第11章 OMEGAPOINT

 アキオがマキオと出会った経緯は何となく分かった。


 しかし、その後彼等はどのような関係を持ち続けているのか、そしてタケオとマキオとの関係はどうなっているのか。


佐藤と高山にとっては今だマキオの存在は謎のままだった。

そして、アキオが言う所のマキオの哲学とは何なのだ。



 話を聞いていた佐藤が、予想どおり口火を切った。


「アキオさん。あなたがマキオと出会った経緯はなんとなく分かりました。それで、その後の関係はどうなったんですか?今でも接触はあるんでしょう?」


佐藤は疑問点を次々とアキオにぶつけた。


「それに、今あなたの話を聞いていて気付いたんですが、あなたがマキオのバイクのタンクに描かれていた文字、OMEGAPOINTを口に出して読んだ事がマキオがあなたに興味を持った切っ掛けと言うような感じがするんですよ。そして、そのOMEGAPOINTの文字は僕が最初にこの部屋に入って来た時から気になっていた、あなたのこのジーンズの上着の背中にもパッチされているじゃないですか。このOMEGAPOINTがマキオとの接点でも有るようなキーワードのような気がするんですけど」


一気に佐藤はまくしたてた。

その問いかけに対してアキオは逆に問いかけたのだった。


「佐藤さん。最初にこの部屋に入った時から気になっていたと言う事は、佐藤さんあなたもこのOMEGAPOINTの意味は知っているんですね。」


意外なアキオからの問い返しに、同席していた高山も驚いた様子だった。


「社長、このOMEGAPOINTの意味を知っているんですか?」


高山のこの問いかけにアキオも興味を持っているようだった。


 このキーワードの意味が理解出来る事によってマキオとの関係も説明しやすくなるとでも言うような顔をしていたからだ。

佐藤は高山に答えた。


「ああ高山君、多分近い答えが言えると思うよ。このOMEGAPOINTと言う言葉は字句どおりに訳せば<オメガ点>と言う事になるんだけどね。

ようするにオメガというのはギリシャ文字の最後の記号、英語のアルファベットで言えば<Z>になるわけだ。そして意味としては最後、究極ということで最終点、究極点という意味になるわけだけど、実はもうひとつこのOMEGAPOINTという言葉には深い意味が有るんだよ。

じつはね、19世紀後半から20世紀にかけて存在した、フランスの神学者でテイヤール・ド・シャルダンという人物がいるんだけど、

彼の提唱した哲学がOMEGAPOINT理論なんだ。

深遠な思想なんで説明は難しいけれども、あえて簡単に言うと、この世界に存在する物は全てが進化の途上にいる、そしてその進化の最終点がオメガであるということなんだ。そしてそのオメガとは何かと言うと、キリスト教の神学では神の領域の事なんだ。

ようするにキリストだよ、彼は自分の事をこう表現しているからね<私はアルファにしてオメガである>とね。ようするに最初にして最後、全ては循環して螺旋状に進化して行く。そして最後は神の領域の高みまでに全ての存在は進化して行かなければ成らないと言う事なんだ。

シャルダンに言わせれば人類だけで無く、動物も植物も鉱物も、そして究極の状態においてはこの地球自体さえも、進化の究極点であるオメガポイントを目指す事が宿命であると言うわけだ。そうすることによって、全ての存在が新たなる進化の局面に前進すると言う事らしいんだな」



 そこまで一気に佐藤は話した。

それを聞いていたアキオは一瞬無気味な笑みを浮かべたように見えた。

そして、こう言ったのだ。


「佐藤さん。そこまで知っていればもう僕の説明はいりませんよ」


そして突然こう言い放ったのである。


「佐藤さん、高山さん。今の話、ようするにOMEGAPOINTが意味する事がなんでマキオに関係するのか、そして、なぜバイクに関係するのか、後は直接マキオに会って聞く事が一番ですよ。わかりました。多分今の話からすれば佐藤さんはマキオの話が理解出来ると思います。今、マキオを呼びましょう」


突然のアキオの言葉に、タケオを含めたアキオ以外の全員が絶句した。

そして、タケオの表情が一瞬歪むのも佐藤は見逃さなかった。


<これは、思わぬ展開になってきたぞ!>


 

 佐藤は興奮を隠せなかった、そして隣に座る高山の表情を盗み見た。高山の表情は驚くほど平静を保っていた。

しかし佐藤は高山のその表情がレーススタート直前のスターティンググリッドに着いた時の表情と全く同じと言う事に気付いていた。


そして、アキオに改めて問いただした。



「マキオを呼ぶ事が出来るんですかアキオさん...」

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