第8章 アルケミスト

「マキオとの重要な接点を持つアキオなる人物とは何者なのだ....」




 アキオの事務所でタケオがマキオと出会った事はわかった。


そのアキオと言う人物とマキオは古くからの知り合いなのか、同じバイク仲間なのだろうか、アキオはマキオの情報を我々に教えてくれるのか.....。


佐藤はタケオの話を聞きながら自問自答していた。その夢中をさえぎるように高山が話しかけてきた。


「社長。そのアキオさんて人に会うのが手っ取り早いですね。社長も凄く興味が在りそうだし」


確かにその通りだった。

少なくともタケオよりはアキオのほうがマキオとの関係が長そうだし。


この後タケオから話を聞き出しても、また同じ事をアキオから聞く事にもなりそうだ。


それならばアキオに直接会い、マキオに関する情報や、コンタクト先を聞き出した方が手っ取り早いのは明らかだ。


佐藤はタケオに言った。


「タケオ君。そのアキオさんて人に会えないかなあ。」


タケオの返事は明確だった。明らかにマキオに対するものとは違っていた。


「ああ、いいですよ!いつがいいですか?」


本当に気軽な返答だった。

それは、タケオがアキオとはいつも会っている事が推察できる受け答えだった。


「出来れば、これからでもいいかな?」

佐藤がタケオに遠慮がちに聞いた。


「わかりました。あ!でも内容だけアキオさんに説明してもいいですか?」


佐藤の脳裏に一瞬不安が過った。

それは先程考えていた事だ<マキオの事だとアキオは会わないのではないか?>
「タケオ君、アキオさんはマキオ君のこと、どう思ってるのかな?」


タケオは佐藤の不安を察したようだった。


「佐藤さん心配ないですよ!マキオは自分には強い言い方するけど、アキオさんには一目置いてるみたいですから。それにアキオさん、いい人ですよ。佐藤さんとも話があうんじゃないですか!?」


これで、なんとなくこの3人のバランス関係が見えたと佐藤は思った。


「ちょっと、電話して来ますアキオさんの事務所へ!」


そう言ってタケオはファミレスの入り口近くにある公衆電話へと向った。高山が佐藤に口を開いた。


「社長。いよいよキーパーソンの登場ですね」



「ところで、高山君。タケオ君にこれからすぐになんて言っちゃったけど、今日東京に帰らなくてもいいの?」


たしかに、その通りだった。

高山は「バイカーズロード」の取材と打合わせで昨日から来ていたが、そろそろ東京に戻らなくてはならない時間だった。


「いや、社長だいじょうぶですよ。明日の早朝に戻ればOKですから。それに面白くなって来たじゃないですか、マキオに一歩近付いたし」


そんな話をしている途中でタケオが電話を終えて席に戻ってくるのが見えた。

タケオは顔に笑みをうかべて手でOKサインを出していた。


「佐藤さん、高山さん、アキオさんはOKですよ!事務所で待ってますって!」



3人はファミレスを出た。



佐藤の運転するクルマを先導しながら、タケオのZ1300は前橋市内に向った。

車重の重いZ1300をタケオは自在にあやつりながらクルマの流れをぬって行く。

ときおり、こちらの位置を確認しながら。


「なかなか、スムーズな走りですねタケオ君。あれだけのバイクを乗りこなすのは難しいですよ」


佐藤もクルマを運転しながらタケオの走りに感心していた。

決して無理な走りをしていないが、人車一体の見事な走りだった。

それに、こちらに対する気遣いも忘れない走りだった。


<こいつは、基本的には善良なヤツなんだ。>佐藤はそう感じていた。


しかし、マキオは違う。タケオとはまったく違う別種の存在だという確信は消えなかった。


「高山くん、マキオはバイク何に乗ってるのかねェ」


それとなく佐藤は高山に聞いた。

タケオがファミレスで話した例の赤城山の話では、マキオは自分のバイクを車検に出していたとかで、代車のZ1000Jに乗っていたからだ。自分のバイクに乗っていたら、どんな走りをするんだろう。高山が答えた。


「まさか、マキオ君もZ1300だったりして!マキオ、タケオ、アキオの3人でZ1300トリオだったら凄いですね!ハハハ!」


佐藤もつられて笑った。

「そりゃ凄すぎだよ!ハハハハ!!」


「でも、もうすぐ色々な謎が解けるんじゃないですか、アキオさんに会う事で」


 タケオのバイクは前橋市街を抜けて、さらに郊外へと北上した。

しばらくしてウインカーのシグナルを出して道沿いにあるマンションの駐車場へと入っていった。
そこがアキオの事務所があるマンションだった。


「社長、ここは前橋のどのあたりになるんですか?けっこう北上しましたよね。それに赤城山も近い感じだし」


アキオの事務所が在るマンションは前橋市内でも郊外に位置した、赤城山へ登る県道の途中に在り、前橋市街の夜景がきれいな所だった。


「けっこう登ったよ。いい所に事務所があるなあ。走りには最適の場所だぜ、ここは」


タケオがZ1300を駐車場の端においてクルマに近付いてくる。

佐藤と高山はタケオに指示された場所に車を止め、マンションの入り口に向った。

途中でタケオが駐輪場の端を指差して小さなプレハブの小屋を示した。アキオ専用のバイク用ガレージだと言う。マンションの大家に許可を得て建てたらしい。


<バイクには相当気を使ってるなぁ。あの中にアキオのZ1300が入ってるのか>

アキオのマンションは5階建で、部屋は最上階にあった。


「ここです。アキオさんの事務所は。」


ドアにステンレス製の小さなプレートが貼ってあり、そこに会社の名前が書かれていた<アルケミスト>と。


「アルケミスト」とは錬金術師を意味する言葉だ。


<なかなかいいセンスをしてるな。アルケミストとはね....。趣味が合うかもナ>

と佐藤は思った。


タケオが呼び鈴を押した。

しばらくしてドアが開いて部屋の主が顔を出した。その風貌はタケオが話したとおりの髭面、長髪の男だった。

にこやかな笑顔で迎えてくれたその人物はしかし、独特のオーラのようなものを放っていた。




「いらっしゃい。お待ちしていました。」


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