけて、食べて……。そうしてるといつのまにか油が少なくなっていた。


「ここが、海鮮を食べる時だ」


 そう言われたので、タコ、イカ、エビを口に放り込む。ぎゅもぎゅもプリプリ……食感が楽しい! プチトマトはオリーブオイルと混ざり、ブロッコリーはしゃくしゃくとしつつも油を吸っていて……。


「ふっ」


 そんな私を凝視しつつちびちびとお酒を飲んでいるエドアルド様。お顔が真っ赤だわ。


「かわいいなぁ……」


 どうやら悪酔いしているらしい。

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