第12章 コンタクト 

「マキオにコンタクトを取る事は出来ます」



 佐藤はアキオの言葉に疑問を感じた。

なぜかと言うと、先ほど彼はマキオのことは何も知らないと言っていたばかりなのだから。それなのに連絡ができると言う。


「アキオさん。でも、今さっきマキオのことは何も知らないと言ったばかりなのになぜ連絡を取る事が出来るんですか?本当はマキオの住んでる所も、何もかも知ってるんでしょう。」


佐藤はアキオの矛盾をついて詰め寄った。しかし、アキオの返事はまったく同じだった。


「いえ、彼の在所も何もかも私達は知りません。マキオが私達にコンタクトを取る時は彼から一方的に行われるんです。」


そのアキオの答えに、黙っていたタケオが同調して付け加えた。


「佐藤さん。アキオさんの言う通りなんです。マキオは自分達の家や電話番号は知ってます。それは、自分達がマキオに教えたからです。でも、マキオは本当に自分自身の事は喋りませんよ。そう言う話題を、あいつと会った最初の頃は出しましたけど、あいつは話題が自分のプライベートな事に触れる事になると突然姿を消してしまうような勝手なやつなんです。俺には特にです、あいつは俺の事を馬鹿にしているんです!だから一方的に都合の良い時に連絡して来て、それ以外は音信不通なんですよ!だから今回、勝手に俺の連絡先を書いて番組に手紙を出すような事をするやつなんです!」


タケオは興奮して顔を真っ赤にしていた。そんな、タケオをたしなめるように秋生が言葉を遮った。


「タケオくん、たしかにマキオをは変わった男かも知れないが基本的には良い男だよ」



 アキオとタケオのやり取りを聞いていた佐藤は、そんな彼等のやり取りなどどうでも良いと思った。問題はマキオと連絡がとれるかどうかなのだ。


「アキオさん、それではあなたはどうやってマキオと連絡をとるつもりなんですか、住所も分からないのに連絡は無理でしょう?まさかテレパシーとでも言うんじゃ無いでしょうね」


アキオは佐藤のいら立ちをよそに冷静に答えた。


「彼とは電話で連絡します」


その至極当然な答えに佐藤は呆れた。


「電話!?電話って彼の住所も何も知らないのに電話番号は知ってるんですか!電話番号が分かれば、だいたいどこに住んでいるか分かりそうなもんじゃ無いですか!」


その次にアキオが発した答えは、増々佐藤達を困惑させた。


「携帯電話です。マキオは携帯電話を持っているんです」


今では携帯など誰でも持っているが、1990年代初頭の当時においては携帯電話の普及は極少数の人達に限られていたのだ。


それだけに、増々マキオという人物が分からなくなってしまった。


「アキオさん、マキオは携帯電話を持っているんですか!何者なんですか彼は!たしかに携帯では住所は分からないな」


佐藤は続けた。


「でも、彼がその電話に出る可能性はあるんですか?!」


多分出るだろうとアキオは答えた。

当時の携帯電話は現在の高性能な携帯とは異なり電池性能も高く無かったため、電源を入れっぱなしと言う事はそう多く無かった。

どちらかというと一般の電話に出先から一方的にかけるという使用法が多かったのだ。そのために使用しない時は電源をOFFにしている事が多かった。


しかし、アキオの言うにはマキオは夜ならば携帯の電源を入れていると言った。

何度か夜に彼と連絡を取った事があるらしかった。


その連絡法には約束があり、3回のコールサインをすると言うのが暗号のようだった。



「電源をマキオが入れているか、これは分かりません。運が良ければつながります」そう言ってアキオは事務所の電話の受話器を上げた。

アキオが電話のプッシュボタンを押すのを佐藤は見ていた。たしかに一般家庭の電話番号では無い。携帯独自の番号だと言う事が佐藤にも分かった。


受話器に耳を澄ませていたアキオが、見守っている佐藤達に向って言った。


「つながりました。呼んでます」


アキオはマキオとの暗号通りいったん電話を切り、もう2回その動作を繰り替えした。
そして3度めのコールサインがマキオの携帯に送られていた。

マキオが電話に出るかはこの3度めのコールサインにかかっているのだ。


しばらくコールサインが続いた後、アキオが受話器に向って話し始めた。



マキオが電話に出たのだ。

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